十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)

最終更新日:2021/07/02

廃線(21.06.29)

半夏生から
ドクダミが
匂う花盛り

囲炉裏端の
現の証拠が
夏場の飲物

見え隠れに
行き来した
加越線越し

鉄橋渡れば
母が手折る
一家心中か

思い留まり
濁流渦巻く
揺れる橋桁

雨音響かせ
梅雨前線が
南下する庭

手解き(21.06.25)

手渡さずに
祖父が投げ
寄こす小銭

手を上げる
から手を上
げる力まで

片手の指の
間から間へ
渡すコイン

拳に載せて
掴み取った
掌のコイン

症状即療法
だとしたら
身丈の範囲

手がとどく
核から殻へ
体内物差し

枯れ時(21.06.22)

梅雨の庭で
ひょろ長く
揺れる雑草

土と空気と
太陽そして
土中の細菌

堆肥の夢を
断ち切って
刈り倒せば

バリカンの
刃に挟まる
殖の切れ端

刈り時図る
体内時計が
諦念を告げ

身体の中で
起き上がる
物差しまで

筋肉痛(21.06.18)

明けやらぬ
六月半ばの
大の字寝床

微かな痛み
覚え始める
左の二の腕

感染防止で
昨晩のバド
練習は休み

思い当たる
初回接種の
昨日の医院

立ち待ちで
疲れそうな
待合室の密

各自粛粛と
接種待つ背
撫でる換気

遅延開花(21.06.15)

若葉すべて
食いあらす
紫陽花毛虫

丸坊主姿を
どうやって
感知してか

毛虫不在を
見越しての
若葉再生が

枯れきった
葉脈を隠し
生き生きと

害虫に弱い
受け身から
立ち直って

開き直った
弱さ志向が
目指す開花

失語街(21.06.11)

庭木に網を
張り巡らす
女郎蜘蛛は

風に乗って
昆虫探しの
接写レンズ

躑躅の花を
見え隠れに
棚蜘蛛の巣

かろうじて
街中に出す
望遠レンズ

ワクチン接種
が未来を開く
が棚引き始め

掛け違えた
マスク紐が
解けない街

三点浮き(21.06.08)

三徳を収め
使う事ない
銅製火鉢に

法隆寺から
眺め忘れた
蓮を活けて

彫り刻んだ
鶴亀が聴く
開花音の謎

頭上弾ける
星の慣性に
引かれ浮く

右の踵から
軸足までに
反転する幕

家の核から
女が生まれ
殻で包む男

  • フィンランド国立図書館、同館の日本関連コレクションをオンラインで検索可能に(カレントアウェアネス・ポータル@国立国会図書館) https://current.ndl.go.jp/node/44109
  • 群馬県立図書館、同館が収集する市町村立図書館等で購入が難しい高額な高度専門的資料や学術研究書の利用促進を目的としたリーフレット「新収蔵資料抄」を発行(カレントアウェアネス・ポータル@国立国会図書館) https://current.ndl.go.jp/node/44120
  • 究極の情報通信、量子インターネットの正体 実現は2030年以降か/土屋 丈太(日経クロステック) https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01639/00013/?n_cid=nbpnxt_mled_fnxth
  • カフカの未発表の手紙や素描、オンラインで公開 イスラエル国立図書館(AFPBB News) https://www.afpbb.com/articles/-/3349718
  • カフカの未発表の手紙や素描、オンラインで公開 イスラエル国立図書館(時事通信) https://www.jiji.com/jc/article?k=20210603041607a&g=afp
  • 「アーカイブ」と「アーカイブズ」は違う(オダメモリー) https://oda-senin.blogspot.com/2021/06/blog-post.html
  • Internet Archive(IA)、蔵書評価の結果除籍されることとなった演劇史に関するコレクションの寄贈をカナダ・ハミルトン公共図書館から受ける:デジタル化しオンライン公開へ(カレントアウェアネス・ポータル@国立国会図書館) https://current.ndl.go.jp/node/44140
  • 小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明:自称「ファン」の攻撃性について(日経ビジネス電子版) https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00124/
紐通し(21.06.04)

樹木の梢で
向きを変え
囀る高さへ

吸い上げる
水の響きが
聞こえたら

年輪を遡り
立ち現れる
揺らぐ双葉

見えずとも
地中に滴る
毛根の震え

堆肥の山へ
突っ込んだ
素手の温さ

傾く樹齢を
絡め取って
蠢く紐と襞

翻訳柄(21.06.01)

暑さ寒さでは
老いた体には
全てを疎遠に

昆虫模様など
刷り込まれた
子ども着物を

図鑑のように
視聴室の壁に
飾り吊るせば

暑さ寒さから
遠ざけられて
早世した形見

絶望や覚醒の
島に漂着する
こともなくて

頭でっかちの
心身に挟まる
死顔の手触り

無為の階(21.05.28)

ストトンと
抜けおちた
晴れ間から

舞い降りた
野鳥が運ぶ
山野草の種

踏みしだく
年毎に違う
無名の花壇

腰をかがめ
覗き込んだ
望遠レンズ

暖かい風が
撫で過ぎる
首から背筋

腰を落とし
しゃがんで
立ち忘れて

浮き沈み(21.05.25)

泳げずとも
風呂に入り
感じる浮力

病は気なら
分けられる
病気と気分

体内自然が
隠し持った
産地記憶を

手探りする
老い衰えの
質や時間が

辿り着いた
足腰屈んで
崩れた姿勢

弱さ梃子に
上り下りる
日々の階段

衰え形見(21.05.21)

枯れた欅を
鉢植えから
抜き乾かし

放置の形に
整形された
玄関の片隅

祖父が残す
形見の様な
手触りだが

形見の品の
銅の火鉢に
差し置いて

座りの悪さ
様にならず
床の間にて

嵌め台座に
禁煙由来の
箱焼き灰皿

大気圧(21.05.18)

物と事など
区別できる
年頃までは

昆虫少年や
植物少女の
会話のよう

左右の違い
を見分ける
体つきから

ふらついて
上下の働き
循環すれば

体内展開の
フィールド
ワーク開始

気分と病い
仕分ければ
根本姿勢に

床下幻想(21.05.14)

起きて半畳
寝て一畳の
山小屋の夜

戸や襖など
全て外して
陽に干す畳

柱が支える
屋根と床を
吹き抜けて

山小屋から
見下ろした
夏の大掃除

干からびた
家父長制が
塒を巻いて

掃き出され
埃まみれの
家族解体図

軒端散策(21.05.11)

庭木の緑の
葉裏で茂る
雑草の開花

見分け難い
老眼よりも
手振れ防ぎ

接写撮影し
PC取り込み
画像で眺め

名も知らず
雑草という
名でくくり

山野草など
眺め歩いた
身体の衰え

辿り着けぬ
祖父の老に
追い越され

胴抜き(21.05.07)

軽飛行機が
筋雲に見え
隠れする空

胴を抜けて
首から頭へ
追いかける

親子関係を
畳み込んで
萌える緑に

写り込んだ
老化と衰え
の眼球模様

手や足から
迷走すれば
迷路を抜け

動く前から
動いた後へ
可能な動き

浮遊帰還(21.05.04)

五月の空の
南へ傍線を
引っ張る鷺

囲炉裏灰に
埋め戻した
進化の火箸

煮炊きして
命をつなぐ
骨格の来歴

脊椎動物が
記憶する頁
の果てまで

胴体と頭の
バランスが
定まらずに

読み取った
めまいから
定まる恐怖

寄り添い(21.04.30)

田植え前の
水田が映す
尾根の残雪

遅れたきた
腰痛で知る
除雪時の体

伝えたくて
伝わらない
ほんとうが

深まるほど
遠ざかった
家族関係に

閉ざされた
臆病風から
抜け出して

庭の片隅で
芽吹き始め
揺らぐ漣に

在宅遊泳(21.04.27)

座ってから
気を抜いて
立ち上がり

乗り込んだ
身体を包む
宇宙窓から

眺め下ろす
庭の雑草の
蔓延り具合

建て込んだ
箱型BOX内
の行住座臥

座り込んで
手で食べる
板の間生活

立ち座りに
浮かび立つ
身体的自覚

足元(21.04.23)

危なくない
端っこから
何が見える

勝ち負けを
競えなくて
鍛えられぬ

宇宙の端を
妄想しても
立つ能わず

居座れない
立居振舞で
極まる不安

内と外から
はみだした
境目が整い

いまここに
観えぬ総て
立ち返って

気勢(21.04.20)

萌え木から
蝶の道まで
舞い出たら

見上げた空
掻き消して
降り注いだ

星を纏って
未成以前に
出会う身体

泣き叫んで
通り過ぎた
呼吸の始り

宿命の如く
刻印された
星占いまで

立ち返って
動きを繋ぐ
運命の糸が

忽然と(21.04.16)

竹刀や木刀
日本刀など
振ってみて

その材質が
違っていて
寸法が同じ

同行二人で
抜いて納め
道中知らぬ

動きの謎に
隠れた筋道
確かならず

失ってみて
気がついた
小物の数々

調べ探さず
更新される
待ち時間が

境界浮遊(21.04.13)

久しぶりに
疾走すれば
蘇る老体に

噛み合った
ギア変換が
できなくて

乗り慣れた
自転車でも
新車みたい

風に煽られ
拠ん所無い
車幅感覚に

身体傾けて
踏み込んだ
街路樹の下

花水木など
過ぎ去りし
林縁遊歩道

風と息(21.04.09)

花が散って
新緑そよぐ
庭先を過ぎ

鳴り響いた
チャイムに
覗き込んだ

モニターで
尻尾の影を
拭き取って

鳥の羽音に
飛び乗った
指先の視界

切り取られ
馴染めない
世相の視野

老い吐いて
ふらつけば
練りこまれ

手がかり(21.04.06)

どの辺りに
届いている
視覚の辺縁

揺らめいて
安らいでる
触覚の先端

差し入れた
感覚以前の
未成の端緒

横たわって
抱きとめた
昼間の星に

予期しない
身体感性が
上下に抜け

不意の床で
春雷二発に
解き放たれ

老い稽古(21.04.02)

部屋にいて
鳥と草木の
頁を眺めて

空気が抜け
冬を越した
自転車の艶

老いかけた
動きに追い
着くまでに

着崩れした
バランスに
乗り換えて

消化できる
腹八分目が
目安になる

筋骨休めて
内臓の働き
辿り直せば

詩流(21.03.30)

ありのまま
ゆりもどす
おのずから

あさからず
つきかえす
ふかみまで

しめつけて
つつみこむ
ひろがりに

わけもなく
ふみいれば
りくつなし

めいていや
かくせいも
いとなまず

みずからが
なすままに
ひきこまれ

 
異郷(21.03.26)

傍を軽々と
駆け抜ける
歳月の足音

歩き抜けて
振り返れば
見知らぬ国

掬い上げた
水面に映る
昼間の星に

腹を仰向け
開いた肩で
夜を呼吸し

滞在すれば
未知の建て
付けの部屋

入れ替わる
季節の旬に
和みの影絵

樹齢遠望(21.03.23)

折れかけて
歪んだまま
芽吹く庭木

雪の重みが
残っている
竹の支柱跡

膨らむ蕾に
忍び込んだ
開花記憶を

呼び覚ます
植生記憶が
根こそぎに

身体記憶と
生命記憶の
挟み撃ちに

編み直され
仮託される
異界と他界

屈み立ち(21.03.19)

何処となく
人知れずに
交わす挨拶

しゃがんで
立つように
階段を上る

窓の桟から
習い覚えた
掴まり立ち

何時の間に
しゃがんで
階段を下り

内観働かせ
交差し合う
幼年と老年

異性と語り
合うならば
二人称一体

吊り跡(21.03.16)

家主よりも
樹齢で勝る
庭木の傷み

雪害具合を
際立たせる
雪吊り外し

重力に抗う
身体だって
気づかない

無理をして
そのままが
機嫌を左右

鈍感こそが
あたりまえ
を突き崩す

生前からの
身体時間を
生かす稽古

空だ(21.03.12)

雉が啄んだ
薄明の響き
谺すからだ

ひらがなや
カタカナや
どんな漢字

空っぽから
隙間風まで
吹き抜けて

機嫌損なう
体や身体や
躰體躯骸が

見え隠れる
等身大なら
神出鬼没に

戯れ遊んで
意識の川に
溺れる心身

越年譜(21.03.09)

冬を越した
汚れを洗う
融雪ホース

巻き上げた
跡に現れる
雪の街道筋

屋根雪覆う
切妻と寄棟
と入母屋が

貧富の構え
覆い隠して
豪雪家並み

雪下ろしを
終えて村中
総出の雪割

スコップの
歯が立たず
立ち尽くす

透過行(21.03.05)

厳しい傾斜
迂回路誘う
林間コース

せせらぎに
なびく木立
河川敷抜け

滑り抜けて
走り抜けた
木洩れ陽に

振り返って
いられない
郷愁の体感

着衣が透け
放熱に撓む
皮膚の彼方

内臓の力み
遠ざかって
銀河に浮く

浮き絡み(21.03.02)

叩きつける
雨脚が洗う
窓越し風景

風に震えて
美しく歪む
雪折れ庭木

輪に結んだ
紐を交差し
た両手首を

時計反時計
回りに上げ
下げすれば

腕を忘れて
背筋繋がる
上下運動に

拳腕立てで
体を浮きに
地球を釣る

息継ぎ(21.02.26)

動くものが
動物ならば
ロボットも

冬を越して
空気の抜け
たタイヤで

走り込んだ
距離を測る
空気入れが

フレームに
書き込んだ
動物の語源

呼吸したら
気体を抜け
液体の先へ

個体となる
認証不明の
エネルギー

雪解け(21.02.23)

散歩の行き
帰りの間に
砕ける結晶

蒸発すれば
生命体から
生命が分離

発信力なら
中途半端が
持続の要に

食べる事で
鬱散できた
母との食卓

衣食住から
出入りする
日々の出会

自然界から
人間界まで
繋ぎ止めて

四足歩行(21.02.19)

市内バスが
チェーンを
巻いた響き

腰を下ろす
体に甦える
匍匐の振動

胡座を抜け
猫を追った
四つん這い

這うように
茶の間まで
やってきた

祖父の手に
にぎられた
三本足の響

手探りから
足探りまで
体探しの道

影積み(21.02.16)

崩れ石灯籠
斑雪の陰に
取り残され

寄りかかる
庭木の枝を
手掛かりに

腰を落とし
体を浮かし
抜いた呼吸

積み直して
遊びを消し
揺れ閉ざす

頭上の星が
眺める庭に
降り注いで

肘を揺らし
全身に漲る
テンション

洞察(21.02.12)

日一日毎に
地べた広げ
日差しと影

万病は内外
の不一致が
齎すならば

いかように
木の芽時の
不調に対処

防げずとも
ズレと一致
を見極める

丹田を過ぎ
手足に届く
呼吸の径路

中断しない
中途半端が
養生の秘訣

傘下(21.02.09)

庭木来歴に
露わになる
雪折れ一本

枯死しても
捨てられず
欅の盆栽枝

祖父の手の
跡形もなく
残された鉢

濡れた傘を
突き立てる
玄関脇から

茫茫として
外を眺めた
祖父や母の

後ろ姿映す
居住まいを
畳み直せば

  • 東北大学附属図書館、初代館長の旧蔵書「林鶴一関係資料」の利用が可能となったと発表(カレントアウェアネス・ポータル@国立国会図書館) https://current.ndl.go.jp/node/43222
  • 三次元オブジェクト検索エンジンPhysnaは現実世界を検索対象にするグーグルを目指す(TechCrunch Japan) https://tcrn.ch/39yt5O1
  • コスプレは「著作権侵害」になるの?「ルール整備」以前に押さえておきたい重要ポイント 福井健策弁護士が解説(弁護士ドットコム) https://www.bengo4.com/c_18/n_12466/
  • 過去の名舞台から最新ミュージカルまで…デジタルアーカイブ化1300本 演劇界を有料配信で支援へ(東京新聞:TOKYO Web) https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/83778
  • 河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学:コロナ懲役刑問題で見えた 神の見えざる手と差別の根源(日経ビジネス電子版) https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00114/
逃走(21.02.05)

硬い雪面の
影を踏んで
逃げ込んだ

獣の足跡が
われに帰る
雪山の静寂

人馬一体で
駆け抜ける
骨格標本を

突き破った
呼吸の力が
漲る斜面に

起き上がり
二つとない
弧を目指し

斜に構えて
擦り抜ける
明暗の段差

労働歌(21.02.02)

庭の残雪も
隠し果せず
夜来の風雨

薄毛になり
顔痣狭まり
小じわ増え

人足も休み
暗雲震わせ
揺れる足場

臆病者なら
体内掻分け
満たす呼吸

内臓定まり
萎縮遠ざけ
心身働けば

揺れもなく
作業が捗り
踊る言葉も

雪雲(21.01.29)

体を浮かす
一夜積りの
サラサラ雪

手のカメラ
向ける前に
逃げ去る鳥

スコップを
握る身体に
かかる重力

凍りついた
雪を動かす
力の作用軸

過不足ない
釣り合いも
その場限り

足場を築き
壊し逃げる
風の来し方

接写(21.01.26)

給油口から
タンクまで
辿ってみて

固く沈まぬ
庭の残雪に
潜む折れ枝

目線高まる
圧雪歩きが
写した新芽

南極仕様の
長靴が踏み
抜いた裏で

冬を越した
雑草の緑が
溶けだせば

雪下駄から
踏み越した
豪雪記憶が

息抜き(21.01.22)

着物を着て
熱燗を嗜む
時の肌触り

小一時間も
屋根雪など
除雪すれば

息も上がり
座り込んだ
へばり具合

忘れ去った
やすらかな
赤子の姿勢

衰えた骨や
筋肉頼みの
生活習慣に

呼び戻され
心身安らぐ
内臓の隙間

尻込み(21.01.19)

背伸びする
家並みから
垣間見える

雪下ろしで
腰痛知らず
の祖父の体

歳をとれば
分かるはず
の身体観が

培ってきた
作業姿勢を
学べぬまま

分かち合う
日常時間が
稽古の場に

五体各部が
身体全体に
分散すれば

刃毀れ(21.01.15)

スコップを
跳ね返した
庭先の圧雪

晴れ上がる
滑走日和の
遠い山並み

出来た事が
駄目になる
頃合い迎え

思い寄らぬ
思い込みの
思春期の謎

過ぎ去った
乳胎児期の
エロスの刃

何のために
生ききるか
問いきれず

片流れ(21.01.12)

読みさしの
本を伏せた
屋根を隠し

深深と積る
雪あかりに
籠った部屋

崩れ落ちず
差し迫った
屋根雪の端

屋根裏深く
ざあざあと
伸びる氷柱

幻聴の体を
捲り直して
聴き辿れば

芯が整って
明るく開く
胸の身体へ

雪中稽古(21.01.08)

目覚めれば
ふりしきる
雪の静かさ

染み入れば
落雪を促す
屋根の傾斜

竹スキーで
踏み越えた
村の冬から

抜け出した
カービング
スキー板へ

踏みつけた
下駄履きの
身体感覚が

雪かきする
脚腰に響く
固有の呼吸

転生夢(21.01.05)

鰻の寝床で
寝返ったら
粘膜のよう

履き替えた
足袋に蘇る
素肌の触り

幼児に舐め
尽くされた
手探りの跡

滝の裏側に
身を潜めて
寝返ったら

寝巻きから
抜け落ちた
身体を包み

着物の帯が
着せ替える
抱き合わせ

松風一声(21.01.01)

雪吊り撓み
望む軒端に
氷柱の穂先

丑年明けて
除雪すれば
脚腰の衰え

背伸びして
着雪払えば
庭木が震え

松の根元で
寛いでから
行き来した

猫の足跡を
かき消して
積もる新雪

冬を響かせ
飛び去った
野鳥の一声


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