十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)

最終更新日:2019/06/28

半生(19.06.28)

梅雨空から
降りてくる
生乾きの瓦

屋根の下で
溢れ出した
内部の自然

置き忘れた
番傘が開く
音が聞こえ

もろ肌から
老い疲れが
脱がれ落ち

虫食い葉の
紫陽花から
半夏生まで

濡れそぼる
鷺のように
単独遡行が

本籍地(19.06.25)

ふらつけば
足元に擦り
寄る猫の頭

半島引揚げ
母子家族を
待っていた

明治育ちが
取り仕切る
里山暮らし

ひ弱な育ち
履き潰した
草履に下駄

履き捨てた
地産地消の
一本歯立ち

公界彷徨い
極む身の程
踏みしだく

噛み合せ(19.06.21)

庭で昆虫を
戦わせたら
喧嘩もどき

脱ぎ急いだ
厚歯下駄を
両手の甲に

構えもなく
振り回せば
怯んだ相手

いじめから
脱ぎ揃えた
もぬけの殻

変態下駄を
裏返し履き
逆立ったら

歯車もどき
吹き抜ける
螺旋階段に

うろ覚え(19.06.18)

蟻の隊列の
始まりから
終わりまで

穴だらけで
葉脈を晒す
紫陽花の葉

朝飯前には
仏前の掌で
口を閉ざし

音をたてず
味わい質す
箸の持ち方

裏山からの
雑木担ぎが
鉈の通り道

口から胃に
腸へ抜けて
繋ぐ身体に

紙縒り(19.06.14)

下駄履きが
追い立てた
庭の小蟷螂

風に煽られ
毟り残した
雑草の隙間

踏み倒した
偶然と必然
綴じ合わせ

自然に抗う
庭の手入れ
作業半ばで

祖父と母が
畳み終えた
古文書の謎

学びの力が
薄い重力で
繋ぎ合って

夢の体(19.06.11)

下駄で歩く
狭い庭にも
梅雨の晴間

濡れた枝葉
避けながら
捌く自然体

軒端遊びで
眠りこけた
手足の記憶

対になって
触知される
左右観から

触る隙間を
舐めとれば
我を忘れて

下駄を脱ぎ
手に履かせ
振る虚空へ

手合い(19.06.07)

目に鱗など
と言わずに
体内に潜り

腑に落ちる
皺だらけの
面影が鱗に

八方破れの
着ぐるみに
縫い合わせ

着膨れせず
老いの自然
に習う稽古

一つ身から
着せ替える
仮縫い肌に

浮き沈めば
漣のごとく
力みが抜け

居合せ(19.06.04)

ネット越し
真向かいに
立ち会って

体を開けば
ラケットが
振り幅描き

物心前から
見え隠れに
纏わりつき

体を覆った
編みヒモに
気づけない

鱗を解して
編み直せば
毛穴が開き

歳とともに
重さを質す
内臓の向き

肌触り(19.05.31)

時候で始め
身体で終る
田祭り便り

外的自然を
内的自然に
置き換えて

手をつなぐ
半ズボンの
少年と老人

朝の仏壇に
白米を供え
合掌した肌

化学肥料や
農薬などに
縁がなくて

手を抜かず
疲れにくい
手探り作業

連鎖(19.05.28)

振り返って
区別し難い
直線と曲線

磨り減った
経典の頁に
祖父の余韻

整えられて
位置関係が
安定すれば

求められる
一つの力に
射抜かれて

行われたら
立ち消える
余韻の彼方

止まっても
動き続ける
内から外へ

無手(19.05.24)

移り定まる
夢のような
素手で掴む

現の身体を
旅人の如く
漂泊すれば

後追いする
地図に跡を
刻み込まれ

脱ぎ去った
日々が紡ぐ
筏に流され

中洲か島か
見分け難い
彼岸と此岸

見え隠れて
抜手を返す
波間で脱皮

手先まで(19.05.21)

切り株から
生えてきた
茸を写真に

根元近くで
剪定しても
跡絶えぬ花

庭の片隅で
垣間見える
散歩者の脚

消えて遠い
外遊びする
子供らの声

聞こえない
耳に届いた
名無しの臍

内と外から
挟み込まれ
飼い慣らす

舟遊び(19.05.17)

定まらない
風向きから
反転する帆

濡れた腕の
産毛が鱗に
乾いて揺れ

水田で遊ぶ
手製の船を
くり抜いた

丸木に潜む
髪切虫から
匂う製材所

見飽きない
大工の技に
紛れ込んで

おがくずに
埋め込まれ
忘れた初心

中道(19.05.14)

定まらない
立ち位置に
自閉する幹

不揃いでも
伸び広がる
枝葉の歪み

虫食い葉を
透かし見る
芋虫の嗜好

首筋に巻き
胴体を隠し
角度を極め

弧を抜けて
滑り込んだ
色と手触り

身体を畳み
分け左右に
生きる半身

樹下(19.05.10)

吹く風向き
揃う幹から
枝葉が整う

石を畳んで
樹上の蛇に
届く肌合い

輪廻の夢を
脱皮できず
振動する座

体幹遊ばせ
転げ回れば
手足が掴む

立ち位置の
距離を測る
道具の迷路

触る樹皮に
風の行方を
聴き分けて

変速(19.05.07)

六人住まい
から二人に
なった家の

開け閉めが
左右で違う
戸の不具合

上り下りに
傾斜が違う
南北の階段

老に向かう
開け放しの
部屋が増え

食器洗いや
掃除などで
立居振舞う

速さ遅さに
気がつけば
老いてなお

一人稽古(19.05.03)

木地屋住む
集落が消え
失せた辺り

隠れ流れた
伏流水から
浮かび出て

お椀や盆に
尾鰭を付け
浮かべたら

海べりから
遠く離れた
街中に浮遊

家相薄らぐ
囲炉裏端に
埋め込まれ

手足を操り
潜り抜ける
身体の行方

稽古着(19.04.30)

身を隠した
ように母が
遺した図鑑

野草や樹の
頁に隠れる
祖父の聖典

頂きますと
御馳走様が
呼び起こす

親鸞を語る
月忌参りの
僧侶の胡座

誰もが持つ
生と死との
真っ只中で

置き忘れた
浄土を探す
身体に着せ

入り口(19.04.26)

春風に揺れ
雨に洗われ
響く鰓呼吸

口遊びから
体遊びまで
手を拱いて

伝い歩いて
振り返れず
背伸びして

覗いた東の
空が途切れ
迷子の体に

よく似合う
後の祭りも
口呼吸から

血を感じて
立ち騒げば
地に帰るか

尺度(19.04.23)

重く膨らみ
青大将憩う
作業場の梁

猫に追われ
鼠が逃げた
精米機の上

機械を止め
落下を防ぐ
籾米収納口

喰らいつき
獲物諸とも
飛び跳ねて

転げ落ちる
頭と胴体の
せめぎ合い

折り畳まれ
生涯の幅を
測る年齢に

若葉(19.04.19)

光り輝いて
揺れる柿の
青葉の隙間

滑り落ちる
小さな蛇を
潜ませたら

中学部活の
暗い部室で
着替えた肌

蚯蚓腫れを
膏薬で覆う
隠す練習後

抜け殻残し
居残ってる
不自然な痣

骨格と肌で
膨らませた
河豚の泳ぎ

無造作(19.04.16)

色褪せても
心揺さぶる
田舎の庭木

折れ曲がる
祖父の指が
剪定した庭

飲み手失い
埃を纏った
グラスの底

しゃがんで
苔を残して
草を毟る手

当たり前の
体を培った
不便と貧乏

生涯かけて
広さを測る
年齢の奥行

微笑(19.04.12)

庭の山桜の
根元に咲く
水仙が萎れ

日によって
勾配が違う
二つの階段

デジカメを
支える手の
左右の震え

焦点が合う
地面からの
響きのよう

ワイン畑の
土の香りを
酌み交わし

微動を歌う
指の傾斜に
滑り落ちて

目処(19.04.09)

慌ただしい
季節の移り
遅れがちに

ついていく
庭の古木や
老樹の眺め

黒い枝ぶり
満開の空に
透けて見え

立ち所から
揃う体調の
緊張と圧縮

成し終えた
中芯を為す
何一つ無く

立ち所にて
物事を問う
以上と以下

旬目(19.04.05)

空を掃いて
木蓮の白に
並ぶ桜の紅

雲のような
履き心地の
薄い下穿き

胎児の情が
遠出をする
布のおしめ

肩の脱臼で
垂れ下がる
幼児の感触

下書きした
独善の肌に
着込む壮年

老いて食す
行住坐臥の
道理知らず

節目(19.04.02)

散歩がてら
カラ瓶積み
カート引き

そよぐ風に
大小花開く
モクレン科

用水路沿い
入居者待つ
賃貸建築に

山陰うすく
梅から桜へ
移ろう鳥影

曲がり角で
鶯の初鳴き
待ち受けて

年々歳々と
調べの違い
聴き分ける

老い稽古(19.03.29)

軒端を離れ
遊ぶ毎日を
抜け出して

働く以外に
潰しようの
ない日々に

追い出され
動きようも
もどかしく

いままでと
これからを
抜け落とし

とりあえず
引きこもる
姿勢もどき

割戻せない
身体を包む
視野に遊ぶ

残像(19.03.26)

芽吹く庭で
底をついた
灯油タンク

杖をついて
立ち止まる
明治生まれ

振り返れば
松と一緒に
写した祖父

行き帰りの
農道に居た
蝮を一撃し

皮を剥いで
持ち帰った
身体の捌き

教われない
祖父の体力
映す世代観

進退(19.03.22)

多分明日も
トレーニング
してますよ

MLB引退を
する会見の
席での言葉

頭を使わず
出来ている
昨今の野球

野球発祥の
地の後追い
など不必要

日本野球が
面白くあり
続けるには

変わっては
ならぬ頭の
使い方から

遅筆(19.03.19)

カーペット
の端っこや
畳の縁など

躓きそうな
身体捌きが
一筆書きに

売文業者と
もの書きの
余白の孤独

舞い上がる
凧の響きを
聞き取る臍

図式からも
年表からも
遠ざかれば

できるだけ
ゆっくりと
日常を動く

手掛かり(19.03.15)

何処からも
四隅と縁が
見渡す程に

居心地よく
机や椅子が
動線を導き

ヒトの心の
コトに触れ
感応する隅

鼻から臍へ
黙して抜け
る身体の声

僅か三行で
語れそうで
説明できず

傍に居ても
邪魔ならぬ
掛替え無さ

経路(19.03.12)

幹を染める
雨に誘われ
散る花びら

見るほどに
やつれ果て
たどる術も

無用の用に
紛れこめば
浮かぶ老体

どのような
状態なのか
成さぬ力も

消え失せて
観るべきは
無残な枝葉

立ちすくみ
転びそうに
揺らぐ天地

手練(19.03.08)

揺れながら
立ちすくむ
古木の間で

ブランコを
揺り戻した
手足の緩急

掃き溜めた
堆肥の奥の
蚯蚓の動き

身投げして
釣り上げた
三枚下ろし

取り出せず
演った感も
見当たらず

素のままに
転び続ける
手前の動き

別れ際(19.03.05)

水たまりを
飛び越した
別れの挨拶

内なる声を
探し求めて
外からの声

切れ切れの
力の断片を
繋ぎ合わせ

関係と換勁
緊張と弛緩
立会い稽古

真似る型を
呼び込めば
内なる形に

纏めあげる
体捌きまで
程遠いから

試動(19.03.01)

見当たらず
探し歩けば
倒れそうに

一人二人が
入り込めば
出し抜かれ

止まらない
誰かの瞳に
声が響けば

挨拶交わし
前後左右に
名乗り合う

誰れ彼なく
ぶっつけて
跳ね返った

柔らかさが
指先通して
体の芯まで

手違い(19.02.26)

いつ咲くか
競う事なく
紅白並ぶ梅

内外がある
田舎家から
引っ越した

庭木の梅が
枯れ果てた
名残の軒下

巧拙を問う
体捌きから
解き放たれ

剪定の術と
技に気づく
マンション

閉じ籠って
出られない
体の勘違い

自在鉤(19.02.22)

干した傘の
影をめくる
庭の日差し

落とし卵の
殻に隠れた
重心の行方

お湯が出ず
水で洗った
皮膚が透け

心身という
言葉の先へ
橋渡されて

転がり出る
その時々の
好きな色が

匂い立って
目立たない
感覚を染め

梢にて(19.02.19)

梅蕾む庭に
漂う防虫剤
剪定の角度

抑えられて
起き上がる
向きと高さ

巡り合って
立たされた
最前線なら

踏み止まり
限界が消え
去るほどに

隔てられた
枝分かれに
隠された力

跳ね除けて
伸びる幹に
根が出会う

定位(19.02.15)

体調を占う
朝の食卓の
箸使いには

御飯味噌汁
に香の物が
お揃いなら

干物焼きに
海苔や卵や
納豆などは

上げ下ろし
前後左右に
箸の運びを

無造作でも
整えあげる
体捌きの要

お茶を注ぐ
小指を使う
急須の形に

媒介(19.02.12)

表裏返すも
包み隠さず
死角の窓が

入れた足に
小石も触る
下宿の炬燵

夕暮れ伝い
踏みしだく
冬枯れ土手

鰻の寝床に
泳ぎ着いた
膝小僧と唇

手探り誘う
映画館から
山小屋まで

抱き合えば
取り落とす
四足獣の痣

遊離帯(19.02.08)

先行きから
取り残され
踏み迷えば

素潜りして
翻る水かき
波紋に隠れ

光り眩しい
ゲレンデを
水面に映し

魚影を探し
歩行を隠す
岸辺の水鳥

閉じられた
甲門を叩く
幻の遊覧船

探し求めた
身体と体が
乗り合わせ

井桁(19.02.05)

雪も綻んだ
立春の庭に
行き交いし

家人と共に
住み慣れて
見慣れぬ体

浮ついた床
建て付けの
狂う戸障子

使い古して
見落とした
我が身の宿

姿勢を質し
汲み替える
老いの井戸

覗き込めば
共に尽きぬ
間取豊かに

無音(19.02.01)

銀杏並木を
通り抜けた
遠い書割り

すれ違った
背中が語る
無言の挨拶

土に埋めて
掘り起こす
までの匂い

消える前に
手繰り出す
問わず語り

物陰密かに
歌い踊って
聞き耳たて

最も大きく
響く音など
聴き分けて