十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)

-最終更新日:2016/07/01

梅雨晴れ(16.06.28)

撮り溜めた
写真の壁紙
シャッフル

紫陽花から
半夏生まで
九十九折で

散策しても
拡がらない
庭の奥行き

受話器から
数十年ぶり
ヨメの知人

やっつける
手際料理で
食いつなぐ

日々の幸せ
指摘されて
孫話に落ち

石ころ(16.06.24)

遠い田舎道で
老馬と少年が
交わした無言

遺物のような
錆びた銃弾と
磨かれた胡桃

三反百姓家で
幼老を結んだ
引き揚げ家族

失念していた
年齢差が65
だったりして

竜巻のごとく
過ぎ行く時の
痕跡のなかで

胡桃を揉んで
柔らかくした
指で磨く錆び

浮動(16.06.21)

空模様がらみ
伸び縮みする
パラシュート

ザリガニから
メダカまでを
混泳させても

観察できない
動きの秘密を
閉じ込めた夏

食べられず声
も出ない働き
から動きまで

綾なす伸筋と
屈筋の群動が
織りなす行い

体癖に従って
紐を添わせる
気が即動即変

師匠(16.06.17)

足で書いた
田畑や庭の
植物誌から

手で書いた
家畜ならぬ
動物誌まで

捲り続けた
良い日悪い
日普通の日

あるがまま
身体を晒す
晩年の祖父

重度介護で
介護ならぬ
老いた母が

時間知らず
眺め上げた
見返り仏様

仲立ち(16.06.14)

雲漉く風に
雨根が乾く
屋根を滑る

アクセルと
ブレーキが
絡み合えば

考えないで
触れ合える
枝葉と幹の

影が傾斜に
残されても
再現できぬ

組み合った
言葉の働き
と動かなさ

勝手気儘と
怒りっぽさ
をとりなす

蝶と猫(16.06.10)

みな古株で
花もまばら
庭の躑躅の

植え込みを
ひんぱんに
往来する猫

動植物化が
露わになる
住人に似て

動きも鈍く
暑さ寒さも
耐え難くて

一輪挿しに
挿す薔薇の
棘に刺され

撮り損なう
装花めいた
揚羽蝶の影

尾翼(16.06.07)

砂利道から
舗装道路に
切り替わる

風向きから
垣間見えた
一瞬の静止

芝居を作り
演じる迄の
楽屋と舞台

打ち急いで
打ち遅れる
打ち上げに

見逃される
たった今に
止まること

水平からも
垂直からも
見放されて

六月の街風(16.06.03)

十数年やった
頼まれ仕事を
終えた曜日は

サイクリング
日和なれども
お出かけバス

足して百四十
歳の老夫婦が
乗り込む隙間

好きでも嫌い
でもない仕事
に招かれたら

先がないのを
見極められる
橋を渡るだけ

請われたなら
仕事になるが
天職は叶わぬ

食卓(16.05.31)

水田を掠め
宙返り燕が
皐月の切札

覚えのない
手捌きから
溢れる渇愛

囲炉裏端で
煮炊きされ
孫の胃袋へ

田植えから
稲刈りまで
畦道の弁当

日々繋いで
女系模様の
卓袱台囲み

それぞれの
幼児食から
介護食まで

遠隔(16.05.27)

毛虫の姿が
消えた庭に
蝶が舞えば

軒下を伺う
無人機から
降下する影

富貴の人が
気づかない
リングの汗

蜂のように
闘い終えた
ボクサーが

立ち向かう
老いた体を
見舞う震災

瓦礫が覆い
隠す破局の
無常の果て

転開(16.05.24)

月明かりに
惑わされる
七つ星の光

人差し指と
親指の骨が
出会う指圧

丁半見極め
座頭の耳が
閉ざした目

落語が語り
尽くせない
衆生の体癖

恣意が繋ぐ
棟割長屋の
縁起を訊ね

夏風が導く
山腹辿って
信貴山絵巻

始動(16.05.20)

緑の枝ぶり
透かし見る
飛行機雲が

交差すれば
今朝の運勢
揉み消され

縛るでなく
相まみえて
這わせれば

居合わせた
見知らぬ空
地図届かず

巻き飛ばす
竹とんぼの
軸が震えて

擦り抜けた
手のひらに
紐の間合い

一輪挿し(16.05.17)

取り替える
季節外れの
写真立てに

時計草から
紫陽花まで
刻まれた旅

置き所ない
花の一枝が
投げ込まれ

貰い受けて
徳利の肌理
銘酒で磨き

水切り刃で
研ぎすます
花びら散る

下駄箱から
仏壇はさみ
床の間まで

切り絵(16.05.13)

吹き荒れた
五月の風と
葉裏の毛虫

齧られても
空を流れる
雲の擦過音

追いかける
聞きたい音
見たいもの

仕込み杖に
空耳かざし
空目浮かべ

振り返った
庭木の影が
寿命を数え

傾く軒端で
壁抜け促す
白紙の余白

パンク?(16.05.10)

虫ゴム替え
一夜寝かせ
走り出せば

なだらかに
抜け落ちる
脇を吹く風

萌え翻った
緑の粘膜が
躍動すれば

亜脱臼して
こすれ合う
新型自輪車

空回りさせ
漕ぎ出せば
側溝が迫り

避け損ねて
溜め溢れる
見返り漕ぎ

崩落譜(16.05.06)

吹き荒れた
風に耐えて
新芽が傷み

青葉害虫に
風穴残さず
出し抜かれ

咲きたくて
見出せない
花の有り様

蜻蛉の尾が
溜池を打つ
波面の拡散

魚眼を隠す
水草に絡む
気泡が揺れ

均衡破れた
水の隙間に
溢れる魚影

身震い(16.05.03)

数珠繋ぎに
均衡を先へ
伝える毛虫

気づかない
身構えから
崩れ落ちて

日常纏った
体の張りが
緩みほぐれ

日頃隠され
抑えられた
自分が蠢き

知らなくて
待たされた
新たな均衡

いまここで
崩れそうな
縁を渡って

落語(16.04.29)

四月の雨が
洗う羽織を
脱ぎ捨てて

二足歩行で
思い起こす
娘の初立ち

野生公園で
餌欲しさに
立ち上がり

相棒の肩に
手をかける
熊公と八公

いまここの
立ち姿から
世界に触れ

縦横いずれ
どんな形で
語り合うか

減衰(16.04.26)

まったりと
朝靄が隠す
残雪の山肌

雀の春子が
戯れ揺らす
木の芽時に

飲みたくて
アイラ島の
10年物など

名前を忘れ
臭い香りが
ボトル姿で

どう見ても
飲むために
飲むだけの

繰り返しを
目指すほど
酒量の衰え

縮小(16.04.22)

自転車から
乗り換えて
昼風呂掃除

萌える緑を
引き裂いて
亀裂が走り

満期退職を
祝う集いの
年金生活者

ライブから
アーカイブ
へ肩代わり

図書館から
書店を覗く
行き掛かり

耳から遠い
熊本在住の
書き手の声

反照(16.04.19)

照葉か猫か
区別しない
玄関感知器

人気のない
静かな庭が
モニターに

こっちから
あっちから
うえからも

交差しては
通り過ぎる
飼い猫の影

縮むように
暮らし保ち
十重二十重

剥き放たれ
周回軌道に
照り返され

背表紙(16.04.15)

緑ほころぶ
街並みから
抜け出せば

記憶の中の
映画館から
図書館まで

開け閉めの
音も忘れた
シャッター

閉園された
観覧車から
看板を数え

自転車から
空気を抜く
アーケード

裏から表へ
通り抜ける
空洞の響き

芽吹き(16.04.12)

7年経った
朝の線香を
等分に折り

ひと知らず
生死を分つ
粘葉装の頁

芽吹かない
盆栽の陰で
冥想を重ね

花瓶に挿す
花の寿命を
刈り込めば

植え込みを
行き惑って
雑草が伸び

引き抜いて
振り下ろす
背中の判断

祭礼(16.04.08)

鳴き合わせ
競うように
咲き揃って

春の幕間で
見上げれば
山車の軋み

雑踏の奥で
捲し立てる
香具師の声

皺多い手に
宿場町まで
連れ出され

祖父と孫を
隔てる歳が
着流す掘割

喧騒を輪に
ゼンマイを
巻き戻す船

綴じ代(16.04.05)

読み書きの
つなぎ目を
綴じ合わす

見開きなら
これまでと
これからの

裏表すべて
見通せない
和装本から

数えきれぬ
虫食い跡で
読み落とす

いまここの
交差点から
立ち消えて

新たな間に
立ち現れる
転機の狭間

亀甲(16.04.01)

襖や障子の
開け閉めで
返す手の甲

しなやかに
開く背中が
呼び覚ます

掃き掃除や
除雪作業に
薪割りなど

祖父の背を
伝い落ちた
汗が滲んで

渇く老いの
編み目深く
絡め捕られ

結び方から
忘れ果てて
ほどけない

藪漕ぎ(16.03.29)

回転翼なら
何でもいい
設計志向で

山間の村を
飛び立った
羽搏く音に

ポケットの
あずき蛇を
解き放って

部室を離れ
竹刀が届く
体育館裏へ

虚弱な力を
分岐させる
術も知らず

藪漕ぎから
滑り落ちて
麓に目覚め

当たり目(16.03.25)

外観からは
雨上がりの
郷土の眺め

寒の戻りに
暖簾を潜る
熱燗の誘い

畳の上での
寝起きから
呼び戻され

片膝立ちの
草むしりで
疲れない体

着崩れ無し
自在な腰の
立居振舞い

肩掛けから
腰蓑までに
気づく仕草

縮小(16.03.22)

里山を抜け
寄り道した
陽溜りから

手折っても
尽くせない
蕨の温もり

仕舞い込む
スキー板で
滑り足りず

回転感触を
身体各部に
埋め戻せば

解体しつつ
取り外せる
雪囲い仕様

割れた体で
縮みこんで
時節合わせ

水門(16.03.18)

木製の床を
撓ませたら
ガラス開き

環状線から
抜け出せば
水鳥の出番

旅立ち前の
水掻きから
泡立つ水深

水面を打つ
名も知らぬ
樹影が崩れ

爪先立った
自撮り棒に
問いかけて

折り返せば
背後に迫る
未知の関門

潮目(16.03.15)

無くなった
羊水が磨く
母音の群れ

枝分かれを
引き絞った
雪吊り外し

腐葉土深く
仕舞い込む
子音の欠片

母の庇護の
根から葉へ
幹を揺らし

大洋を渡る
船のように
発語を櫂に

海流を割る
島影が語る
方言の潮目

フロー(16.03.11)

一人称では
語られない
場所の獲得

自動階段や
昇降機だけ
利用できて

ミクロから
マクロまで
見尽くせず

壊れやすい
世界と触れ
合う情緒が

潜る身体の
回廊を辿り
殻を破って

終わり時を
いつまでも
置き去りに

反り(16.03.08)

濃霧を切り
開くように
爪切る音が

見ず知らず
花の蜜吸う
小鳥の踵に

風に煽られ
撓む小枝を
結び合わせ

無名の袖を
見つけ通す
腕前の指先

掴み損ねた
挨拶を潜る
頭角の先へ

唄う顎から
運指で辿る
練習曲まで

懸け橋(16.03.04)

満開の梅枝の
鶯を撮り逃す
心地よさから

山なし谷なし
筋なし物語へ
逃げ出せるか

いつか捲った
頁で蓋をした
地下の書物蔵

遠い読書から
活字の履歴を
数えた閲覧へ

運動嫌いでも
なくて本当は
学校体育嫌い

集団で競った
球技などから
逃げ果せたか

剥離(16.03.01)

三月の光が
捲り落とす
着雪モール

登り下りで
急ぎ遅れる
出会い頭を

追い越して
抜き加減に
行当たれば

還暦過ぎの
鞍部に休み
泡立つ心身

スポ少から
部活までの
初心の構え

身に余って
あってなき
抜け殻にも

振幅(16.02.26)

振り切れない
針の先で輝き
遠ざかる星に

行き場ないと
文字で刻んだ
指のひび割れ

寒ブリ宣言も
取り消された
冬の湾内深く

粉々に刻まれ
深海潜水艇に
積み込まれて

取り残された
裸身際立たせ
泡立つため息

心身の時空に
絡め取られて
編まれた網目

爪弾き(16.02.23)

弾けないで
爪痕残した
ギターの傷

磨いた爪を
頭突きまで
突き詰めて

爪先立って
弾き飛ばす
額の先まで

無手勝流の
気後れから
逃げ腰まで

乗り遅れた
体を割って
追い込まれ

鱗を逆立て
魚群が描く
道具の動き

丘陵(16.02.19)

色づき始め
なだらかな
梅林の丘が

産毛の陰で
グラス傾け
泡立つ口内

波打ち際に
歩み寄って
寒雀の鼓動

稜線を外し
呼吸に沈む
窪みの辺り

雪解け誘う
谷筋を聴き
分ける歓び

成り成らぬ
斜面を弄る
陽射し撫で

領域(16.02.16)

寒暖激しい
コブ斜面が
日替わりで

空カートの
轍を辿った
買い物散歩

二人分かれ
一緒に見る
別々の映画

多様な向い
風に居着く
対象の内側

逡巡すれば
妄想紡いで
歩き疲れて

たった一人
で実感する
誰かが勇気

雪煙(16.02.12)

青の方角に
分からない
垂直と水平

路駐が多く
路線バスが
走れなくて

バス停から
振り返った
初滑り斜面

音のしない
飛行機雲に
吸い込まれ

孫を背負い
滑り降りた
シュプール

遠い稜線に
巻き上がる
雪煙の彼方

ホワイトボード(16.02.09)

踏み抜いたら
深さが分かる
空の高さまで

横切る二羽が
前後を譲って
消えゆく辺り

なんの事だか
分からないと
告白されても

教科書不要に
切り替えたら
答えはどこに

調べることが
どういう事か
分かり合えず

向き合ったら
板書出来ない
書き損ないが

本立て(16.02.05)

雪化粧薄く
ゲレンデを
遠く望んで

立春の朝に
上ってみた
活字の階段

木目模様の
ガラス越し
見聴きした

読書空間が
更新される
演者と聴衆

ステージと
観覧席から
消えた楽屋

窓越しでも
通りすがり
街中の踏台

そして(16.02.02)

降り積もり
雪解けまで
作為もなく

覆い隠され
割線が入る
偶然の直感

呼び込まれ
心身深くへ
溶け込ませ

寒気去らず
布団からは
出にくい体

試合に負け
悔し泣きも
できない躰

快眠快食を
貪る体操で
起き上がる

居残り(16.01.29)

昨夏休みの
窓口越しに
見えなくて

信と不信が
寄せて返す
教育の浜辺

前後13期の
乗り継ぎに
居合わせた

新旧校舎を
遠く揺らす
天地異変も

介護と病の
見取り図も
描ききれず

最終授業を
終えた教室
居残る学生

手袋(16.01.26)

手袋をして
掘り返せば
狭まる動き

朝の除雪が
積み上げる
抜け水の音

庭の雪玉を
叩き落とす
素手の心地

寒い縁側と
階段を抜け
氷柱の寒さ

極渦の影が
靡いた袖に
地軸を通し

抜け落ちた
作為の塊に
書き置きが

苦戦(16.01.22)

行き帰りの
風向きから
抜け出せば

静まり返る
校舎の陰の
身体の暗闇

身内なれば
勝敗に拘る
目くらまし

結果ばかり
追いかけて
終われない

中途半端な
腰砕けこそ
褒めどころ

食い詰めた
肝のあたり
裏返されて

近親(16.01.19)

白い摩擦に
覆われたら
滑らないか

布を巻いて
紐に託せば
着崩れして

暴力祖父の
着物姿から
より遠くへ

心身違える
隙間目掛け
巻きつけて

解けそうに
密着すれば
観察できず

内向すれば
老齢と死が
腑分けされ

中二階(16.01.15)

螺旋階段か
直登階段か
どちらかに

気づいたら
足がかかる
待ち合わせ

テーブルと
椅子を支え
ガラス張り

せり上がる
舞台めいた
吹きさらし

夕暮れ烏が
駅舎を埋め
舞い飽きず

ロビーには
行き先なく
咲く啓翁桜

紐迎え(16.01.12)

捨てがたい
枯れ木鉢を
抱き上げて

垣根越しに
受け取った
宅配便の箱

下ろす床に
雪吊り枝を
縛った縄目

正月に着た
着物の紐と
帯が蘇って

雪吊り縄の
支柱に映る
庭木の内観

腐葉土深く
根こそぎに
葉脈が溶け

逸れ鳥(16.01.08)

飛び石伝い
切り抜けて
追い越され

川沿いから
消え去った
密集カラス

消息を問う
というより
生存確認が

渡り鳥鳴く
夕暮れ空に
誤配されて

明日の池を
探すように
滑空する羽

夜の階段で
墨を含ませ
足跡を消す

交歓(16.01.05)

無駄な手が
年明け結ぶ
庭の雪つり

見届けつつ
数十年ぶり
招く旧知に

辿りきれぬ
生き様写す
絞り具合で

一期一会の
新年会から
環世界まで

踏み外した
碁石を打つ
響きが貫き

ミクロから
マクロまで
拡がる微動

新しい箸(16.01.01)

数十年ぶり
袖を通した
着物の汚れ

嫁の手慣れ
雑煮の味も
今更ながら

ヤゴを脱ぎ
飛び立った
里山の眺め

覚えのない
着心地とは
何だったか

腰のあたり
纏まり良く
解き放たれ

箸の捌きも
お節を前に
よどみなく


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