続いて第13曲のアニュース・デイに入る。
いけにえを意味する曲であり、祈りのメロディーが重く、ゆっくりと流れる。
第9曲のドミネ・イエズから第12曲のベネディクトゥスまで、比較的に明るい感じの曲が続いたが、アニュース・デイでイメージを変えている。
♪ララ#シとか、♪ドドレでフレーズが終っていたり、半音階のメロディーが多いので実に不安定な気持ちにさせられる。
私の所属する合唱団では、バスが12・3人、テノールが7・8人と非常に少ない。
それゆえに、定刻の7時になってもメンバーが揃わないことも多い。
この日もテノールは2名だった。これではレッスンにならない。もっとも、バスも5人ほどだったが…
男性の声の種類は、テノール、バリトン、バスと、大まかに三つに分けられ、高い音域を得意とするのがテノール、中間くらいがバリトン、低い音域を得意とするのがバスである。
とすると、甲高い声も出せない、さりとて、低音も響かない私はバリトンと言うことか?
M先生の話では、このような声の種類の違いは、声帯の形状の違いによるものだといわれているようだ。
男性の声に関していえば、声帯が比較的短くて薄いと非常に高くて軽い声になり、
同じくらいの長さでも、厚みがあるとよりドラマティックな種類の声になるとか。
一番低い声であるバスの声帯は、テノールに比べると少しだけ長くなっている。
つまり声帯の長さによって音域が異なり、声帯の厚さによって音色がちがってくるということになるようだ。
ボイストレーニングなどで音域を広げることも可能だろうが、テノールの声は持って生まれた才能にちがいない。
実際のところ、真のテノールの声の持ち主は極めて希のようである。
誰しもが一度は、かっこいいテノールを歌おうとする。
だが、結局は高音域が辛くなり、夢破れてバリトンやバスに転向する。
テノールのおちこぼれが、悲しいかな私の今の姿なのである。
テノールには、とにかく高い音域と明るい声が要求される。
隣で聞いていても、気の毒なほどに無理をして声を振り絞っている様子が伺えるのである。
テレビやラジオ、あるいは雑踏の中で素敵な声を耳にする事がある。
カウントテノールを思わせるような、きんきらきんの甲高い小枝。
「こんな声の人が合唱団に入ってくれたら…」と思ったりもするが、そんな人に限って「音楽はどうも」とか「唱は苦手で」となるケースが多いようである。
男声が20名では少し寂しすぎる。せめて、バスとテノールに、それぞれ5名の声が新たに加わってほしいと期待しているのだが…