十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)


年の瀬に(23.12.29・金)

朝の冷気を
引き裂いて
飛鳥の鳴声

軒端を過る
ほとぼりに
目覚めるか

隔離された
身体を導く
緩傾斜の街

過ぎ越し縁
遠去かれば
日々新たに

案内されて
天ざるそば
の温に冷酒

何もしない
有りからも
味わう無が

冬雀(23.12.26・火)

何も知らず
何を話すか
公園の雀ら

小さく細い
足跡が残す
残雪模様に

散りばめた
橇のように
枯葉浮かべ

出来ない事が
できる未来に
影を投げかけ

剥がれ落ちる
あたりまえが
うすらぐ日常

群れなす雀が
飛び立つ先に
どんな未来が

初冠雪(23.12.22・金)

お会いでき
稀なご縁に
はぐくまれ

内に作らず
外に拘らず
自分が直に

できごとや
環境を感じ
内外ともに

上書きする
日々の頁が
更新されて

一つになる
体感能力が
ブーストし

静まり返る
界隈の積雪
撓む枝振り

ひとり歩き(23.12.19・火)

ひとり歩く
住んでいる
界隈の散歩

自転車だと
足に伝わる
上りと下り

寒暖の差に
定まらない
着物に食事

娘夫婦らと
パスタなど
食べ比べて

寄る年波に
鈍くもなり
鋭くもなり

乗り手失い
玄関で傾ぐ
自転車の轍

花絡み(23.12.15・金)

家族ごとに
花の好みを
言えようか

崩れる牡丹
祖父が耕す
仏花の畑に

落ちる椿は
母の好みの
庭木の陰で

枯れる薔薇
一本だけが
五十年越し

萎む朝顔は
夏の姉弟の
水やり当番

溢れる梅と
散る桜から
舞う菊まで

家族の気配(23.12.12・火)

買い物など
二人の時は
しなかった

買い忘れが
いざ一人に
なると常習

雪吊り姿で
帰りを待つ
無言の庭木

軒端越しに
耳を澄ます
独居の物音

部屋ごとに
肌合い違う
家族の余韻

思い返せば
凡て年長の
庭木の樹齢

帰巣探し(23.12.08・金)

雪吊り後の
縄屑も無い
庭に陽射し

接触しない
樹冠の縁を
辿るうちに

山歩きから
迷い込んだ
広葉樹の夏

霧が湧いて
役立た無い
地図や磁石

晴れるまで
待てなくて
動き出せば

重力に従い
崖っ淵避け
沢音が招く

縦書き中毒(23.12.05・火)

萎えた花を
間引きして
新しい花の

一夜越した
凄い水揚げ
花瓶も軽く

重なる腰椎
杖のように
辿る路地で

読み捨てた
頁のごとく
散らばって

見上げれば
剥き出しの
象形文字か

木に横棒を
差し込めば
本の一言が

透視スケッチ(23.12.01・金)

山岳と海を
隔てる狭い
平野の傾き

読みさしの
本を伏せた
甍の向きが

吉本さんの
8月15日の
敗戦の海や

秋の夜空を
赤く染めた
大火の記憶

猛暑の夏を
錦秋の秋へ
乗り越せた

空白の頁に
脆い身体が
透けて見え

日和下駄(23.11.28・火)

日差し浴び
銀杏並木を
私服で歩く

退院までの
お仕着せの
ジャージー

下着なども
全員一律に
着込まされ

消え入った
無意識こそ
下着の闇に

他人の声に
心を奪われ
息切れても

着替えれば
治療表現の
隙間時間が

眺め交差(23.11.24・金)

二百七歩で
往復できた
院内の廊下

折り返せば
立山連峰と
富山湾まで

四階からの
パノラマが
一望の東西

一人暮らす
寂しさ彩る
庭の紅葉に

日差し浴び
落ち葉拾う
指先が震え

下駄で歩く
庭土に影が
南北に延び
公園傍で(23.11.21・火)

枯葉を洗う
融雪舗装の
放水テスト

妻と歩いた
猛暑の路の
買い物帰り

側溝に潜む
病葉が夏の
名残を隠し

想い返せば
民間療法の
症状即療法

亡くなって
姿を現わす
自然な身体

老いに潜む
抑鬱症状が
手を繋いで

温い独居家(23.11.17・金)

蔵書破壊が
話題になる
図書館報道

本の破壊が
常態だった
精神病棟で

抑圧された
子供の頃の
隠れ場所に

手を届かせ
救い出せる
大人の会話

二ヶ月ぶり
帰宅できた
剪定後の庭

弱っていた
段作り姿の
柘植が幻に

〈地・図〉の触り方(23.11.14・火)

聴き入る
肌と皮膚のあいだ
書いている 考えること

聴いている
空と海のあいだ
波打つ言葉の穂先

する と している
分けいる できる
分かるまでも

感じていること
感じている自分
生身の音楽[カラダ]だから

拍のまとまり
場が立ち騒ぐ
感覚の固有躁

とある範囲で
すぐにも変わりうる
しゅうちゅうと集注

〈契機〉とか〈縁〉とか
〈脱〉の実現
非宗派的な信仰生活者

〈超〉の不可能性
天変地異〜森羅万象
人・事・物の真性

無自覚な皮膜
楽器[アナタ]か音楽[ワタシ]か
乗りのよさに
瀬戸際のできるか
できないかの境界線[ヨロコビ]

幼少期の宝庫
思春期の黄金律
石ッコ賢さん*
無意識層を掘る
〈中空〉の洞窟描写[スケッチ]

大地と天空を拡げ
こころが動く空間[スキマ]
「意識」を〈意識〉できず
〈夢〉そのものになれば
「夢」見ることもなく

不可分な「夢身体」[ユメウツツ]と身体[カラダ]
になること 鐘を打つ時間[トキ]
何処で誰と何を聴くか
無意識の焦点化
夕日の呼吸と深呼吸

         *宮沢賢治のあだ名
お知らせ(2023年10月4日)
 夏を越せなかった吉田(旧姓・柞山)智香恵、当ホームページ管理補助者が亡くなったため、当分の間の更新を停止します。さいわい娘の吉田亜裕子が引き継ぐ手筈が整いつつありますので、再開まで今しばらくお待ちください。
囁く風に(23.08.25・金)

祖父が遺す
盆栽の欅が
枯れた形見

台風で傾く
幹を支えた
枝葉の嘆き

林から森へ
山歩き誘う
樹々の語り

街路樹など
刈り込まれ
緑陰の散会

野鳥の飛来
窓越し見た
大樹の伐採

命を愛でる
女人の様な
樹木の存在

立ち枯れ(23.08.22・火)

女郎蜘蛛と
黄金蜘蛛が
常連だった

蜘蛛の巣が
跡形もない
庭に打ち水

散水に輝く
虹色の傘が
揺れ動かず

植え込みに
潜む影なき
棚蜘蛛の穴

水滴避けて
逃げ込んだ
奥の院から

木霊す響き
が供養する
柘植の枯枝

老い揚力(23.08.18・金)

お盆過ぎに
朝夕隔てぬ
アキアカネ

目立たない
秋の気配が
低空飛行で

庭草避けて
干からびる
蚯蚓の亡骸

堆肥の中を
手探りした
川釣り記憶

老い耄れた
身体を探る
骨格の軋み

折りたたむ
運動を離れ
螺旋の動き

浮力知らず(23.08.15・火)

定食などの
ボリューム
胃にあまり

硬めの飯や
御菜なども
喉を通らず

夫婦ともに
老い疲れで
お墓参りも

覚束なくて
お墓の写真
飾って眺め

仏壇を前に
手づかみの
物足りなさ

あちこちに
迫りくるは
生の枠組み

松の木陰で(23.08.11・金)

猛暑の庭を
覆い隠して
揺れる雑草

老い枯れる
段作り柘植
住人に似て

祖父の手が
職人二代に
引き継がれ

その時々の
見る影ない
半世紀の果

剪定を重ね
玉作りから
様々な形へ

形崩れして
一人稽古に
踏み止まる

翻る暖簾(23.08.08・火)

思春期こそ
想い想われ
振り振られ

恋の暖簾が
男女を隔て
資質の闇に

神獣ならぬ
獣道が誘う
浮世の性が

またとない
一期一会に
擦れ違うか

偶然ならぬ
積み重ねが
導く歪みに

見え隠れる
原点に届く
煌めく初心

無名楽(23.08.04・金)

議論もせず
耳も貸さず
ひたすらに

彼方此方を
彷徨い訪ね
起伏の律動

夏の連山に
冬の独峰の
スロープを

引き剥がす
谷間へ傾き
くねる稜線

響き広がる
遺伝子から
楽譜読めず

分解と生成
の両端から
零れ落ちて

夏を踏み変え(23.08.01・火)

補虫網から
取り出した
夏休みの虫

裾を捲って
Tバックの
美尻を晒し

振り返った
夏の笑顔に
朝顔が匂う

田舎を抜け
郊外までの
自転車の旅

乗り換えた
タクシーで
猛暑の買物

二次疲労の
ブルースが
漏れ聴こえ

夏灯籠(23.07.28・金)

細い角材と
竹籤で組み
立てた虫籠

格子を通り
抜けた風に
紛れた昆虫

罫線で時を
刻みつけた
日時計花壇

山岳信仰の
裏の装景に
秘められた

男女の性に
恋愛の華が
咲き乱れて

軟乳の丘に
倒れ伏した
少年の胸中

茣蓙と土壁(23.07.25・火)

暑くて刈り
切れぬ庭草
掻き分けて

格子を抜け
夏戸に届く
青大将の舌

天井裏から
鼠を追って
下り来たか

梯子を登り
入り込んだ
あまの心地

くねる様に
事に耽った
蛇行の直進

中二階から
覗き覗かれ
民家暮らし

蝉無し庭木(23.07.21・金)

庭に虫など
見つからず
舗道歩けば

萎れ果てた
花萼が虫の
死骸に見え

美味しいと
美味しそう
な店の差に

昆虫食など
以ての外の
少子化進行

知行合一が
文武両道の
繁殖行為に

凹凸の歩で
身体時間を
割り込めば

手の腹返し(23.07.18・火)

猛暑続きに
怠いなどと
言うも怠く

裸体からの
脱皮果たす
変態美から

老体までに
纏わりつく
虫の耳まで

田植え枠を
転がす音も
聞き忘れて

和らぎ輝き
匂い導かれ
花開く律動

重心転がし
透かし見る
日時計花壇

流域鼓動(23.07.14・金)

水辺の独奏
二人乗りの
自転車の音

暮らす歳月
二人合わせ
割戻せない

人知らずが
人を責める
振りをして

自分の失敗
見落とした
海辺の砂丘

波の華散る
松林抜けた
風の行く手

二人の間を
取り持った
水源の響き

展望地(23.07.11・火)

とりあえず
魅惑の丘と
扇状地から

呼び覚ます
楽器が先か
音楽が後か

入れものと
器が奏でる
極上の心地

仕方もない
行き詰まり
の成せる業

絡み合って
解けなくて
縺れただけ

別れぎわの
瞳の輝きに
寂しい予感

万華鏡(23.07.07・金)

草刈機から
掃除機まで
コードレス

巳はみんな
已になかば
己はしたに

内に向かい
中に入れば
奥はどこに

独峰の俯瞰
滑降すれば
樹氷の蠕動

家の内外を
自在に縛る
多面出入り

埋め合わず
取り違える
多層な表裏

月見数え(23.07.04・火)

山の端上る
梅雨の満月
傘寿も過ぎ

夜風に緩む
下駄の鼻緒
絡み合えば

背中で星が
瞬き囁いて
行方知れず

行き帰るは
草地と砂利
噛み分けて

痕跡を辿り
軋む観覧車
誰彼もなく

人影浮かぶ
一夜明けた
中空あたり


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