十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)

最終更新日:2019/12/31

寝返り(19.12.31)

年越しの花
に置き換え
下駄箱の上

搬送車から
診察台へと
体を移され

移動寝台を
CT捜査台へ
引き回され

救急対応で
身体見失い
数値だらけ

動かし難い
胴体を移す
手足の感触

利き手より
左側の手先
足先へ抜け

余裕(19.12.27)

雪吊り縄の
結び目から
占う降雪量

話し言葉や
書き言葉が
現わせない

舗装道路の
隙間を縫う
雑草の時間

身を翻して
倒れそうな
踏み台の幅

壁を這って
煤払いする
掃除ロボが

張り巡らす
皮膚感覚が
目覚めれば

揺らぎ(19.12.24)

スレートの
小屋根から
響いてくる

ぶつかった
雨が凍って
霙になる音

素早そうで
見つめれば
ゆっくりと

溶けていく
物静かさに
際立つ隙が

捻りのない
水平からも
垂直からも

筒抜けなら
ありのまま
あるがまま

無目的(19.12.20)

種苗が育つ
まっすぐな
時間を逸れ

膝を折って
祈る姿勢に
溜める柔軟

左右の耳で
切り替わる
子音と母音

間合いから
はみ出した
無音を枠に

話し言葉と
書き言葉が
双葉となり

身体が向き
合う方角へ
ひたすらに

目移り(19.12.17)

ゴム動力を
モーターに
手作り遊び

鉱石よりも
真空管なら
ではの感触

手触り離れ
左右の耳で
際立つ領域

遊び疲れて
帰りくれば
内向する響

体の節々が
音を立てず
密かに回り

選択肢多く
決まらない
左右の調節

足踏み(19.12.13)

盗めなくて
途方にくれ
学べようか

気づく前に
習い覚えた
心身の柄が

染みついた
動きかたが
手枷足枷に

弱くなって
老いる喜び
得られたら

日常生活の
身体を盗み
出せようか

踏み抜いた
体を抜けて
身にあたる

手始め(19.12.10)

冠雪際立つ
山並みから
照り返され

際限もなく
心地よさが
錯綜し続け

歪み果てる
一番病から
狂い咲いた

木瓜の花に
呪い数える
快感と不快

見極められ
行き来する
居場所なら

居心地良く
甦る身体に
訪れる姿勢

影抜け(19.12.06)

魚影微かな
淀みに浮き
漂う藁屑に

吹き過ぎる
風が寄せた
岸辺の足跡

散らばって
駆け抜けた
境内の奥で

藁履を脱ぎ
履き替えた
下駄で殴り

藁人形から
逃げ帰った
五寸釘の響

手の平深く
握りしめた
人文字の影

曲者(19.12.03)

飼い猫から
教えられた
尻尾の先が

弧を描いて
家族ぐるみ
解き放たれ

非日常から
日常までの
螺旋を探り

乗ってみた
台の高さで
見きわめて

下駄を履き
帽子を冠り
何か羽織り

地面に隠れ
爪の先まで
ひた隠しに

触り(19.11.29)

舞台の袖に
覗くエラの
衣装が謳い

一音叩けば
技を抜いた
モンクの響

手の平から
説き解せば
男帯と女帯

鍵盤に書き
付けられた
視線の触覚

下宿先では
お寺に併設
した遊戯室

覚え忘れて
疲れにくい
動きの喜び

掴み(19.11.26)

箸捌きから
見とどけた
体捌きまで

急須で決め
られた指の
かたちの謎

字画が同じ
書き順でも
違える拍子

皮膚に刻み
つけられて
剥がれない

優先順位を
消し込まれ
引き出され

握る各指の
角度までも
変えられて

段落(19.11.22)

茂り過ぎて
風に揺れる
竹藪の逡巡

大きく傾き
小さく戻る
風の跡先に

行き来する
わが体から
わが身まで

竹馬乗りで
後ろを深く
前には浅く

歩きだせば
傾きが整い
歩幅定まり

独りで乗り
下りできる
老いの坂道

反語(19.11.19)

裏表見えず
小鳥の降下
晴雨の隙間

目を外して
尻尾を掴む
感触の瞬き

翻った嘴で
摘んだのか
喋ったのか

仮縫い羽で
羽ばたけず
鉤爪を研ぎ

風土からも
普遍からも
遠ざかって

虹のように
掛け渡され
掴み損なう

春秋慰安(19.11.15)

秋茜が輝く
瞬間移動で
季節を繋ぎ

水蟷螂から
太鼓打まで
呼吸管比べ

石ころ一つ
ない水田に
映る膕の謎

脛に暖かく
足に冷たい
手植え作業

言葉少なに
風土を抜け
身体に回帰

手指を編み
虚空を掴む
空気杖握り

目覚め(19.11.12)

暗闇からも
鼓動からも
解き放たれ

身に覚えが
ない仕切り
からの出自

芽吹いたら
肌触り探す
双丘の初見

呼吸を分け
潜り抜けた
双葉の恐れ

究極の性に
委ねられた
庇護が全て

生死の膜を
張り巡らす
初源の欲望

素振り(19.11.08)

焼き魚から
背骨を引き
抜くように

点が線へと
立ち上がり
螺旋に迷い

足裏からも
頭頂からも
等距離なら

小指の爪に
書き込める
目高の稽古

摘み上げて
八角形まで
辿った親指

捨て続けた
努力の跡を
振り回して

手習い(19.11.05)

枯れ葉散り
揺れる幹の
地べた巡り

縦横いずれ
入れ替わる
選択と順序

繰り返され
日々の違い
読み込まれ

聴く耳から
話す耳まで
遠く近くて

改行からも
行間からも
呼吸乱され

身体書式も
書き変わる
体内宇宙へ

現前(19.11.01)

粉々に割れ
舞い上がる
欠片の蜻蛉

羽根震わせ
飛び移った
複眼の生死

雌雄仕分け
糸で結んだ
棒切れの先

山麓からも
河原からも
疲れ切って

当て所なく
日がな一日
傾き尽くす

揚力が誘う
矢のような
空洞の充満

明滅(19.10.29)

体内覗いて
草臥れ誘う
襖入れ替え

見上げれば
強張り触る
冬の渡り鳥

切れる前に
取り替える
電球の殺戮

弱さからも
強さからも
遠ざかって

身一つなり
きってから
群れ逸れて

上手からも
下手からも
壊し壊され

不自然(19.10.25)

繰り返され
引き返せず
立ち止まり

外されたら
追いかける
当たり具合

天動説から
地動説まで
数え上げる

身体生理が
納得しない
行き詰まり

触れ探った
空っぽまで
張り巡らす

内的自然に
橋渡される
外的自然も

超思春期(19.10.22)

明治生まれ
丸裸に近い
祖父の日常

洗い続けた
褌の長さに
巻き取られ

杖を手にし
佇む身体に
纏う作務衣

とりあえず
まかないは
有り合わせ

働きすぎて
老体目覚め
寝込む晩年

私服や制服
剥ぎ取られ
素っ裸まで

波動(19.10.18)

木洩れ陽に
見え隠れる
茂みの小鳥

揺れる枝葉
辿りついた
樹皮を伝い

梢を下って
導管を流れ
毛根に届き

天地閉ざす
途切れ目を
反転させる

最短距離を
起動させる
葉脈の動き

辿る衝突で
小きざみに
リラックス

機転(19.10.15)

輪を描いて
曇り空から
抜け出す鳶

手足で書く
批評家から
課せられた

対話に潜む
不文律まで
啄んでいる

職人の体を
裏返したら
透けて見え

言葉ならず
我ならざる
我に触れて

寛ぎ緩めば
漲る初動に
抱擁されて

小魚(19.10.11)

身近すぎて
溢れかえる
無関心から

坊主気味の
河原釣りで
見えた昼星

常願寺川の
河川敷高く
低く群鳥が

椋鳥なのか
或いは鴉か
魚類めいて

皮膚を梳き
内臓にまで
黙視の響き

翻る体勢を
粉々に割る
飛翔する私

接続(19.10.08)

乗換えても
聴き飽きず
乗換えたら

磨り減った
ベルト回す
スピード感

聴き直した
体感像響く
LPからCD

アルバムが
自壊しても
途切れずに

綾取りした
最後の紐に
絡め取られ

解きかけた
指先に響く
心臓の鼓動

鼻緒(19.10.04)

鴨居にぶら
下がってる
寝起き着物

左に寄せる
今日一日の
立居振舞に

ポイントが
穿たれたら
点のように

立ち並んで
挨拶を交す
仙骨と胸骨

井桁に極め
二枚歯から
一枚歯へと

履き替えて
組み替える
下駄の鼻緒

書誌遊行(19.10.01)

作り付けの
書架を離れ
裏庭を抜け

畦道を繋ぎ
小川を下り
泡立つ海辺

話し言葉の
戒律が曳行
する乗合せ

行き来して
撓む書架の
書き言葉に

裏打ちされ
活字の森に
刻み込まれ

読み起こし
確かめ直す
物書く姿勢

幼老期(19.09.27)

老いに蘇る
掴まり立ち
眺めた背戸

移植された
庭木に吊り
上げられて

駆け登った
飼い猫には
記憶もなく

屋根裏から
鼠を追った
音沙汰だけ

血まみれの
鶏小屋から
逃げ隠れて

納屋の隅に
置き忘れた
幼年の手形

溶解(19.09.24)

細い秋茜が
離着陸する
小屋根の庇

止まり直す
多層脚から
秋の傾斜が

波打っては
潜り抜ける
重曹的眺め

駅から近い
水族館では
クラゲ立ち

体内移動が
瞬間移動で
泡立つ隙間

多様ないま
ここに向き
合う非決定

虫譜(19.09.20)

庭草を刈る
たび感じる
虫の少なさ

祖父が捕え
捌き殺した
マムシの体

切り身でも
動いていた
真虫の居所

腹たち紛れ
虫の知らせ
刷り込まれ

未知に触る
身悶えから
虫のいい響

手の届かぬ
痒み増せば
戯れる老体

体内鳥瞰(19.09.17)

立体的だと
予期しない
夏の置土産

繁華街路上
山手線車内
公衆浴場で

蠢く皮袋に
呼吸困難な
小魚が群れ

食い荒らす
隅々までが
痺れ切って

免許証など
放棄された
ミクロ圏内

入り口から
出口までの
経過観察図

手遊び(19.09.13)

うな垂れた
一本を残し
刈り取られ

蒸し風呂の
跡形残した
夏の大車輪

暑さ控えの
墓参りから
抜け落ちた

線香の煙が
古い仏壇に
流れ着いて

呼び覚ます
目立たない
小さな葬式

中空に浮き
手指の間の
緊張と弛緩

蠕動(19.09.10)

島のように
化石が並ぶ
書店の片隅

船で渡った
浜辺に埋め
忘れた夏休

昆虫少年が
繰り返した
脱皮の稽古

暴れる魚の
鱗の躍動を
手掴みして

滑りを拭う
葦に隠れて
磨いた貝殻

生きていた
その名から
及ばぬ触手

空隙(19.09.06)

庭木の陰で
蜘蛛の巣が
張り巡らす

待ち受けに
絡め取られ
立ち止まり

とりあえず
帽子を手に
払い落とし

山歩きから
登山までの
蘇る身動き

歳を重ねる
大変さから
正体を消し

老いてゆく
不自由さに
頷く隙間風

脱力旋回(19.09.03)

肉から骨へ
そして皮へ
鶏肉を捌く

箸使いから
壊れなくて
疲れにくい

五体に宿る
挙動不審を
見つけ出し

前後左右が
判別できる
体捌きまで

筋肉知らず
骨抜かれた
身体観まで

包み込んだ
衣食住へと
左翼裏返り

帰り道(19.08.30)

書架の埃も
静まり返る
豪雨の雨足

冠水に隠れ
廃校に沈む
同窓会案内

畦道を辿り
裏道を繋ぐ
迂回路探し

濁流を跨ぐ
木橋を走り
抜ける響き

門限過ぎた
校舎を飛び
越した石礫

乾く廃路を
辿り直せぬ
幼児の足跡

土俵(19.08.27)

柿や栗の木
イチジクも
切り倒され

狭い裏庭に
どくだみが
円を描いて

悪臭を放ち
雑草も虫も
寄せ付けず

切り株には
西日を遮る
日々の名残

年輪ぼやけ
残る未熟が
予知する老

草いきれに
立ち竦むか
ひとり相撲

身包み(19.08.23)

トタン伝い
蔓延る暑さ
ミシミシと

やがて登り
降りも拙い
乾いた階段

祖父背負い
老衰踏むか
余りの軽さ

水遣りする
枝葉に隠れ
枯死の一葉

脱ぎ去れば
指先が示す
今いる場所

膝と肘から
腰を介して
通す隙間風

跨ぐ夏に(19.08.20)

老いの無駄
働きを洗う
庭に降る雨

刈り倒され
乾いた夏草
跨ぎ越して

魔女が夢の
少女や超人
が夢の少年

技ができて
術を成立さ
せる絵日記

書き留める
隙間もない
夏休みこそ

体内宇宙を
探る姿勢に
ひきこもる

雨乞い(19.08.16)

梅雨明け後
三週間ぶり
和みの雨に

木造家屋の
木組み伝い
緩む関節を

吹き抜ける
大和伝来の
エネルギー

馴染まない
椅子を逸れ
しゃがんで

狩猟民から
農耕民へと
跨ぎ越すか

内回りから
外回りへと
寝返る風に

涼感(19.08.13)

出る庭先に
目を揺らす
雑草の茂り

乾ききった
蝸牛の殻を
踏み潰せば

陽炎の揺れ
皮膚を伝い
耳の蝸牛が

下駄履きの
左右の傾き
聴き分けて

左手先導く
体差し入れ
擦り抜ける

春夏秋冬を
舌と歯でも
嗅ぎ分けて

浮揚(19.08.09)

虫も少ない
猛暑の庭に
ハグモの巣

葉陰を辿り
聴きわける
導管の響き

地中深くへ
根を震わす
宇宙の指先

重力に抗し
巻き上がる
揚力と葉緑

枯れ果てる
好奇心から
追い越され

引きこもる
身体に纏う
老化の兆し

身じろぎ(19.08.06)

職を辞めて
身の程など
定まらずに

寝起きの空
の色までも
むき出しに

養生すれば
歩き回れる
身体の震え

譫妄の拳が
壁を打った
日々の残響

抱き留めた
後ろ姿から
抜け落ちて

拾い集める
骨の欠片に
問いかけて

やあなあ(19.08.02)

暑中稽古の
頁の隙間に
挟み込まれ

庭に訪れた
野鳥の動き
追いかけて

猿と人との
息を詰めて
間を拡張し

立ち上がり
前後左右に
分節化され

何処へでも
転ぶ自由に
もて遊ばれ

二足歩行が
行き当たる
呪文の響き

屑入れ(19.07.30)

咲く花鉢に
水遣りする
左右の腕前

落花を拾い
捨て去れば
動きの欠片

鼻紙を投げ
込む途中の
的を繋げば

左肘付近が
敷く軌道を
乗り換えて

井桁に折れ
曲がる様に
揺れる右肘

ワイン注ぐ
左腕の震え
的を探して

無文(19.07.26)

聴き溜めた
音源ばかり
繰り返して

馴染むまで
問いかける
絶対音感に

身寄りなく
わからない
方法だけが

取り残され
流れ着いた
身体に転び

上下左右に
聞き耳立て
身に覚えの

問いかけに
飛び乗って
どこまでも

無為(19.07.23)

静止できず
杖を両手に
一本歯下駄

尻に敷けば
滑り落ちる
外野芝生席

スキーから
自転車まで
左回りから

背もたれも
要らなくて
半身座りに

杖が頼りで
車椅子など
知らぬ祖父

在るだけで
身内に籠る
手の平返し

手足腕脚(19.07.19)

蜘蛛の巣に
庭木の枝葉
枯れかかり

折れ曲がる
枯死の枝に
渇く樹齢が

老い揺蕩う
肉体と身体
の隙間から

不思議にも
生きのびる
無上の朝に

引き継いだ
合掌と体操
左半身から

抜けそうな
腰痛や痒み
何れ側から

連鎖(19.07.16)

曇天逆さに
生え揃った
梅雨寒から

百名山巡る
三点支持の
足の踏み場

逸らさない
受け答えの
稜線を跨ぎ

雲海に浮く
影の身体が
透ける層に

綴れ織りの
怠け勤めが
はみ出して

前後左右に
不意が操る
その場限り

骨抜き(19.07.12)

体内に潜む
感度を覆う
無意識の鱗

取り違える
カタバミと
クローバー

薪割りから
草刈りまで
身体が捻れ

朝起きから
半身になり
左右を占う

踏み出せば
優先させる
段差の一歩

食べ易くも
鯵の開きの
左片身から

観察(19.07.09)

自問自答を
繰り返した
遠い夏休み

川釣りから
帰り蜘蛛の
巣を書写し

雨の庭から
手折った枝
模写すれば

川に触った
目の動きを
手が覚えて

迷子の鶏が
蚯蚓の巣を
啄むように

引き写した
餌食う魚が
恋の自画像

雨宿り(19.07.05)

端っこから
見失いそう
中心はどこ

雨の隊列を
追いかけて
街の外まで

ピンボケの
郊外の空を
見上げれば

脱色された
雲の穂先が
濡らす肌の

裏側で泳ぐ
うろ覚えの
小魚の名前

身体を啄む
交点と接点
街中水族館

型遊び(19.07.02)

抜こうにも
子供の力み
抜けなくて

疲れる前に
止めるから
出会えない

後手に手を
組んだまま
椅子に靠れ

背中で押す
手甲震わせ
動く指先に

仰向けなら
組み敷いた
両腕両足に

掌合わせて
指先残せば
アーチ状に


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