第一回目は一九八七年十一月八日午後、長岡駅にほど近い北越銀行ホールで、『「農村」の終焉ー高度資本主義の課題ー』と題して行なわれた。農業問題の発生から始まり、『農業白書』昭和六十一年版のデータを高度で妥当な資料として読み込むかたちで農業の現在を浮き彫りにしながら、都市と農村の対立期は高度資本主義社会では離脱していると判断する第三の観点の必然性が強調されるとともに、資本主義保守革命と反動革命という当時の対立中の二傾向に対して徹底的な批判が加えられた。反動と保守との逆立傾向を示す例として大前・竹村農政改革論対岸本重陳(農山漁村文化協会)に代表される対立型論議の無効の構図が指摘され、ともに民衆が対等に交流できるという視座が欠けていたことが誰の目にも明らかになった。国鉄民営化に示されたように先進資本主義国は一般大衆対労働者の対立があった場合を考慮すべき段階に入ってしまっており、最も先端的な場面では真理に近いことを言う以外に生き延びる術が無くなってしまっている。国家の利益と資本の利益の対立に際しては当然資本の利益が擁護されるべきだし、一般大衆が国家を無記名投票でリコールできるというかたちで国家は開かれねばならないこと、などが強調された。
講座「吉本隆明・農業論パート2」は一九八九年七月九日、夏の長岡の街を出てすこし登ったところにある長岡短期大学の一教室を会場に、黒板をはみだすようにはりめぐらされた模造紙にたんねんに書き込まれたレジメを用意して行われた。講座の時間が朝の十時から夕方の五時までという長丁場であったが、ふところが深くてタフな吉本氏の話しぶりのおかげで伸びやかさに満ちた一日となった。
吉本・農業論の最終回は、一九九一年十一月十日、晩秋の長岡の中越高等学校会議室で「農業から見た現在」と題して話された。