ルクセンブルクに思う


 昨年の関西国際空港の開港に相前後して小松空港へカーゴルクス社が定期便を就航させてきた。ヨーロッパの小国・ルクセンブルクの航空会社である。地方主権のありかたを模索してドイツ及びその周辺諸国の資料を各国在日公館より取り寄せてみた。

 オランダと同君連合にして北ドイツ連邦の加盟国であったルクセンブルクは明治維新をさかのぼること28年の1839年に独立国となった。母国語はドイツ語のルクセンブルク方言ともいうべきルクセンブルク語。石川県の約半分の面積の国土に人口44万の金沢市より少ない39万5千人が住んでいる。主都のルクセンブルク市は松任市より1万人ほど多い7万5千人というから、河井継之助の長岡藩ではないが、加賀藩が明治維新で薩長藩閥の東京政府より独立したような錯覚を覚える。そして量的には小国ながら、一人あたりになおせば質・実ともに豊かな、民間主導で無駄の少ない、まさに「小さな大国」なのである。

 主要産業で特に金融業とサービス業に興味をそそられる。金融業はスイスのチューリッヒもそうであるが小国が生きていく定石のようなものかもしれない。近年アジアでは小国シンガポールが東京のお株を奪ったような感がある。この小さな「大公国」に銀行が187社、保険会社が60社、保険会社の再保険を扱う会社が134社というのは驚きである。日本以外では証券会社と銀行の区別はないかもしれないが、資金流通量の限られた石川県一県を例にとって見ても、北國銀行の約3千人、金沢信用金庫の約千人等々、ほぼ一県だけを、あるいは金沢市周辺だけをマーケットエリアとしてこれだけの社員を一社で抱えられる業種は金融業をおいてほかに何があるだろうか。日銀や大蔵省、特に国税当局の支配から独立できれば、少なくとも日本中の裏金・アングラマネーが多少の低金利ででも集まって金融の一大中心地が現出する。そして「ましてや・・・」なのである。

 もう一つの主要産業であるサービス業の要点は、国際機関の存在とそれにまつわる国際会議であり、ホテルやレストランほか多くのサービス業を潤している。ルクセンブルクには国連の機関こそ少ない、というより皆無かもしれないが、隣接するドイツのザール地方やフランスのロレーヌ地方とともに「ザール・ロル・ルクス」を構成し、今日のECやEUの推進役として活躍してきた。その間、多くのヨーロッパ地域の国際機関を誘致している。金沢もいつまでも東京や他の大都市を経由して、世界やアジアの情報を得るのではなく、独自の「外交」を展開すべきではないだろうか。

 フランスのような中央集権国家とルクセンブルクのような小独立国の中間にドイツやオーストリアなどの連邦制の国家形態が位置している。明治以後、我が国は朝野をあげて欧米の大国ばかりを見、うわべの全体の力だけを競い合い、近代市民の個々の豊さという視点がなおざりになってきたことを、この「小さな大国」は示唆しているような気がする。地方分権などと中央のお情にすがるような意識では何も変らない。自立、場合によっては独立するくらいに地方の主権を追求すべきである。他の選挙ではいざ知らず、せめてもの統一地方選挙でこのような視点を訴えられないことが腑甲斐ない。相も変らぬ校下単位のドブ板選挙のようである。


参考:井浦幸雄氏のエッセイ「ヨー ロッパ小国の知恵に学ぶ」

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