十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)


上半期(15.06.30)

半身になり
振り返れば
半夏生の影

非対称へと
溢れるまで
立ちつくし

上から下へ
紐解かれて
常識の流域

気も高まる
変形譚なら
祖母の昔話

孫に着いて
引っ越した
祖父の同意

翻すならば
水平または
垂直に反転

捨鉢(15.06.26)

樹齢不詳で
雨に濡れる
祖父の捨鉢

祖父を診た
往診医には
それっきり

閉院を知り
生老病死の
由来知らず

母の介護で
縁があった
訪問医とは

在宅養生の
話の続きも
聞かぬまま

等身大まで
生身を探す
自問自答を

落ち梅(15.06.23)

庭の片隅に
咲くバラを
一輪挿しに

飲みさしの
ボトル近く
並べ置いて

異変を知る
ブドウ畠の
バラを遠望

雨に濡れた
重みで傾く
花弁が震え

梅雨晴れの
庭を横切る
戦後の履歴

落ち梅なら
拾い集めて
誰の手元へ

体軸(15.06.19)

曇り空から
梅雨入りは
未だですよ

電線揺らし
囀る小鳥の
糞を避けて

虫食い葉に
やってきた
紫陽花の花

不揃いでも
季節ならば
あやふやに

すっぽりと
乱れた軸の
歪み和めば

非対称から
整ってくる
姿勢の葉脈

安泰(15.06.16)

青雨に黒雨
変わる場面
違う身体に

動かぬ外側
盛んな内側
休憩に休息

見出されて
乗り込めば
矢面に立ち

思いを越え
降ってくる
善悪の判定

詩を詠めば
日頃の命題
かき消され

夢で出会う
私のいない
世界を見て

古今(15.06.12)

夜来の雨が
緑を濡らす
母の月命日

老いてから
春と秋には
京都を訪れ

神社仏閣の
観光を残し
アルバムに

母子一緒の
京都旅行も
介護の夢見

癒しお祓い
閉ざされて
書架の奥で

紙ヤケした
古都を読む
与謝野源氏

新緑(15.06..09)

五月を捲る
接続詞から
始まる言葉

届けられぬ
瞳の奥へと
待ち合わせ

読みさしの
閉じた本に
隠した思い

幼少期から
見出せない
平穏に疲れ

座りこめば
擦り切れた
畳の縁まで

鼠を追って
青い蛇行が
六月を開く

息災(15.06..05)

赤や白や泡
ワインなど
飲み分けて

姿勢も和む
食卓を囲み
安堵の合間

草を毟って
庭に絶えた
半夏生の姿

巡る季節の
生きやすさ
探し求めて

立居振舞い
どんな形に
見初められ

四畳半から
母が見せた
介護の間取

縦横(15.06..02)

六月の緑が
しっかりと
枝を張って

素晴らしい
発想を生む
出会を支え

半世紀過ぎ
扉を揺らす
誕生月の闇

胎内姿勢の
つながりに
別れを告げ

鰓呼吸から
切り替わる
恐怖の叫び

未熟なまま
自然の間に
果てしなさ

姿勢(15.05.29)

朝の街中で
振り返って
紫陽花咲き

玄関を出て
振り向けば
どちら向き

自転車でも
スキーでも
急停止なら

回りこんで
ホッとする
身体の傾き

無意識から
浮かび出た
寝相のよう

上下左右に
見回し探す
楽な姿勢が

手解き(15.05.26)

五月なのに
暑さ勝りて
田植えの指

屈み込まず
苗を摘んで
泥をも掴み

踏み込んだ
棚田の枚数
足指で挟み

動き方など
数えるより
数え方から

手足を通す
衣替えまで
動態作法を

塗り替えて
動き動かす
お掃除ロボ

飛び縄(15.05.22)

練習前にと
やりだして
半年もたず

一人飛びで
無意識から
自意識まで

三人以上は
大縄跳びで
足並み揃え

二人飛びに
気づいたら
足がもつれ

絡まっても
縄張りなら
三様の縛り

解けるよう
三本の縄の
重みを変え

露出狂(15.05.19)

宙に浮いた
クラゲなら
春の蜃気楼

浜辺を抜け
遠い幼子が
駆け寄って

革命期など
忘れ果てた
消費産業化

〈デモ以上、
テロ未満〉
見得を貼り

無人飛行機
浮かばせる
個人と国家

出現予報に
踊らされた
日々が霞む

蟻とフラミンゴ(15.05.15)

蟻を追って
アフリカの
火山湖まで

藻に染まり
数えきれぬ
フラミンゴ

織り込んだ
人工都市の
夢を畳んで

出会うまで
仕草で紡ぐ
群遊飛翔図

雌雄を繋ぐ
赤い無意識
立ち騒いで

解れた糸を
番の飛翔で
染め分けて

前兆(15.05.12)

新緑激しく
立ち騒げば
家鳴りして

産道抜けた
空気呼吸に
恐れが谺し

過呼吸など
呼び覚ます
境涯に迷い

止まる枝を
聞き違えた
鶯の初鳴き

空耳ぬけて
生存予見の
地獄耳まで

響き連なる
存在倫理を
刻みこんで

残響(15.05.08)

連休明けて
未だ聞かぬ
鶯や雉など

ツバメ飛ぶ
代掻き田に
山肌映して

遠い講演で
ダイカキと
響いた声に

模造紙など
三度ばかり
枚数を数え

つなぎ目を
丹念に読み
返す日々に

連鎖させた
関節が繋ぐ
動きを畳む

依存(15.05.05)

最盛期でも
映画館から
遠かったが

思惑が囲う
妄想の闇の
狭間の無形

膝を曲げて
尾てい骨で
しゃがんで

稽古せずに
立てる謎が
能力の死角

恥じらえば
伝統技能や
武門が開き

虚しくとも
音楽ほどに
浮きがかり

胴乱(15.05.01)

標本を探し
野山を歩く
虫眼鏡から

エロ目線で
春画を集め
スクラップ

電脳広場の
架空の闇で
星座を探し

裏返された
望遠鏡覗く
虫の手触り

図鑑からの
獲得視線で
分類すれば

脱皮の域を
限界にする
展示室探し

下流(15.04.28)

春の車窓を
緑の滑りに
艶出しされ

水かさ増す
夕暮れ前の
街中の川縁

引込み線に
置き忘れた
手触りなら

頭を埋めて
身動ぎない
番いの水鳥

写り具合も
眺めないで
再会の宴席

散会までの
瞳と言葉を
集合写真に

分岐(15.04.24)

揺らめいて
山肌を隠す
折り紙細工

狭い糊代を
折り返して
畳み直せば

雪崩の跡を
綴じ込んだ
雪渓の傾き

鞍部を辿る
行きがけの
浮力に溺れ

紙から竹へ
飛行機雲を
架け渡せば

引き抜かれ
往路を分つ
重力の在処

鞘(15.04.21)

木立を抜け
渡り鳥らが
季節を畳み

山川草木が
内臓感覚を
際立たせて

手渡された
山菜が匂う
濃い山影が

落ち葉から
木の根まで
さしこめば

聞こえくる
色文字響く
渓流の眺め

釣り上げた
魚の動きが
点描する句

関所(15.04.17)

散り際から
芽吹きまで
否定の嵐が

生活身体が
書き損じる
違和と同致

言葉の裏に
打消す速さ
発語を連ね

動きを繋ぐ
関節が否を
解き放てば

関わりとの
別れだけが
暮らしの証

自然治癒の
歯車が働き
痛みも消え

急須(15.04.14)

二枚貝が開く
速さで消える
砂地の模様に

孤島に止まり
弛緩と緊張を
繰り返すだけ

風が迎え入れ
転変する波が
収束する岬は

忘れ去られた
小指の記憶で
探る胎内記憶

囲炉裏端なら
湯飲みに注ぐ
お茶の手応え

漬け物を摘む
指使いならぬ
箸の使い勝手

土手桜(15.04.10)

老いを重ねた
親指が出会う
人差し指まで

踵から手首へ
回内と回外で
管を巻いたら

折り曲がった
腰付きの手で
拾う桜の枝が

抜身のように
空に向かって
解き放たれる

自在な裏表が
掴みとられた
散り際の感触

仕上げの握り
次第で変わる
指先の切れ味

初回(15.04.07)

出戻り寒波が
花びらで編む
筏を通り抜け

姿勢を試して
際どい安定に
居着けなくて

的をめがけて
引き絞ったら
間髪の間合い

気づくことを
放棄している
達成感のなさ

触れない水が
描いてみせる
水かきの動き

動機で埋めて
掘り返される
無意識の井戸

分身(15.04.03)

石礫の叫びが
暗雲を割って
堕ちてきたら

小鳥が軒先で
春の嵐を避け
揺れる電線に

封印を解けば
切り結ばれる
交差する凹凸

意味と価値の
双葉が伸びて
同一性障害に

身構えるから
今日が一番に
綴られるだけ

旬の貝を剥き
味わい尽くす
身がままなら

偽装(15.03.31)

日差しと陰の
折り目を探す
季節の縫い目

縦にまとまり
横に働くなら
遠くの風見鶏

風向き次第に
畳んだ風信を
折り紙細工に

背伸びし散り
止められない
梅の木の剪定

横っ飛びなら
枝から枝へと
花に落ち着き

満ちる動きが
鳴き合わせる
贋作の呼吸で

通過(15.03.27)

理科室から
抜け出した
人体模型が

手を振って
在来線から
新幹線まで

入れ替わる
俯瞰視線で
描く扇状地

ヒトの体が
隠し持った
系統図から

校舎の窓に
汲上げられ
張り出され

言葉の影を
なぎ倒して
通過する橋

無構え(15.03.24)

営業停止の
スキー場に
積もる新雪

父性が埋れ
閉ざされて
読めない頁

崩れ落ちた
未踏の壁に
刻み込まれ

手足を掛け
身を細めた
日々の隙間

装丁された
言葉の扉が
開け放たれ

覗き込めば
降伏しない
流今の斜面

春の渡し(15.03.20)

庭先で鳴く
春の制服を
着込む動き

庭木に訪れ
花ボタンを
はずす小鳥

胴体と頭を
交差させる
欲望のY字路

俯瞰視線で
手足が動く
胴体の高度

解き放たれ
五感が働く
開放値まで

張り渡して
引戻される
枠組みまで

土筆(15.03.17)

いずこでも
春陽が誘う
帆柱が立ち

写し取った
風穴めがけ
帆布を張り

編みたての
仕分け紐で
海図を綴じ

風を頼りに
抜身で辿る
航海の行方

描く呼吸を
合わせ鏡に
噛み合えば

一筆書きも
向かい風に
乾き上がり

点描(15.03.13)

村祭りでの
打上げ後に
花街行きが

温泉街では
やり手婆に
手ほどきを

夜学教室で
四十八手の
透かし絵も

25時間目の
イメージが
途切れたら

リタイアに
描き尽くす
画像の焦点

暈けるまで
高度を稼ぐ
視線で綴じ

徒花(15.03.10)

雪中花芽が
徒手空拳の
乱れ打ちか

出会い頭で
先急ぎ過ぎ
出遅れても

集合写真に
間に合って
一斉飛跳ね

打ち急ぐか
当て待ちか
狙い外れて

気づいても
体を割って
待ち受けて

散る間際に
一花咲かす
気合の枝葉

つらら(15.03.06)

雪解けの跡を
裏庭に残して
ほろ苦い香り

滝壺の虹から
川底を攫って
冬の夜を埋め

高所恐怖症は
当て所のない
片道切符から

乗り合わせた
競争相手なら
生きる手立て

戦う姿勢から
ぶら下がって
もがく足裏で

着地どころを
掴むに掴めず
羽ばたく足跡

刷毛(15.03.03)

咳き込んで
破れそうな
冬の障子に

影絵のまま
全身骨組み
塗り込まれ

死の寝相を
書き換える
介護手続き

性の誇りを
吹き払えず
刷毛を探し

体壁を潜る
整体の手も
及ばぬ内奥

穴だらけの
未知の内へ
触れて外へ

寒気(15.02.27)

泳げないのに
飛び込んだら
誰もいなくて

夏休の午後の
土手で釣果を
刻んだ釣竿に

震えるような
河川敷を抜け
葦の茂みまで

バスを降りて
漁港の突堤へ
弄る海原へと

潮目から逃れ
滑落や雪崩の
難を免れたり

峰から河口へ
新たに書込む
流域に埋もれ

九十九折(15.02.24)

やりようもなく
途絶えてしまう
不意の死の訪れ

掃除ロボットや
PCのOSならば
アップグレード

どうしようなく
もがきつづける
日々の繰り返し

使い古す老体が
向き合う介護に
悔悟や達成なく

乳胎児期を経て
屈折した青春を
埋葬できようか

伴走しようにも
ゴールなど無く
寄り添うだけに

不死鳥(15.02.20)

乗り合わせた
人型のホバー
クラフト浮遊

泡立つ航跡に
見え隠れする
魚影を追って

飛び込んだら
健全と病まで
吃水が表した

鬩ぎ合う生と
死が織りなす
海図の領域へ

不安や恐れに
浮き沈みする
未決の船窓で

組み合ってる
偶然の事実と
共存する忘却

雪兎(15.02.17)

雪上散歩から
滑走するまで
雪深さを学ぶ

積雪3mでも
後ろ足交差で
兎が駈け抜け

季節と交感し
踏み込む板が
融通無碍なら

空を区切って
輝く帯が結ぶ
水平線の彼方

個の来歴から
世界の果てへ
幻想の架け橋

宇宙への階を
上り下りする
言葉の玉手箱

蛍雪(15.02.13)

立春過ぎれば
キーボードの
タッチも変り

雪女が喘いだ
からだ言葉で
本音が芽吹き

雪男が齧った
あたま言葉の
建前で囲って

一夜交じりの
雪空いっぱい
蛍が舞い散り

行方知らずの
性器が出逢う
アワワ語結び

植物入力でも
変換できない
動物出力なら

雪かき(15.02.10)

降り止まない
雪空に尾長の
一筆書き飛翔

庭木を揺すり
避け損ねたら
背中で流して

積み上げたら
撒き戻らない
白黒フィルム

立位の極みで
汲上げられた
融雪水の動き

奇麗さっぱり
屋根雪一枚の
跡形も無くし

無心に羽搏く
気力のままに
立ち動けるか

無人駅(15.02.06)

夜明けの空に
貼付けられた
句読点が三羽

!マークなら
驚きの滑りの
今年の初滑り

プロならでは
試して分かる
技あり手入れ

ドローンなら
XYZ三方向を
操作しながら

飛去った跡を
GPSの受信で
追尾する方位

体内時空計を
飛び立たせて
空撮できたら

瞬殺(15.02.03)

余りにも短い
接触で決まる
球技の制御に

身動きならぬ
私でない私の
動きが邪魔に

真剣に学ぼう
とする遅滞に
噛み合う歯車

今に取り戻す
技の手掛りが
遅れに隠され

瑣末を棚上げ
臍の反対側へ
回り込むまで

蹴り込まれた
無意識の輩に
打ちのめされ

墨跡(15.01.30)

記憶のなかの
尋ね人放送が
呼覚ます名前

語源を探して
近代史を畳む
怠けた手付き

縫い合わせて
着込んだ衣を
脱がせた体毛

墨の種類など
使い分けても
躰の処し方が

紙にかすれて
纏わり付いた
動きの跡にも

字体となって
書き残された
書体が手懸り

老け役(15.01.27)

女であること
からは自由な
おばさん化や

若気の至りの
化けの皮冠る
おじさん化で

人間をやめた
ヒトでなしの
ご老体化など

面白くもない
可笑しさなど
犬も食わねど

とどのつまり
一昨日までは
受身の無分別

踏み抜いたら
無類の光さす
明後日の舞台

時間割(15.01.23)

1月の空には
西の破れ目に
東の書き込み

多種多様なる
モグラ叩きで
穴ぼこだらけ

心が破綻して
食み出したら
危険物扱いに

1日24時間で
1年365日も
扱えない恐怖

拠ん所なくも
捨て去られた
空虚を呼吸し

見出す空地へ
動きだせれば
抜け出す力に

形態(15.01.20)

ご覧なさいよ
スキー日和に
腰痛だなんて

バランス板や
道のく山道で
踏み迷ったら

強張る姿勢が
揉み解されて
足裏に抜落ち

意識語りから
無意識語りへ
腑分けされて

書き込まれた
物語を編めば
身体が紡いで

本当の話など
老いの手前で
未知数の明日

献立(15.01.16)

冬物野菜の
高騰を染め
まな板模様

薄らいでも
七草粥なら
見分けるか

食材などの
知識を刻む
包丁の知恵

昨夜のシチューに
今日の調理パンと
通販の赤ワインで

淡い昼時を
温もらせて
綾なす食卓

明日の献立
未明の手に
滲むレシピ

圏外(15.01.13)

言葉以前の
体内旅行が
覚束なくて

這い回って
内臓が唄う
覚えも無く

追い出され
行住坐臥に
居着くだけ

何処へでも
拡散すれば
舞い戻って

言葉を覚え
乳胎児期を
見失ったら

生涯かけて
振返れない
未踏の出自

放出(15.01.09)

棒読みして
見開く度に
読み尽せず

殻に戻せぬ
割れた卵の
温もりの襞

好悪に尖る
拝み取りの
抜き差しで

交叉すれば
押し広がる
生存の証が

元に戻れぬ
出生の襞を
抜き取られ

繰返す型を
衝き動かす
花心に体液

破砕(15.01.06)

年を越した
雪融け水が
屋根を洗い

雨樋の底を
通り過ぎる
氷河の記憶

削り込まれ
巻き戻され
有無も無く

差し迫った
大股開きの
暮しの鞍部

身体に潜む
壊滅された
原生林の跡

神話の裏で
病物めいた
語りが砕く

着雪(15.01.02)

ネット回線の
着雪を解放つ
庭先の陽射し

むき出された
ケーブルから
孵化した落雪

舞い上がった
あてどなさに
うめつくされ

一夜明ければ
滅びの先行く
軒端のつらら

埋め尽くされ
雪原に突刺す
孤独な切っ先

溶け落ちずに
弧を描く影で
遅らせるだけ


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