十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)


反転(17.12.29)

煤払いする
踏み台から
揺らめいて

左右を取り
違えている
虚と実の差

技術の巣が
編み込んだ
虚飾に塗れ

脱ぎ捨てた
肌身を探す
遡行を試み

描き起こす
稽古録から
透かし見る

逆光を辿り
振り返れば
未踏の境地

逆気配(17.12.26)

どんな側に
佇めば気を
交わせるか

上へ下へと
乱気流崩で
不時着の朝

着替え際に
掛け違える
空っぽの釦

見慣れすぎ
当たり前を
飲み損ない

気が向かず
意識もない
日常の狭間

何かやれば
身軽になる
虚体の身体

逆さ杭(17.12.22)

山田の奥で
抜き忘れた
踵から爪先

座らされて
置き忘れた
案山子の尻

裏地を隠し
膕から跨る
騎乗位探し

肘を揺らし
腰を屈める
沈み込みに

膝の辺りを
解き放てば
上下に抜け

前後に揺れ
静まり届く
姿勢の船底

書き損じ(17.12.19)

空と歩道を
占うような
買い物散歩

中学部活の
忘れ形見に
瞑想と摺足

肥桶担ぎで
背中に刻む
漢字読めず

薪割りとか
農作業腹に
書き込まれ

伸縮自在な
筆法を習い
覚え忘れて

38億年の
生命時間が
のたうって

数詩(17.12.15)

凍った朝に
井戸水放つ
融雪ホース

雑誌捲れば
詩人と語る
研究者の頁

手当たりの
年鑑で探す
地肌の消息

書き込まれ
纏められた
乃音を求め

検索端末を
叩く書店が
静まり返り

息を潜める
旅の約束が
管から溢れ

身繕い(17.12.12)

架け替える
事などない
橋を渡れば

一方通行で
気づかない
帰りの風景

身を翻して
送り届けた
荒巻の返信

捌くほどの
身のこなし
習い覚えて

出生の程を
切り分けて
骨身に沁み

老いてこそ
噛みしめる
無分別なら

ワープ(17.12.08)

食虫植物が
姿を隠して
地表を覆い

氷の裏側で
幼虫に会う
成虫の無言

祖母の手が
白身と黄身
混ぜ合わせ

ひび割れた
記憶を壊す
パッケージ

声も通らず
やり直せず
そのままに

藁灰の煙の
奥へ消えた
身体へ脱殻

引用(17.12.05)

田んぼでは
見かけない
わらぼっち

庭木の梢に
根付かせる
沈黙の深さ

書くことは
読むことで
編み上げて

支柱の高さ
見定めれば
今年の樹高

幹と枝との
張り具合が
出会いの数

一人ぼっち
の体幹から
繰り出され

流域(17.12.01)

光り輝いた
浜の茂みに
吸い込まれ

山あい遠く
流れ着いた
入り江の香

四つに組む
筏となって
埋まる窪地

吹く風向き
合わせ舵で
乗り出せば

膨らむ帆に
撓み続ける
帆柱が響き

腐葉土溶け
山肌を透け
死出の愛し

揺らめき(17.11.28)

通り過ぎる
交差点では
共鳴を覚え

三叉路から
Y字路まで
調律違えば

震え立った
音叉が響く
安らぎの間

無音の奥へ
辿り着けば
無臭の分別

骨と皮との
間で謳えば
内臓の表情

日々出逢う
身体が舞う
心に聴いて

二の足(17.11.24)

縺れた様に
印字される
日捲り人体

左右何れか
写り込んだ
最初の一歩

掴み取った
肋骨の裏の
臓器の名前

真っ直ぐに
聞こえない
匂いの感触

雌雄を嗅ぎ
分け散歩を
記憶する手

真っ直ぐに
突き出せば
消え去る胴

訛り(17.11.21)

耳のように
そばだてて
身体を聞く

住み慣れた
物心のまま
言葉で訊ね

耳慣れない
姿と形から
始まる愛聴

気づかない
同行二人の
合わせ鏡に

伸び広がる
天と地まで
響く息遣い

見てくれと
異なる姿勢
で回る風車

抜刀(17.11.17)

身体を通る
管のような
入口と出口

抜き取られ
納めるまで
辿り着けず

掴み取った
空を手放す
骨と皮の間

使う道具で
触っている
身体の感触

骨格を辿り
歪みを治す
内臓の姿勢

崩れる前に
出生前へと
遡行すれば

口癖(17.11.14)

小魚や蛙を
捌いていた
小川の流れ

紐で縛った
ヤゴの尾を
追った距離

歳月を潜り
自作の凧を
手繰る唸り

いまここを
呼び寄せる
音楽と礼節

体格を解く
記憶の中の
幼い体付き

そういえば
手掴みする
骨の時間が

背後霊(17.11.10)

蜻蛉が壁に
時を刻んで
秋の日差し

水平飛行と
交差させる
垂直姿勢に

気づくまで
剥がれない
錐揉み姿勢

抜け出した
呼吸が繋ぐ
内臓揃って

後ろ向きに
歩き出せば
近づく他者

迫り出した
背中を抜け
内に潜めば

背に腹は(17.11.07)

誘い出され
区別できる
好天と荒天

自然の渚に
打ち寄せる
贈与の潮時

身を浮かべ
舳から艫へ
気を走らせ

膨らむ帆を
前後に張り
占う風向き

波に洗われ
拡がる船腹
甲板を傾け

船倉を抜け
寝返ったら
左右知らず

秋暖簾(17.11.03)

通り抜ける
銀杏並木の
左右非対称

乗り合わせ
身体で聞く
ズレと歪み

なだらかに
骨身に触れ
響く丘陵地

枯葉羽織り
一足ごとに
傾く扇状地

蛇行し緩く
内臓に触れ
季節が流れ

散り漂えば
岸辺に沿い
動き覚めて

無体(17.10.31)

古靴脱いで
葉脈たどり
枯葉の海で

音と訓読み
解けぬ結び
脱ぎ捨てて

素足を掴む
二艘の舟を
交互に履き

蹴り放った
爪先までの
鼻緒の長さ

伸び撓んで
左右に漕ぐ
足裏を櫂に

前へ後ろへ
幹で捌いた
体感が響く

ずれ(17.10.27)

刈り込まれ
違和を隠す
庭木の姿勢

100年過ぎ
張り巡らす
枝ぶりから

見下ろせば
日差し辿り
根張りの跡

包み包まれ
幹を隠して
年輪が撓み

自然の如き
動きを秘め
飛び立つ蝶

木陰に散る
跡形もない
位置と構え

伸展(17.10.24)

這い回る蟻
庭から消え
風雨の機縁

剪定作業の
落ちこぼれ
松の双葉が

日差し乾き
棕櫚の箒で
払った姿勢

老い先近い
玄関先から
腰痛が消え

渡りきった
太鼓橋から
振り返れば

接地破れの
雨樋を抜け
這い出す蟻

風穴(17.10.20)

子持ち鮎や
松茸の様に
背筋が伸び

秋の食欲に
立ち上がる
背骨の傍で

前後左右に
身体の芯へ
揺り戻され

腸の奥まで
橋渡される
未踏の老い

差し向かい
打ち合わす
奥の手から

響き渡って
矩形の風が
切り取られ

穴蔵(17.10.17)

踏み止まる
庭先に続く
蟻の行列が

書き損じた
字体の如く
途切れたら

振り出しに
戻れなくて
泣き叫ぶ闇

足探りから
手探り辿る
背骨の両側

刷毛で嗅ぐ
感覚めいた
体内の節目

樹間を走る
動植二心を
張り巡らせ

演戯者(17.10.13)

しかるべき
時と居所を
諭すように

蜻蛉や蝶が
弓形の島を
俯瞰するか

追いかける
鳥の体位と
動きめがけ

風習に抗う
風力発電の
耳障りな杭

肢体を洗う
季節に晒す
骨格に筋肉

日暮れても
囁きかわす
子猫と幼児

見掛け(17.10.10)

見せ場から
探し尽くす
場外乱闘も

健康であり
健康でない
その有り様

踏み外せず
病的階段の
上り下りに

本当らしい
姿勢を質す
ためらいが

見尽くせず
伺いきれず
躰の不思議

群れきれず
孤立できず
繋ぎ目だけ

円環体(17.10.06)

まるくない
十五夜から
輪を描いて

三点を結び
動きまわる
三角形こそ

切り取られ
場に浮かぶ
三つどもえ

前後左右に
上へ下へと
零れ落ちて

さだまらず
たもてない
初対面から

とりあえず
会釈交わす
不安定まで

伏流体(17.10.03)

目覚めれば
アメデオの
裸婦像から

立ち上がる
朝の姿勢が
心づもりに

日に一度は
試していた
上下逆さま

腹を捌いて
吊るされた
眺めの中へ

歩き出して
やってみて
芽生える的

昨日までを
洗い落とす
腹づもりに

遺失体(17.09.29)

担ぎ手から
遠ざかった
お神輿の影

俵担ぎから
解放された
収穫の欠如

在るはずが
身近すぎて
担われざる

物に埋まり
便利すぎて
分からずに

進化を経て
手に入れた
成れの果て

枝葉伸ばし
幹の層へと
伸びる切株

波乗り(17.09.26)

滑りそびれ
逃した体で
春画を捲る

はめ殺しの
窓から覗く
身体の内側

内臓に乗り
滑り込めば
溶ける手足

無意識から
溢れる蛹が
伸び広がり

浮世絵から
はみ出した
腸管を潜り

ねじったり
ひねったり
しない体調

腹立ちぬ(17.09.22)

逃げ出せば
飛んでくる
小石や罵声

案山子まで
立ちすくむ
棒立ち下校

姿勢の裏で
縮みあがる
骨盤の記憶

誰に向ける
胸を張って
伸ばす背筋

傾く夕日に
樹木の影が
墓標の傾き

腹を割れば
立ち揺れる
弥次郎兵衛

海綿(17.09.19)

寝違えたら
馴染まない
身体と時間

波長合わず
踊り間違え
ストレッチ

姿見えない
相性となら
擦り合うか

弱まる程に
星座の形が
見える視力

吸い取られ
見えてくる
女性性から

欲するまま
腹を緩めて
伸ばす背筋

芋虫(17.09.15)

繁る庭木が
剪定されて
深まる夜空

樹下の草が
削り取られ
更地もどき

老眼なりに
背筋伸ばし
裸足で掴み

樹木の様に
立ち絡まる
若木を夢見

伸び縮みが
スライドの
梯子を畳み

前後左右に
重ね稽古で
上下を探る

体内便り(17.09.12)

四季が崩れ
季語も失う
昨今の季候

植木職人の
手が入って
整えられて

家の中まで
忍び込んだ
庭の佇まい

帰り着いて
散歩の後か
走った後で

違っている
身体地図を
辿り直せば

身包み抜き
背骨を挟み
挨拶交わす

無駄履き(17.09.08)

切り倒され
売り払った
桐の木の株

花の香りが
乗り移った
枯れ一葉を

厚歯で踏み
磨り減った
鼻緒が切れ

裸足で帰る
砂利道から
走り歩いて

何を踏むか
一足ごとの
挿げ替えに

歩くことと
走ることの
素足の記憶

小言(17.09.05)

痒みを伴って
繰り返される
毎日の皮膚も

手が届くから
掻いてしまう
老いの繰り言

七年も経てば
入れ替わって
蝉の抜け殻に

取り残された
近所住まいの
古老の後ろ姿

思い為す事が
ひび割れ続け
る老いの手相

どうしようも
こうしようも
人ならざる心

姿勢(17.09.01)

絶滅しても
古代生物の
図鑑動物園

一部だけが
書きかけの
不明の図柄

何ごとかを
始める前の
どんな形が

どのように
乱されたり
崩されても

子どもには
わからくて
見届けたい

立ち位置を
探し続ける
当て所なさ

字画(17.08.29)

ボタンを押し
横断歩道から
見上げた夏空

首を畳んでは
伸ばすように
空をゆっくり

絵筆のような
寝起きの鷺が
調整飛行して

伸び縮みする
羽ばたき音が
体育館に消え

寝転がっても
気づきにくい
体内空間では

足裏から頭へ
ゴロゴロする
波動が抜けて

穴蔵(17.08.25)

何にもなら
ないように
できていた

歩み方でも
きれぎれの
棒のように

折れ曲がり
散らばった
足跡どれか

踏み当てて
拾い上げた
どれか一つ

手にしたら
踏み惑った
無数の余剰

数えあげて
誰か一人が
壁に刻んだ

灰神楽(17.08.22)

雑草の庭に
虫の居所が
見当たらず

デジカメの
焦点を体に
向けながら

線のように
ズームする
意識を絞り

掴みとった
蝗の腹から
伝わる響き

取り出した
雛の鼓動を
包む掌から

落ちた跡が
下腹に残る
囲炉裏端で

墓参(17.08.18)

気掛かりな
タクシーと
空模様だが

夏風邪から
はじまった
体内の季節

共同墓地の
上り下りが
整備されて

JRやバスの
乗り継ぎが
往復ともに

乗り心地も
混み具合も
ほどよくて

天と地から
海辺からも
ほど遠くて

枯れ井戸(17.08.15)

絡みついた
蔦を手繰り
崩れそうに

吊るされて
体が揺れる
視線の底へ

影のような
夏の井戸に
身を投げて

浮かび出た
無意識から
手がかりが

ここまでを
消し込んで
これからも

汲み上げて
見切る先へ
飲み干せば

舞台(17.08.11)

入り込めず
そっと遠く
眺めるだけ

声は聞けず
場面だけが
入れ替わる

踵を浮かし
宙なる腕が
泳がす体に

覆い被さる
闇の演者が
穿つ紙芝居

捲り終えた
場面を綴る
紙縒り作り

見出された
場を見切る
無類の演技

予報円(17.08.08)

分かったと
分からない
が鬩ぎ合い

どうとでも
なりどうに
もならない

台風の目が
朝方に通過
したはず?

円弧の端が
崩れるのと
釣り合った

創生を成す
もう一方の
端をつなぐ

下と上りが
描く傾斜に
生命の輪が

擬態(17.08.04)

庭先を掠め
老眼で読む
動く草書体

振り返れば
縦走路隠す
無音の瀑布

終始不明の
蟻の隊列が
纏わりつく

雲海に対い
ほんとうの
自然を問う

蜘蛛の巣を
描いた手で
蝗を捕まえ

黒焼きする
祖父の手の
囲炉裏端へ

括弧(17.08.01)

老いの渚で
痩せた脛を
洗い出され

脱ぎ捨てた
下駄の奥へ
漕ぎ戻れば

三つの〈〉の
分散力へと
引き裂かれ

地団駄踏む
処世の船底
ひび割れて

積み上げた
習慣も破れ
耐えきれず

包み包まれ
隙間に縋る
肉体が笑う

賭け虫譜(17.07.28)

寄生と共生
いずれとも
見分け難い

昆虫絵本を
開いたまま
戸惑う重心

這い出して
運び屋探す
幼虫の群れ

しがみつき
運ばれ先に
咲き散る花

離れ離れで
有為転変に
ばらまかれ

出会い頭の
再飛行あり
巣篭もりへ

石蹴り(17.07.25)

足の甲から
ころがした
礫を指掴み

重さを点に
取り込んだ
肉体が拓く

放物線から
抜き取った
接線が伸び

掴み上げる
愉快な腰で
トンボ返り

舌で拾って
丸めた玉に
拡がる宇宙

老い先短い
罫線で刻む
稽古の門人

起居の渚(17.07.21)

猛暑日なら
隙間を作る
外出着込み

ぐんにゃり
凹みそうな
舗道の雑草

引き抜けば
火花が散る
コンセント

二点を繋ぎ
駆け抜けた
身体を包み

手つかずに
目から鼻先
掴み出され

来し方から
解体される
行末までも

川下り(17.07.18)

いつの間に
開け放した
夏の顔から

溢れ落ちる
飛沫が乾き
消える響き

聞き取れず
聞こえない
振りをして

やり過ごす
景観を巡る
起居動作に

埋め込まれ
隠れた声を
掻い潜って

身体の奥に
震え伝わる
雨降る叫び

浮遊操法(17.07.14)

こっそりと
朝陽に浮く
仕立て下し

飛び跳ねる
呼吸を絞る
蜘蛛の巣に

干からびて
抜け落ちた
老いの手本

同じ年頃の
祖父の姿に
胴体着陸し

反転揚力で
体内感覚に
潜り込めば

胎児以前に
溯るほどに
死後へ遊行

語り口(17.07.11)

構もせずに
怠りもなく
待ち受けず

身も蓋とも
僅かばかり
翻るだけで

来し方から
行末見えぬ
ホバリング

国家の起源
跨ぎ越せば
住居の始原

崩れかけた
民家が遮る
格子の彼方

語りこぼし
蚊帳を捲り
夏の縁側へ

浮き身(17.07.07)

夏風邪ひき
立ち止まる
踊り場から

緑を裂いて
這うように
滑空する燕

蕩けすぎた
日常の中の
立ち姿では

手も届かぬ
羽の生えた
背骨が翔ぶ

着古された
皺だらけの
普段着から

抜け落ちて
浮き羽搏く
黒い稽古着

格子(17.07.04)

透し見れば
老い半夏生
雨に濡れて

木虫籠擦る
棒切れ握る
名残の掌に

爪先立って
雑巾掛ける
嫁取り民家

組み合った
家と身体が
上へ下へと

叩き出され
見え隠れた
夏の大掃除

掘り起こす
縄文遺跡に
身体の記号


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