農業から見た現在・レジメ

***講座「吉本隆明・農業論」***

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「さまよえる農業問題」への註

吉本隆明「〈戦後〉経済の思想的批判」の三章「構革論とさまよえる農業問題」
(『自立と日常ー更に、また現在より起てー』蒼氓社一九七四年発行パンフレット 所収)より要約


 高度経済成長政策の標識である重化学工業の、工業的生産性が問題とされたその対極で、農村からの労働力の流出にともない、必然的に農業問題がもうひとつの標識としてせりあがってきた。

 農業(村)問題は、高度成長政策なるものをとってゆくかぎりは、農業生産における資本主義化ないしは資本制化というものが、当然問題として浮上してくる。ここで非常に難かしいのは、農業経営自体を封建的な農業経営から、いわゆる資本主義的な近代的農業経営による農業問題というようなところへ転化してゆけば、農業問題自体は解決されるか、というと決してそうじゃないということだ。

 なぜなら、大なり小なり農業問題自体が、〈土地〉というものに依存しているという単純明解な事柄がある。つまり、生産性のみに依存するのではなくて、その生産―再生産という、生産過程での繰り返しのなかで、土地制というものがどういう意味合いをもつかということが、とてもはかり難い問題になってくる。

 農業経営自体を近代化してこぼれおちた農業人口を、高度成長政策による重工業の方に転化してゆくということで問題が解決されるかのごとく、戦後の日本の政治支配者は、経済問題を考えてきたといえよう。しかし、本当のところ農業問題自体は彼等が考えたように簡単な問題ではなかった。その問題の焦点は、〈土地問題〉自体のなかにある。つまり、土地という問題をはなれて――土地という意味は、必ずしも地代との対比範囲ということに限定されないが、それでも土地そのものなのだ。自然性としての土地ということそのものに農業が全面的に依存している、というそのこと自体の問題がよく解かれない限りは決して解決されない。

 工業化と土地制――農業問題をめぐるアポリアは世界的なレヴェルからもいえる。かっての中共の幹部が世界を三つに区分して、いわば後進国、中進国、先進国みたいに区別して、後進地帯が先進地帯を打倒してゆくことに現在の世界革命の課題があると発言するまでに変質してみせた原因が決してないわけではない。その必然性を生じせしめているものは、実に土地というものの自然性というものと人為性の問題の度重なる矛盾、その土地をめぐる矛盾の累積というようなものに帰着するといえよう。マルクスの理論から言ったら最大限の逸脱であり、まったく問題にもお話しにもならない考え方がなぜ出てきたかといえば、やはり農業問題、いってみれば農業問題の基本に横たわっている土地制の人為性ということ――土地のもっている自然性ということと人工性という、そういう連関をうまく解き得ないというところにそういった理論が出てくる余地があり、また一定の影響力を占める余地がある。マルクスに言わせれば、国家の消滅なしに世界革命なんてあり得ない。あらかじめ、理論的にあり得ないということははじめから決まっているわけだ。

 経済共同体的な高度成長的な考え方のなかには、何ら解放の問題もなければ、階級の問題もないという、ないないずくしへの反発として、例えば、中共が民族独立を含めた様々な闘争を革命の課題とするということで、中ソ対立というのが起こってきた。ここのところをもっと根底的に言ってしまえば農業問題、あるいは農業問題自体が資本主義自体によって、あるいは農業の資本主義化ということ自体によっては、どうしても解決されないということだ。この解決されない問題というのは、いわば世界的な規模で農業問題というものが、一種のさまよえる課題、非常に大きな課題として存在するということを意味する。単に経済現象としてどうみるかというような問題に留まるものでもなく、また単に一国における高度成長にともなう様々な危機の問題なんかじゃない。現在の世界的な規模における危機の集約点 というものが 農業と密接不可分な関係にある土地制というもの、土地の自然性と人為性人工性というもの、そうしたさまよえる農業問題ということに、そしてもうひとつは、技術革新、技術振興にともなう経済共同体的な考え方、そういうものに集約される考え方との両極における激しい激突、対立というようなものとして、生じてきているといえる。これは、経済学者が経済学的に解けるという問題じゃなくて、一種の思想的な課題、政治的な課題というような問題として、現在まことに切実な課題として生じている。(吉本隆明「〈戦後〉経済の思想的批判」の三章の構革論とさまよえる農業問題、『自立と日常ー更に、また現在より起てー』蒼氓社一九七四年発行パンフレット 所収より要約)kyoshi@tym.fitweb.or.jp


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  「さまよえる農業問題」への註/kyoshi@tym.fitweb.or.jp