十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)

最終更新日:2017/07/04

架橋(17.06.30)

釣れなくて
川面滑らせ
投げる平石

対岸めがけ
跳ね滑って
忍者の歩幅

数えきれぬ
水面走りを
繰り返して

あるがまま
沈み込んで
浮き上れば

流離うだけ
遠ざかるか
あるべき橋

手足骨格を
橋桁の様に
組み直せば

浮遊(17.06.27)

祖父を追い
分け入った
初夏の山道

老いてみて
潜り抜ける
既視感の森

老老介護で
呼吸法から
転び方まで

杖の一撃が
瓶に沈んで
蝮が揺らぐ

組み立てる
プラモから
遡行すれば

鍛える前の
足腰使いが
甦える足場

旋毛(17.06.23)

息を刷毛に
滑り降りる
小さな蟻塚

技を競った
一番病から
帰り着いて

外側ばかり
眺めていた
花弁の内側

ぶっつけた
膝小僧から
痛みが抜け

足袋が弾け
足首の裏を
流れ落ちて

手癖足癖が
重い体から
洗い流され

触手(17.06.20)

振りほどき
握り返して
扉を開けば

茂みの中に
飛び去った
鶯の鳴き声

跨ぎ乗った
陸奥山道と
バランス板

空耳に響く
時鳥の声の
不在を尋ね

山裾あたり
巡り来れば
木霊する滝

傾く岩場が
なまめいて
濡れ不揃い

ひび割れて
吸い込まれ
消え残れば

移ろい(17.06.16)

木漏れ日に
目を晦ます
花を手折り

振り返って
滑り落ちる
鼻先めがけ

結び分ける
落とした声
流れる視線

足袋を履き
足首を滑り
届く指先へ

弾きかえす
手旗信号が
宙に浮いて

跨ぎ越した
領域を渡る
微塵の行方

切り株(17.06.13)

立ち竦んで
庭木の年輪
覗き込めば

宿り隠した
立ち姿から
枝ぶりまで

樹木構造が
井戸の底に
畳み込まれ

枯れて沈む
樹木の根を
響き放って

根こそぎに
汲み上げて
溶き解せば

見え透いた
馴染み形に
手足取られ

舟状雲(17.06.09)

芥子粒まで
繰り出した
タコ糸の先

召し取られ
天と地まで
とどかない

浮き上がり
響く手触り
巻き上げて

丹田極めて
屹立すれば
反り返って

覗き覗かれ
宙返りする
凹凸万華鏡

足踏みして
跨り乗った
胴体が割れ

乗り換える
手足のまま
飛び出せば

乗りに乗り
見える空に
先立つ地面

両足で迷い
跳ね返れば
着地の骨格

寄り添い(17.06.06)

庭草刈れば
老いた母の
草とる姿が

口ずさめば
古謡の想い
苔を残して

意識体から
感覚体まで
忘れされば

未だ知らぬ
草の根深い
伸びやかさ

ただならぬ
勢いだけが
毟り取られ

騙されても
立ち返れる
あるがまま

流木(17.06.02)

静止画には
収まらない
朝方の雷雨

増水激しく
二度渡して
振り返れず

立ち返って
掛け損なう
橋上の体感

流れるまま
見失ってる
川面を浮沈

両岸も遠く
川底見えず
知らぬ流れ

濡れ細った
枯れ枝から
伸びやかさ

枝ぶり(17.05.30)

下し過ぎず
外し足りた
去年の剪定

照り返して
若葉眩しい
五月の夏日

葉裏に潜り
忍び寄れば
アマガエル

川面の桜が
噴水の先に
ビル窓磨き

こっそりと
入れ替えた
写真立ての

埃を払って
自然時間を
立て掛ける

無造作(17.05.26)

家主不在を
覆い隠して
絡まる蔦に

老老介護も
果てしなく
崩折れそう

納屋を出て
本宅へ帰る
無言の挨拶

家構えから
消え去った
心構えへと

持ちこたえ
届きそうな
体構えまで

意識された
技を無意識
に行う稽古

草いきれ(17.05.23)

前倒された
夏日続きに
背伸びして

雌雄の鶏が
踏みしだく
恐竜の痕跡

艶めかしく
覆い隠して
そよぐ羽毛

蛙と蚯蚓を
闘わせても
止まぬ鳴声

刈り取れず
擦れ違った
夏草の傷跡

夏戸が軋む
建て付けの
隙間を抜け

接写(17.05.19)

軒下濡らし
入り込んだ
六月の雨に

青大将から
逃げた鼠が
咥え落とす

子鼠が震え
張り付いた
青畳の隙間

閉じた歯を
抉じ開けて
真珠を探し

背戸の川で
鼠捕り籠を
浸し見れば

ひくひくと
ピンク色に
もがく鼻先

圧縮(17.05.16)

食べ分けて
毛虫が這う
葉脈の食卓

日々新たに
皮膚感覚で
着替えたら

体幹が通り
掃除も楽な
居所の設計

手癖足癖で
縛られたら
動き続けて

意にならぬ
呼吸を整え
身体を筏に

内に潜って
泳げるまで
気化すれば

花器(17.05.12)

雨に濡れた
新緑が乾く
街中を抜け

青葉彷徨う
Y字路から
袋小路まで

歩む歩幅で
投げ入れた
手触りから

跳ね返った
時空の枠に
浮かぶ表象

有りの儘の
未経験から
謎の形式へ

差し込まれ
立ち上がる
花の違和が

偏食(17.05.09)

何か食おうか
としていたら
何も食えない

何も食わない
ままでいると
何も食べれず

これ食べよう
とするだけで
これを食えて

あれ食べよう
とするだけで
あれを食えて

あれもこれも
めぐり食えば
いつの間にか

食べ永らえる
生き心地から
食べられそう

若葉末節(17.05.05)

緑なす陰で
人方ならぬ
稽古の名残

跡形もなく
しゃがんだ
夢の腐葉土

振り落とす
幹の年輪を
枝葉が隠し

根深く潜む
拘りが育む
持続の巧妙

いつどこで
間違ったか
問い続けて

煮詰まらず
煮崩れない
得意技まで

調律(17.05.02)

始まりから
終わりまで
仕切られず

意味の通る
訳文よりも
原文の調べ

折れやすい
柿の枝から
萌える囁き

奥深くまで
差し込まれ
蠢く擬態を

絞りあげて
共鳴させる
オノマトペ

触手絡ませ
辺縁隈なく
響き交わす

逃れ道(17.04.28)

日差しから
木洩れくる
爆音の葉裏

逃げ込んだ
運河の底に
水鳥の足跡

佇む水辺に
吹き寄せる
流木の残骸

一笠一杖が
山間深くで
途絶え果て

谷筋を穿つ
谺のような
説法と聞法

無事息災も
扇ぎ扇がれ
木の葉隠れ

下絵(17.04.25)

萌える饒舌
揺れに揺れ
言葉もなく

立ち竦む場
隅から隅へ
馴染ませる

檻の隙間を
はみ出して
崩し溶かす

ありふれた
定形の力が
破く型紙に

動き続ける
呼吸姿勢で
演じた失態

収め転じて
片付けられ
まだ見えぬ

やれやれ(17.04.21)

知り合った
同性の森で
迷ったなら

食の技まで
馴染む店に
連れ出され

見過ごさず
場の細部に
拘り過ぎず

背骨正して
手足休める
舌触りから

見えずとも
自在になる
食卓の来歴

潜り抜けて
指なき手に
もて遊ばれ

気球(17.04.18)

乱れ飛んだ
春一番には
無数の中心

一まとめに
包みあげた
春の体調が

呼び込んだ
安全柵から
解き放って

五体すべて
無分別まで
まとめ上げ

忘れ去った
受動からも
能動からも

見放されて
繋ぎとめる
数行の基本

時の渚(17.04.14)

通い続けて
覗き読んだ
木と鏡の森

漏れる声を
引き出せば
ヤモリから

釣り上げた
イモリまで
体幹が働き

浮き上がる
四肢が辿る
時間の手足

潜む胎内で
圧縮された
数億の時間

気づく体が
稽古すれば
死の淵まで

橋上(17.04.11)

もう二度と
登攀しない
遠くの山々

水面に散る
母の最期を
花筏が覆う

眼鏡橋から
遠ざけたり
近づけたり

渡りきれず
橋げたから
ぶら下がり

手を尽くし
取り落とす
流れのまま

観るものの
音に聞こえ
逆巻く渦底

音痴(17.04.07)

喉のあたり
裏返された
手ほどきか

響き具合で
姿勢を正す
音楽室から

引き返した
廊下の端で
扉が閉まり

聞き慣れぬ
楽器の様に
呼び戻され

立たされる
S字姿勢が
保てなくて

逃げ隠れる
迷路の様な
声を追って

欠落(17.04.04)

雪吊り杭の
抜き跡から
芽吹き始め

落盤事故を
塞ぎきった
恐怖の実層

埋められて
見失ってる
土器の幸福

身丈に添う
順風満帆を
掴み損ない

入江が囲む
干満を計り
浅瀬を渡り

寝そべった
島影に休む
脱臼した鳥

痕跡(17.03.31)

七年ごとに
体の組織が
入れ替わり

ネット検索
エンジンで
見損なった

村の記憶も
残ってない
卒業文集に

鼻つまんで
ブリキ屋の
亜鉛の匂い

触ってみる
台風の日の
足の切り傷

転びかけた
囲炉裏端で
灰神楽の熱

若葉マーク(17.03.28)

飾り付けた
冬写真より
春に向かう

出会いから
芽生えまで
飾りたくて

新4年生の
新入団員に
挨拶代わり

身体の中に
見つけよう
小さな仲間

ラケットを
握った腕の
長さを問い

呼び名順に
使い分けて
稽古を始め

刈り込み(17.03.24)

残雪少ない
山麓を下る
雪解け水が

冬の体調を
解すように
滴り落ちて

できなくて
わからくて
一気呵成に

咲き揃った
紅白の梅の
枝切りの技

切り詰めた
引用の跡を
引き受けて

絞り込んだ
深みを覗く
息継ぎから

狭間(17.03.21)

大工仕事や
鍛治仕事の
作業小屋に

居座ったら
軒遊びから
飛び跳ねて

外遊びなら
鉄屑拾いや
薪運びまで

蕨採りやら
野蕗までも
束ねて売り

泳げなくて
潜ることが
出来るなら

呼吸を整え
体を浮かせ
言葉を探す

手工(17.03.17)

筒のように
内へ外へと
呼吸を通す

猫の目線で
渡り歩けば
季節の舌が

閉じ込める
春を破って
広がる宇宙

手づくりの
探査船から
舞い降りて

閉めた襖で
試してみる
星空投影機

親元を離れ
関係づける
時間を探す

遅延片道(17.03.14)

狭い庭でも
雪つり外し
広がる空に

お別れ会の
子どもらが
花壇を描き

根こそぎに
生え変わる
声と眼差し

母の領域を
すり抜けて
靡く後ろ髪

手を拱いて
寄り添えば
間に合わぬ

気がつけど
通り過ぎた
花盛りどき

ずれ目(17.03.10)

雪解け水の
流れを追う
融雪溝から

蹴落とした
上達しない
足音が響く

信と不信の
合わせ鏡に
居付いた姿

問い詰めて
解った手に
騙される腕

解き放った
妄想めいた
内側の動き

逆立っても
翻る魚群が
体内で反転

同化(17.03.07)

取り組もうと
踏ん切りつく
待ちぼうけに

急ぎすぎても
正解不正解に
けつまずいて

食べたい時が
賞味期限とは
何時か解らず

数分だったら
とんでもない
集中力の子供

努力も習慣も
積み重なれば
惰性に溺れて

心身を極める
自然に預けた
骨肉が争って

春屋台(17.03.03)

滑らないで
三月を聞く
土踏まずに

かいな返す
潮渦巻いて
半島の辺り

右腕でない
さん付けの
似合う人が

実はどこと
掘り返せば
根っこだけ

尋ね歩いて
菜の花から
卯の花まで

口ずさんだ
手毬唄から
薫る更地へ

風評(17.02.28)

避けようか
逃げようか
2月の風見

一億中流の
仕分け先が
差別と詐欺

競り合いに
入り込んで
向き合えば

敵が近づき
止める力が
擦り抜ける

動きの技が
我を消して
成り立った

事実無根が
歴史的にも
物語的にも

後先(17.02.24)

解けるまで
知恵の輪が
転がり始め

幼少期から
老年に至る
思案投げ首

手を返せば
達磨転がる
心身一如に

空を切って
身を投げる
殺意までも

二の腕深く
折り畳んで
羽交い締め

撮り逃した
梅に鶯鳴く
先駆け花弁

欠けら(17.02.21)

2月の雪が
窓辺の光と
影を追って

融ける前に
欠けた穴を
探し出して

誰かにしか
聴こえない
音楽が鳴り

誰かが読む
一言一句で
沈黙が溶け

降り止んだ
晴れ間から
透明な骨が

詩を響かせ
書を画いて
宇宙のはて

分身(17.02.17)

外遊びから
弾き出され
プラモ作り

乗り出して
かいな返す
取り組みに

潜り込んで
切り離して
繋ぎ直せば

隠れていた
体内ロボが
起き出して

取説のない
独り相撲が
稽古代わり

老いた体の
廃品利用を
見せた祖父

内観(17.02.14)

短パンに
半袖でも
寒くない

調節器が
子どもに
あるのか

殴られて
きな臭い
体壁から

内臓まで
命が綴る
春夏秋冬

目覚めて
眠るまで
喜怒哀楽

小さくも
心踊れば
身も動く

読み書き(17.02.10)

読み過ごし
たみたいな
図書館から

デパートの
本屋の棚へ
読みかけた

どこまでも
手つかずの
文字の羅列

急き込んで
書棚を渡る
書き手から

橋渡されて
立ち止まる
読み手まで

掛け違えた
眼鏡の奥で
交わす挨拶

転写(17.02.07)

空を明るく
舞い落ちて
まといつく

払い落とす
傘の重さが
すりぬけて

分厚い本の
頁の底まで
くり抜かれ

融雪水滲む
雪面に残る
活字の足跡

指で綴った
複本の背が
立ち並べば

櫂のように
撓む書棚を
漕ぎ分ける

下着幻想(17.02.03)

自在に滑る
下肢が働く
爪先と踵先

安定と不安
定が交わる
土踏まずで

計った様に
打ち飛ばす
上肢の内碗

対の幻から
這い出して
擡げた首筋

幻の鉢巻が
抜け落ちた
腹の底から

見えだした
三本尾根が
交わる頂へ

もつれ(17.01.31)

幼年の耳に
刻み込まれ
織り込まれ

祖母が語る
忘れがちな
昔々語りが

跡形もなく
消え失せた
思春期まで

綾取りやら
折り紙など
狭まる起点

お終いまで
仕上がらず
歪みもつれ

初源の形に
解けるまで
揺らせるか

傍系(17.01.27)

吹き荒れて
振り返った
冬の金縛り

目と耳とが
出合うのは
どんな時空

白昼夢から
臨死体験へ
違いの識別

見て盗めば
言葉だけが
ひとり歩き

区別できる
名付け親が
生む意識の

鼻から耳と
目へ抜ける
脇道の退化

振れ幅(17.01.24)

庭の枝雪も
軽々と落ち
雪吊柱叩き

見えてきた
幹に連なる
枝ぶりから

落雪に映り
折れ曲がる
腕の一振り

肘から先を
スコップに
腕を奮えば

二の腕から
肩先超えて
振り出され

外れた弧が
際立たせる
選ばれた弧

照準(17.01.20)

藁履脱いで
竹スキーに
履き替えて

裏山深くで
構えてみた
背の空気銃

覚えた字の
活字を込め
狙いを消し

鎮める肩に
吊るされた
両肘の裏表

兎飛び跡を
追いかけた
紙の斜面に

見え隠れる
字体を残す
祖母の昔話

上へ下へ(17.01.17)

屋根の裏を
覗き込んで
凍りついて

落雪を待つ
迫り出した
屋根の傾斜

冬鳥の尾が
軒端を掠め
絶え間なく

聞き耳立て
家鳴り前に
浮き足立ち

零れ落ちる
氷柱の雫に
日差し透け

帰属すべき
冬の井戸を
穿つ無重力

鶏鳴(17.01.13)

猫と鼠から
一飛びする
鶏と鼬まで

屋根裏から
鶏小屋まで
血まみれに

空を切って
飛び散った
力みと遊び

生み落とす
訳知り顔の
卵とともに

喉もとまで
問わず語り
こみ上げて

引き絞った
夜の帳裂く
寝覚め空砲

点綴(17.01.10)

車窓の様に
作り付けの
壁区切り棚

戻ってみる
雑誌架には
手触りだけ

閲覧列車が
差し掛かる
吹き溜まり

摘み食いし
重ね整えた
活字に埃が

運転席から
覗き込んだ
引き込み線

撓む書架で
切り替わる
読書信号機

目配せ(17.01.06)

街灯が切れ
雪明かりも
無い年越し

所在無げな
庭の雪吊を
束ねる柱が

幹のように
差し掛ける
投網の冬空

駐車場には
迷い込んだ
一羽の鷺が

車すり抜け
羽撃いては
広さ確かめ

捻った頭が
羽毛の隙間
体内奥深く

摺り足(17.01.03)

緩い靴下で
慣れた足を
足袋に入れ

古仕立ての
着物を纏う
脛が嫋やか

身体に残る
田舎正月の
筒袖に下駄

白足袋から
草鞋までの
祭りの春秋

男と女とで
育む季節が
織りなす綾

脱ぎ置かず
衣紋掛けに
伸ばし眺め


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