トランプ



平成10年正月早々と言うことではないが、英語で trump ドイツ語でも Trumpf は「切り札」「奥の手」「万能なもの」の意味らしい。発音は違うが英独語ともに同じ綴りである、勝利 triumph からの派生語だろうか。フランス語では atout と triomphe で関連はなさそうである。日本語ではなぜか英語の card 、ドイツ語の Karte 、フランス語の carte をトランプとよんでいる。が、ここで述べたいのは、トランプのシャッフルに見立てての日本のシステム論議であり、一つのグローバルスタンダード論議でもある。

トランプのシャッフルには、いくつかの方法があるようだが、共通するのは、どのカードも同じ方向を向いていなければならない点である。たとえば、左右両手に持った一方が横で、片方が縦ではシャッフルはできない。「日本の常識=世界の非常識」ということが言われて久しいが、世界の標準は横のものが、日本では縦になっていてシャッフルできない、というものが多いように思われる。いわゆる縦割り社会であり、内には労働市場の形成と市民の自立を阻み、外には国際化を阻んできた。

55年体制の日本では、労組は官公労は勿論、民間労組も一部上場、二部上場の恵まれた職場の、職場単位の縦割り労組で、本当にカバーしなければならない人たちを蚊屋の外におき、既得権益を守ろうとしてきた。社会党も民社党もそうした労組の党でしかなかった。蚊屋の外におかれた人たち、多くの中小企業の従業員は日々の生活の糧を得る会社の営業面、経営面にプラスになる自民党の支持者とならざるをえず、元気のよい人たちは自営業者あるいは中小企業の経営者となり、自民党を支持してきた。その中に加わらない、加われない人たちが共産党や公明党へ流れていった。

「自立した市民」が「自立した個」としてあるためには、憲法が保障し、現実には保障されていない「職業選択の自由」こそ必要なのである。職業選択の自由は「転職の自由」、「独立・起業の自由」、「転業の自由」の3つがあって始めて保障される。そして、これらいわば憲法違反状態を形成してきたものに、右肩上がりの成長経済の中での企業の「労務管理の在り方」とともに「日本の労働組合の特殊性」があった。また、ここにマルクス経済学の系譜の人たちががはりつき特殊な日本の労働界をさらに特殊なものにしてもきた。

今、社会の変革のときを迎えて、本当に改革できるのは実務を知らない学者や政治家ではない。法整理での官僚を含め、ミクロ経済(市場)の実務経験をもった人たちであろう。従来、組織やシステムの欠陥・問題点というものは、多くの場合、内部告発を通じてスキヤンダル化し、その都度、抜本的対策がとられぬまま腐敗を拡大してきた。これからの開かれた社会を実現するためには、元内部の人が外部に出て、心おきなく告発できるシステムが必要である。そうした多くの人々が、積極的・建設的に現場の知識を語り、行動する社会とするには、圧力団体や利権集団の一員として、あるいはどこかに本籍地をもって天下ったり出向したりして自己規制し、口を閉ざすのではなく、囲い込まれている職場から飛び出してこれる労働市場が形成されなくてはならない。これはラジオやテレビなどのAGC (Auto Gain Control) やAFC (Auto Frequency Control) の回路のように、出力(out-put)信号を制御部分へフィードバック(feed-back)して増幅率などを自動的に制御するような機能をビルトイン(built-in)することにもなろう。(このたとえからすると、今の日本のシステムはAGCがされない点で「鉱石ラジオ」と大差はない。)

それは従来のタイトで縦割りの終身雇用ではなく、雇用契約の見直しがいたるところで行われ、飛び出しても潜り込める隙間がいくらでもある、期間限定の年俸契約雇用の社会である。そして今、日本企業は終身雇用を維持できなくなりつつある。日本型労組が恵まれた職場の縦割り労組ではなく、社会に普遍性をもった横割りの職別労働市場に適合する労組として、市民の国内のみならず世界を股にかけての転職や起業を支援するものに自己改革できるのかどうかが問われていたのである。水が凍れば壊れるガラス瓶のような社会ではなく、膨張伸縮する圧力に柔軟に対応できる社会をめざすためにもである。

縦割り社会の弊害はこればかりではない。理工学系のシステム制御の人たちが政治や社会の制御システム作りに参加できるようになれば、ということなどもそうであるし、学校教育の理系文系の区分けの問題点や、大学から大学院での専攻変更などでの行き来自由とする件などもあるのだが、「政治と社会全体の制度的ミスマッチ(不整合)を解決する」ためにも、まず「異質な国=日本」の大いなる具現者の一つ、労組の解体的改革が必用と思われる。昨年暮の新進党解党を受けて、取り敢えず「民友連」が結成されたが、今後もさらにシャッフルが予想される。次回はグローバルスタンダードに合わない日本型労組の改革の方向性をも示すものであってもらいたい。自立をめざす市民のシャッフルが可能な切り札がもとめられる。

井浦幸雄氏の金融・意識改革
木村秀雄氏の世界の労働組合のホームページのリンク集
ドイツの連邦基本法(憲法)における労働裁判権の所轄裁判所

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