十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)

最終更新日:2017/01/02

妙術(16.12.30)

老いた猫が
数えている
煤払いの数

信も不信も
差し替えて
神棚下ろし

ここからも
むこうでも
どこかへと

キャッチし
パスしたら
スルーする

余白確かめ
間合い立ち
会釈したら

無意味から
年の瀬まで
生きる稽古

鳥黐(16.12.27)

12月の雨に
眼鏡のまま
顔を洗った

二階の窓で
透かし見る
通学路から

手探りやら
足探りなど
手繰り寄せ

田植えから
稲刈りまで
体を割れば

肩を沈めて
振り上げた
杵で臼から

削り出した
空白を縛る
命の掛け声

蛇腹(16.12.23)

落ち葉掃く
箒の先から
零れ落ちる

空白の手が
隙間を縫う
乱世と治世

在れば厭う
自然体から
人工物まで

背かれるほど
従うしかない
数ならぬ心身

見失われて
探し当てる
体の整え方

気体化して
縄文遺跡を
散策すれば

飛魚(16.12.20)

当たり前に
育てられた
大気や水中

抜け出して
生き延びる
翼や背びれ

のたうって
筒のように
くねらせて

這い蹲った
胎内記憶の
誕生日まで

くたばれば
学ぶことが
終わるのか

とりあえず
身体を脱ぎ
泳ぎ飛ぼう

雪下駄(16.12.16)

冠した歯の
噛み合わせ
初積雪の朝

融雪装置が
消し忘れた
屋並の傾き

家を建てる
恥ずかしさ
隠す様式も

紛れ込んだ
住み心地と
引き換えに

丸投げする
雪捨て場や
屋根雪など

生え残って
傾く奥歯で
乱れる前歯

重・点(16.12.13)

草臥れたら
落とし試す
電池のよう

無駄力使い
が抜けたら
内側の自然

揺さぶられ
抜け落ちて
スケルトン

間違い誰も
教えられぬ
問いかけに

忘れそうな
きっかけの
太りはじめ

気づかない
体内言語が
重さの中心

図柄(16.12.09)

街歩きから
血脈見えぬ
病葉見据え

雨上がりの
舗道に濡れ
透ける葉脈

洗い忘れぬ
老いる肌の
背にシミも

年々新たに
春夏秋冬を
着飾る樹木

花木の間で
季節の華を
着替える女

時節を飾る
旬を並べて
手慣れた腕

縄目(16.12.06)

朝の雷鳴を
追い払って
強まる雨足

行き届いた
剪定を翳す
庭の雪吊り

掌のように
引き絞った
居場所から

飛び去った
蛾が翻って
娑婆の模様

表に人間を
裏に身体を
縫い合わせ

避け得ない
縁に囚われ
二足の草鞋

残滓(16.12.02)

砂利道走る
響きが残る
自転車の尻

舗装された
散歩道しか
歩けない靴

紐結ばない
靴で歩けば
よろける体

つま先から
かかとまで
掴まり立ち

娘や孫らが
立ち歩いた
畳の足跡と

立ち上がり
襖に落書き
届いた高さ

手入れ(16.11.29)

薄陽あたり
紅葉庭木が
背伸びして

雪吊り待つ
松の梢から
縄目の俯瞰

家屋に隠れ
近くて遠い
体感の裏側

挨拶をして
入る四隅に
視線届かせ

身体の影を
脱ぎ捨てた
言葉の殘渣

掃き溜めで
枯葉の型が
人体を模写

手の内(16.11.25)

一夜すぎて
払い落され
黄葉の並木

大手を振る
ところまで
初心者の腕

その先まで
歩むために
使い込めば

振り放せぬ
思い込みで
仕切られて

内観すれば
潜り抜ける
心体と身体

在るがまま
為すまでは
内なる腕が

吊るし柿(16.11.22)

もいだ柿を
丸ごと齧る
子どもの手

皮を剥いて
縦切りした
種ぬき果肉

蔕を残せば
楊枝いらず
の食べ易さ

刃物使いに
手出し愚か
口出し不要

気づかされ
胸鎖関節を
無闇に辿り

吊るすほど
寒く乾いて
振り抜けば

遮断機(16.11.18)

日溜まりに
舞い込んだ
羽毛を集め

乾ききった
枯葉に編み
込んだ帽子

脱ぎ放った
晩秋列車の
車掌が合図

走り出した
両眼視野が
引き寄せた

レール幅で
息づかいが
打ち込まれ

上り下りの
行き違いを
繰り返せば

普段履き(16.11.15)

衣替えする
山肌も顕に
履き潰した

草鞋や草履
だけでなく
雪下駄など

登山靴やら
スキー靴が
藁靴替わり

足袋を脱ぎ
足指が掴む
川底の深み

浮上すれば
溺れさせる
スニーカー

着忘れても
紐で触れば
普段の着物

紅葉便り(16.11.11)

黙契のように
街路に訪れた
黄葉の佇まい

自然な風から
育まれた歪み
折り畳まれて

普通の風へと
放たれた葉が
血相を変えて

黄昏の調書に
書き込まれた
身の程知らず

悪しき習癖が
問い質されて
身動きすれば

導管の鼓動が
息づかいから
心の動きまで

充念(16.11.08)

半月見下ろす
人気もまばら
夕暮れの街中

気ままな明滅
手足休まらぬ
信号とネオン

手を膝に為す
箸置き咀嚼の
味わい知らず

歩きスマホの
位置情報から
思い手放され

漏れ聞こえる
疎らな静寂に
聞き耳打って

途切れる思い
忘れ果てれば
無念が気づく

秋泳(16.11.04)

山肌を下って
河原を跳んで
庭先に紅葉が

小さな枝葉が
宿った幹から
根付いた支え

天井から落ち
痩せヤモリを
軒下で休ませ

無から有へと
転がり落ちる
自然の呼吸で

盲蛇となって
枯葉かき分け
秋の岸辺まで

日溜りに響く
息遣いを残し
生き延びたか

踵立ち(16.11.01)

元痔主なれど
寒さを和らげ
温水洗浄便座

金に縁薄くも
視力を補って
メガネ持ちに

鉢が大き過ぎ
試着し続けた
合わない帽子

心身に屯する
虚無と神とを
行き来したら

衰えつつある
第二の自然が
見えにくくて

祈りを冷ます
呼気を強める
未知なる自然

盗み(16.10.28)

鳥と雑草が
入れ替わる
ホトトギス

カッコウの
真似をする
見取り能力

盗んだ巣に
散った胸毛
田植えどき

初音が響く
林の辺りに
偏ったまま

芋を焼いた
風に乗れば
歪んだ方位

物事と表象
繋ぎ分けて
盗み見れば

離陸(16.10.25)

庭木の枝に
引っ掛かる
破れ落下傘

滅多に虫も
かからない
ホバリング

慣れ親しむ
軒端遊びを
抜け出して

竹馬が繋ぐ
両手両足が
地面を離れ

デコボコの
田舎道から
原っぱまで

初乗りした
自転車倒れ
転げ落ちて

風まかせ(16.10.21)

叔父さんに
誘い出され
山葡萄採り

尾根を数え
秋風に紛れ
県境の谷筋

嘘っぱちの
処世技術が
まかり通り

崖際の木に
引っ掛かり
墜落しそう

垂れ枝掴み
引き揚げる
身過ぎより

ディランの
切れ切れの
歌いっぷり

情熱(16.10.18)

遊び疲れて
投げ出され
錆びた輪金

埃をかぶり
うずくまる
木組みの場

残り時間を
解き放って
組み合わせ

驚きだけが
掴み取った
知恵の無念

庭のつる草
日がな一日
伸ばす手足

動かす度に
思い違って
無限の遠さ

秋海月(16.10.14)

秋の建築に
光や風など
濃淡を添え

傾く噴水の
しぶきから
逃げる蜻蛉

咲き揃った
コスモスが
川面に映え

河口に届く
まで流れに
皿を浸せば

陸の河童が
鯨や海豚に
劣らぬ動き

汽水域から
深層水まで
茫茫と漂う

端緒(16.10.11)

鳴き声など
忘れ去った
螻蛄の前足

蟷螂の斧が
ギザギザの
弧を描いて

黄色い蝶が
迷路を描き
障子に透け

直射日光へ
抜け出した
蚯蚓の恐怖

違和の緒が
噛み切れず
吐き残され

触手を軸に
蟋蟀が織る
咀嚼の歯型

導管(16.10.07)

剪定された
庭木の根が
地中に伸び

聞き分ける
空から降る
エネルギー

樹液の中で
絡み合った
葉緑と揚力

重力に抗い
立ち枯れた
古木の年輪

光を奪われ
遡れなくて
立ち止まり

天に根付き
地上に残る
無尽の刻印

波長(16.10.04)

放課後には
秘密基地で
自然に塗れ

背丈の影が
裏山に透け
川原へ伸び

昼下がりに
寝そべった
土手の草叢

夏の昼宙に
見えていた
星屑の響き

老いてから
幼い彼方へ
ひき返せば

抗うだけの
第二の秘密
基地に紛れ

起こり(16.09.30)

立ち止まり
鏡に映れば
木目が階段

しゃがんで
覗き込んだ
関節の裏側

手触りなく
聴きわける
耳のかたち

腕を伸ばし
打ちつけて
畳み込まれ

骨格を伝い
響く速さを
写す三面鏡

人格も消え
心おどれば
白黒問わず

手がかり(16.09.27)

朝の窓際で
樹影見えず
木犀の薫り

見えだした
山脈の如く
立居振舞い

表層を洗い
深層を拭く
違和の正体

デパートの
屋上で社や
遊園地消え

跡地に佇む
巨大広告の
清涼飲料水

体、躰、體
どの身体で
飲み干せば

志向(16.09.23)

風雪を凌ぐ
夏を越した
庭木の剪定

枯れた樹が
吊るされて
撓むリフト

ワイヤーで
運び上げた
労働の日々

解き放たれ
待ち受けた
斜面の重力

第三の腕が
体軸を掴む
新しい捌き

長い腕から
振り下ろす
無形の霊力

複製(16.09.20)

栞のように
著者の頁に
挟み込まれ

読むことの
底を分かつ
生前と没後

ガキ大将を
追いかけて
製材所裏へ

大鋸屑から
拾い上げた
髪切虫の声

牛のお産を
やわらげた
納屋の藁束

隠し部屋で
飼い葉桶を
蹴飛ばした

家族樹(16.09.16)

剪定された
庭木の陰に
石灯籠など

抱え起こす
やせ細った
重たさから

松のように
根切りされ
出自を包み

濡れた筵で
縛りあげて
促す根付き

庭石の下に
埋められた
猫の鳴き声

遠い背戸に
残してきた
庭木も枯れ

遊園(16.09.13)

すれ違った
曲がり角で
耳に残った

日々の死を
歌いあげた
四角い紙箱

パンドラの
箱のような
重さ軽さ?

木箱に詰め
川に流した
水族館の昼

鴉に襲われ
背後が怖い
朝の植物園

謝肉祭なら
動物園では
閉園後から

足止め(16.09.09)

立ち寄れば
雷雨が洗う
窓際閲覧席

かろうじて
封じ込めた
歪んだ頁に

映り込んだ
雷鳴の如き
言霊が走り

労働の手が
とどかない
雨と雲の闇

稲妻走って
唸る琴線が
噛み砕かれ

数え切れず
強制された
不幸の彼方

蜻蛉(16.09.06)

刈り残した
草がゆれて
飛び立てば

夕日に輝く
空しい鞘が
とんぼ返り

人型一体に
敷き詰めた
マットレス

心にもなく
引き継いだ
身体の行方

掴み損ねる
個を超えて
彷徨う空に

昼夜違わぬ
方向音痴で
問わず語り

眺読(16.09.02)

箱庭みたい
自宅二階の
窓際読書を

詰め込んだ
カバンを肩に
乗り込んだら

古本漁りが
車窓に映る
紙魚のよう

季語の手を
詠み込んだ
スキャナー

閲覧席から
町並みまで
短冊に刻み

活字で編む
栞を浮かべ
秋めく空へ

踵呼吸(16.08.30)

藪漕ぎ斜面の
土踏まずから
膝までの緩み

寒稽古の床で
うずくまった
素足の冷気が

布団の中まで
駆け込んでも
冷たい指先に

代掻きあとの
田の温もりで
ふやけるまで

長い呼気から
短い吸気まで
蛭が伸び縮み

足裏で交わす
気の流れから
取り残されて

息遣い(16.08.26)

海鳥が運ぶ
夏の息遣い
吹き抜けて

尾根を辿り
滑り落ちる
雲海の流れ

老いの坂道
きれぎれの
呼気と吸気

杖をついて
渡りきれぬ
三途の浅瀬

引き出しに
指跡残して
破れた聖典

写真立てに
はまらない
遺影の余白

素手(16.08.23)

机上に並ぶ
拾った石に
古い木の実

木彫り眺め
握り転がし
触り読めば

削り上げた
手のあとが
見えなくて

淀みがなく
途切れない
呼吸が整い

始まりから
終わりまで
継ぎ目なく

障害もない
受けで動く
明確な即興

過誤(16.08.19)

消えかかった
踏み跡を辿り
雑木山の頂へ

平穏な最後に
救急車よりも
看取り医師が

落ち葉を掃き
見える墓石を
通路のように

介護の階段で
取り残された
未開封の便り

読みきれない
文字の時空に
折り重なって

書き残された
読経のように
降り注ぐ言葉

積ん読(16.08.16)

走馬灯浮かべ
八月の山から
海に届く流れ

上りと下りを
混ぜ合わせて
渦巻く濁りに

精魂と精霊が
前後入れ替え
分け入る霊性

漕ぎ続ければ
自転車も舟も
体に馴染んで

こぼれ落ちた
一滴の汗から
新しい立ち技

中州に居並ぶ
鳥が飛び立つ
花火の後の空

提灯(16.08.12)

竹を削って
ひごに紙を
張り回せば

はみだした
余白に沈む
遠い登山図

生き延びた
小商いから
ご来光まで

霊山登山に
導いた闇を
纏ったまま

女人禁制の
尾根筋から
藪を漕いで

小刀を頼り
刻む谷筋に
麓の灯りが

炎天蚯蚓(16.08.09)

冬の岸辺から
雪かきをして
夏の浜辺まで

泳げないから
日記のように
舟をつないで

裏から前庭の
夏草を刈って
人称の航海へ

無人島向けの
読書記録やら
プレイリスト

見聞き目的や
努力の限界に
縁がない堆肥

微熱くねらせ
闇を縫う光が
宇宙へ抜けて

罫線(16.08.05)

夢のように
猫が咥えて
持ち帰った

何ものかの
肉の塊から
転がり出た

手の骨格で
漉いた紙に
刻まれた跡

飛び跳ねる
文字の影を
摘み損ねて

めくり返し
めくり戻す
指の隙間で

挟み込めば
尻尾を振る
言葉の虹が

夏の欠片(16.08.02)

田畑の脇を
駆け抜けた
猟犬が吠え

羽ばたけば
群れの中の
一匹みたい

拾ってきた
猫の欠伸に
出迎えられ

狩猟採集に
明け暮れた
県境の裏山

飛び越せる
夏の海峡を
泳ぐように

土器の欠片
繋ぎ合わせ
狩人の時空

遅延(16.07.29)

暑さ呼吸し
姿勢正して
夏草の揺れ

バス停高く
羽搏く鷺が
飛び去れば

同じ仕草を
できるだけ
引き延ばし

ゆっくりと
持ち越せば
やってきた

遅延バスの
ドアが開く
のり心地に

初心目線で
立居振舞う
身体の隅々

敷物(16.07.26)

伸び具合に
むしり跡が
残る庭の草

四畳半から
老母の影が
転がり出て

試してみる
腕立て腹筋
逆立ちなど

無残な名残
曝け出した
六畳の畳裏

覆う強張り
力みを解す
カーペット

耕し損ねた
身体を畑に
蒔き直せば

下山(16.07.22)

剣や槍など
登った脚は
過ぎ去って

帽子掛けに
裏返された
鳥打ち帽子

板の間から
畳の上まで
老いを担ぎ

浮きが三分
沈みが七分
泳ぎ知らず

裏返っても
剥がれない
甲羅の素性

古登山靴に
夏山越した
履き心地が

虫干し(16.07.19)

耳を当てれば
ガソリンカー
の遠い響きに

夜の藁人形を
射抜いた針が
五寸釘の太さ

レールに並べ
鉄橋の下へと
潜り込むだけ

稲田を揺らし
轟音走り抜け
乱雲の向こう

拾い集めれば
潰れ鈍く光る
手裏剣の重さ

夏の大掃除の
干し畳の裏に
残された傷跡

父の手(16.07.15)

ガラクタで
満杯だった
オモチャ箱

転がり出た
胡桃の艶に
残る手触り

三八式銃の
弾丸らしき
潰れた信管

日本刀から
指揮刀へと
刃文が伝へ

母が残した
父の遺品に
面影も無く

衰え握力で
触るほどに
父性握れず

普通(16.07.12)

まるで別物だよ
クラシックから
タッチに買換え

どう操作すれば
シャッフル再生
できるか迷った

1分あたりなら
心拍60〜80回
呼吸16〜20回

の健康成人では
最高血圧120位
体温は36度前後

に素早く戻れる
息遣いで緩んだ
快適姿勢で聴く

異常から正常へ
機器との隙間で
自由な行き来が

形跡(16.07.08)

二階の窓へ
這い上がる
朝方の蝸牛

夜を呼吸し
闇に寛いで
姿勢を保ち

そそり立つ
襞で撫でて
動き続けた

庇の彼方に
野鳥の姿が
目を光らせ

強風の折に
網戸に貼り
ついたまま

昨年の殻が
跡形もなく
剥ぎ取られ

紐解き(16.07.05)

蒸し暑くて
寝苦しい夜
の寝返りで

ミステリー
の転がった
殺傷死体に

仰向けから
うつ伏せの
逆卍寝相で

背に腹など
厚みの違い
変わり果て

メタボ腹も
裏返されて
ぺちゃんこ

眠る脳細胞
掻き分けて
はみ出す謎

掃き掃除(16.07.01)

見え隠れの
夏の野鳥を
探す雲間で

鳴き声から
姿を探せば
図鑑に消息

湿った床で
怪我で転び
重いモップ

引きずれば
聞こえ来る
家族の不在

書き損じも
ただならぬ
老いの行末

逆らわない
身体使いで
何に逆らう


ご意見・感想:kyoshi@tym.fitweb.or.jp

「高屋敷の十字路」に戻る