十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)


通勤車窓(14.12.30)

丘陵地を界に
呉西と呉東で
積雪が大幅に

逆転していた
12月の降雪に
甦る通勤地図

蒸気機関車の
煤煙で煤けた
呉羽トンネル

冬に往復した
積雪履歴でも
東西に分かつ

固有の生死の
波打ち際から
気を燃やして

現世と他界を
乗換えられる
銀河鉄道まで

煤払い(14.12.26)

夭折者から
現役奏者へ
架橋されて

響き渡った
ブルースの
川の色合い

赤ワインを
グラスとも
室温に並べ

埃を払って
温まったら
鳴らし続け

羊をめぐる
階段の上り
下りを数え

箒に叩きに
足手纏いの
掃除機まで

竹とんぼ(14.12.23)

回転翼なら
二枚よりも
三枚あれば

飛び方から
滞空性まで
拡張されて

竹とんぼで
心の棘など
抜き去って

浪費の末に
届く高さで
反転すれば

人工昆虫の
空間認識で
人称を写し

忌避すべき
現実からの
距離を飛翔

消失(14.12.19)

吹き溜りの
平屋根から
片屋根まで

点呼された
雲の足跡が
ひっそりと

冬野菜から
旨味を掘り
下げるから

鍋料理から
冬晴れまで
早回しして

コマ落とす
積雪画面を
区切る除雪

埋められた
文化を探る
行旅不明人

些事(14.12.16)

雪下駄脱いで
下駄の歯並び
殴ってやろか

あいつと渡る
吊り橋効果が
覿面になって

ギターの胴に
飼うメジロの
囀りに踊った

くし形切りの
皮を下に絞る
指使いが凄く

脱げた靴など
見向きもせず
逃げた屈辱で

色を濁さずに
日々組み直す
自画像の裏へ

  • カレントアウェアネス-E No.272感想(ささくれ ) http://cheb.hatenablog.com/entry/2014/12/13/234632
  • 2014年のオープンアクセス関係のできごと(日本)(ささくれ) http://cheb.hatenablog.com/entry/2014/12/11/210328
  • 『未来の図書館、はじめませんか?』刊行記念&書肆スウィートヒアアフター開店記念 「図書館×書店」の未来を探る著者トーク(klarer-himmel13's diary) http://klarer-himmel13.hatenablog.com/entry/2014/12/14/215857
  • 特定秘密保護法の施行を受けてこれまで考えてきたこと、今考えていること : 情報公開にまつわる日々の出来事(情報公開クリアリングハウス理事長日誌) http://johokokai.exblog.jp/23210004/
  • 一部公共図書館への遷移方式の改善及び、「NDL-HP掲載刊行物」ご利用方法の変更について(2014年12月15日)(国立国会図書館) http://iss.ndl.go.jp/information/2014/12/15_announce-2/
  • 世界各国の有力NPO等による、最終局面を迎えるTPP交渉での透明性を求める公開書簡を緊急邦訳(TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム) http://thinktppip.jp/?p=476
  • E1634 - オンライン資料の納本制度の現在(1)フランス(カレントアウェアネス-E No.272)) http://current.ndl.go.jp/e1634
  • "日本郵便公式の萌えイラスト年賀状を公式無料ソフト「はがきデザインキット2015」で作ってみた(GIGAZINE) http://gigazine.net/news/20141215-design-kit-2015/
  • 「JAZZが完全に解き放たれた」2014年音楽シーンを振り返る(BeQuiet TV) http://bequiet.tv/music/274-113
  • ブラ読み 0円ライブラリー(GALAPAGOS STORE) http://galapagosstore.com/web/special/std/free
  • ロックンロール史に残るドラッグソング10 by 久保憲司(AMP Music) http://ampmusic.jp/4422/
  • 衆院選:「力」はあなたに いとうせいこうさん、投票訴え(毎日新聞) http://mainichi.jp/m/?CPTNPj
  • クソ民主主義にバカの一票(しりあがり寿) (ポリタス 「総選挙」から考える日本の未来) http://politas.jp/articles/283
  • もう投票しなくていい(ポリタス 「総選挙」から考える日本の未来) http://www.politas.jp/articles/307
  • 世界最古のスパム広告とは?(GIGAZINE) http://gigazine.net/news/20141215-oldest-spam/
  • 複製(14.12.12)

    12月の動画で
    聴き直させる
    雨が霙になり

    フェルメール
    とラッセンを
    居間に吊るし

    下駄箱の上で
    滑りはじめた
    人影の写真も

    浮遊するだけ
    価値も意味も
    コピーに実写

    繊細すぎたら
    鈍感な展示に
    大雑把な閲覧

    日々繰り返す
    今日の歩幅で
    傾きを正して

    戯画(14.12.09)

    十二月の雨の
    匂いを消して
    降り積る雪に

    庭で繰り広げ
    られた鳥獣の
    戯れの跡など

    描き残された
    余白を見つけ
    百舌が舌打ち

    忍び寄る猫が
    聴きそびれた
    屋根の落雪に

    目覚めた鼠が
    夜の静寂へと
    家埃を撒いて

    朝焼け鶏鳴に
    木登り好きな
    山羊の鳴声が

    哀惜(14.12.05)

    理解しない
    人に語れば
    無縁な人に

    語ることも
    同じである
    冬の空から

    眠らせずに
    舞い降りる
    感性の秩序

    国なる幻に
    抗う心から
    忍従の街へ

    無慈悲なる
    自然作用が
    架け渡され

    今生の縄を
    綯うような
    言葉の空鏡

    邪魔(14.12.02)

    随分遠くへ
    やってきて
    代り映えが

    しないよう
    取り繕って
    草臥れたら

    出自からの
    振替休日に
    居直るだけ

    束の間でも
    踏み迷って
    自信もどき

    着込んだら
    脱げないよ
    無くて七癖

    はじまりに
    目途のない
    助走の果て

    ボードにて(14.11.28)

    秋の緞帳が
    山肌を梳る
    空の向うへ

    踏み拉かれ
    降り積もる
    落葉の音に

    泳ぐ視線の
    飛行機雲が
    掻き消され

    立ちつくす
    安定の中の
    不安定へと

    地上に浮く
    生活視線で
    飛翔を試し

    乗っている
    不安定から
    未安定へと

    反転列車(14.11.25)

    乗り損なった
    面接列車追う
    タクシー拾い

    果てしのない
    行先を問われ
    銀河鉄道まで

    乗り合わせた
    車窓の数々に
    指折り数えて

    猫の島影から
    引き揚げられ
    蘇生する少女

    宇宙服を脱ぎ
    少年の寝具に
    目覚めるまで

    最後尾に狂い
    咲く中間装い
    先頭列車まで

    凋落(14.11.21)

    森に降り注ぐ
    落葉の視線と
    公園に群がる

    鳩の饒舌など
    どこ吹く風の
    昭和の役者に

    耐え難き背と
    忍び難き胸の
    内が銀幕から

    戦後を生きた
    運河の底へと
    水質検査する

    潜った水鳥を
    追い散らして
    遊覧船が過ぎ

    取り残された
    視線の航跡が
    途絶える辺り

    境界線(14.11.18)

    矩形と螺旋を
    合わせるよう
    体で割ったら

    今夜も飲干す
    グラス一杯の
    ジントニック

    憂き名を流す
    運河を辿れば
    水鳥も出払い

    羨望鏡を掲げ
    図鑑に逃込む
    バーズアイに

    捨て損なった
    VHSテープの
    消し忘れた傷

    1週間前から
    通りすがりの
    BBBで巻戻す

    回遊(14.11.14)

    Y字路で渡され
    紛れもない犀の
    警句の寄せ書き

    家も家族も失い
    壊れた門灯から
    墓掘り人の手で

    きれぎれの蛾が
    十字路を照らす
    角の灯りを慕い

    夜が明けるまで
    身を焼く思想を
    羽搏かせながら

    飛び立つ座標に
    アジアを刻んで
    群れることなく

    身体を見つけた
    動きで体現する
    地図を畳み込む

    地名(14.11.11)

    11月の水たまり
    跳ねてみようか
    飛んでみようか

    朝晩寒くなって
    難しい地名など
    11月のタクシー

    規定打席に立つ
    まだ冷たい手の
    子らの脚よ動け

    しっかり繋いで
    ここぞと攻めて
    歌枕になるまで

    籾摺りで忙しい
    米ぬかまみれの
    記憶の畦道から

    十一月の傾斜を
    三十一文字まで
    模写を重ねたら

    錯覚(14.11.07)

    燃え残さぬよう
    半等分に折って
    横置きするけど

    長過ぎる線香を
    三等分するよう
    手折る難しさが

    随分間があいた
    基礎打ち相手が
    返し難いなんて

    衰えた体力では
    円運動に頼って
    いられないから

    ハードパンチが
    打てなくなって
    ジャブだけなら

    身丈に見合った
    ジグザグ螺旋で
    当てられそうに

    未練(14.11.04)

    大きなバッタが
    玄関の窓の内で
    モゾモゾ動いて

    窓際の庇の下へ
    大型カマキリが
    へばりついたら

    暑い夏に一匹も
    見つけられない
    季節に未練でも

    初冠雪の谷筋に
    体内からの欲を
    幾重にも滲ませ

    盛り上がっても
    お椀で二分けし
    滑空する無欲へ

    導かれた身体に
    みなぎる呼吸で
    摂取する命がけ

    齟齬(14.10.31)

    桜と銀杏並木が
    日照時間を計り
    落葉の音を聴き

    紅葉から黄葉へ
    沈黙を滑らせる
    樹木の心変わり

    植物の佇立から
    見えない腰痛が
    忍び寄る風向き

    心因性のようで
    抗鬱剤が効くよ
    と語った詩人も

    すべて体を頭で
    制御する錯誤を
    指摘する達人も

    不可能に見えて
    試みるしかない
    始源への遡行に

    逸脱(14.10.28)

    途切れた小骨を
    たなびかせたら
    秋の名残の蜘蛛

    忍び寄る野良猫
    急降下する野鳥
    察知する樹木に

    行ったり来たり
    振り子運動から
    螺旋階段を経て

    骨骼を連動して
    張り巡らしても
    届かない触手で

    体内を弄ったら
    横超を繰り返し
    螺旋に抜け出て

    菱形になるまで
    飛躍を裏返せば
    横取り綾取られ

    写生会(14.10.25)

    光と風と樹木が
    交差する水辺の
    柔らかい芝生に

    滑るように秋の
    霊柩車が窓から
    渡り鳥を放って

    旅立ちの映画を
    解体させる絵で
    埋め尽くされた

    防犯カメラでも
    撮りきれなくて
    もてあます運河

    小ガモを背中に
    亀の真似をする
    親鳥がコマ送り

    庄川峡の船から
    近鉄線の窓まで
    走りぬけた紅葉

    体癖(14.10.21)

    空模様の崩れを
    見計らってでも
    いるような野鳥

    暇を見つけては
    羽根を動かせば
    こころ宿す体で

    受容と発信まで
    日々繰返すなら
    様々な数珠繋ぎ

    メンバー構成で
    多種多様な人が
    混在する種目に

    性癖が集まって
    癖が見通せない
    アンバランスが

    唯一の拠り所の
    感受時空ならば
    身体こそ環境に

    早さ(14.10.17)

    狂い咲きした
    木瓜の蜘蛛が
    雲隠れしたか

    早さを求めて
    高速電脳網に
    繋ぐ蟄居暮し

    産業社会から
    追い立てられ
    吹き込まれて

    一時だけでも
    乗り合わせる
    束の間の早さ

    体感してみて
    身体に関わる
    字面はどうか

    見直す早さは
    繋ぎ直したい
    躰と體の違い

    孫の手(14.10.14)

    ほどよい空調に
    打てば響かない
    夏太鼓が遠のき

    風が運んできた
    窓越しの雲行き
    空耳に響いたら

    葉っぱが散って
    ギクシャク踊る
    モンクのピアノ

    静まりかえった
    舞台の袖に立つ
    異邦人の体つき

    あの手この手で
    仮面を剥いでも
    型にはまらない

    孫との散歩での
    影踏み遊びから
    取残された踊り

    あわい(14.10.10)

    遠足で宮島峡の
    ポットホールに
    ちりばめられて

    コトあるたびに
    モノにこだわる
    着の身着のまま

    二十世紀後半の
    事実と事物から
    食い繋いだ身体

    泥濘に足を入れ
    砂利道に躓いて
    這い這いを忘れ

    裏山の奥深くで
    宇宙を見上げて
    川原の土手でも

    脱ぎ捨てられた
    思いの坂道から
    這い上がる隙間

    雨宿り(14.10.07)

    遊び呆けていた
    縁側から落ちて
    覗き見た縁の下

    蜘蛛の巣を払い
    軒先から一歩で
    世間の内と外へ

    祖父の公界から
    母の世間体から
    隔てられた仲間

    逢引とも知らず
    傘も開かないで
    束の間通り過ぎ

    握りしめた拳が
    温かく緩んだら
    握手で挨拶して

    振返ることなく
    一散にかけ戻る
    軒端を探し求め

    自然人(14.10.03)

    庭の日だまりで
    ホバリングする
    虫柱のゆらめき

    蜻蛉が止まった
    花付きが少ない
    金木犀の枝振り

    衰えた羽根なら
    羽搏き直すよう
    虫取りを繰返し

    リタイアしたら
    見失った身体を
    見出す言葉から

    しばしの間だけ
    老いの稽古法で
    名前をひも解き

    体力を補う術を
    遣う気力からも
    遠ざかるように

    置物(14.09.30)

    陽射しから溢れ
    置き場所に迷う
    ソーラー自転車

    吹抜ける風信が
    書込んでくれた
    稽古法が途切れ

    北アルプスから
    南下しようにも
    腰痛に遮られて

    泳ぎも知らずに
    走りはじめても
    楽しさ分からず

    急須からお茶を
    注ぐように身を
    振り返って辿り

    着込んだ着衣で
    隠された廃墟を
    駆け抜ける勾配

    つむじ(14.09.26)

    行進練習中の
    輪の内側へと
    摘み出されて

    悪い歩き方の
    お手本みたい
    小学生の足並

    行き場のない
    グランドから
    はみ出しても

    若気の辺りを
    どんなふうに
    歩きつづけて

    頭髪のように
    歳月に晒され
    薄くなっても

    体のどこかで
    渦を巻きつつ
    老いを結んで

    鳥籠(14.09.23)

    黄色くなって
    タイプを叩く
    枯葉の隙間に

    吊り上げられ
    肌身離さない
    幻のクレーン

    望遠レンズで
    月の裏側まで
    井戸を掘って

    とっておきの
    螺旋パンチを
    汲上げる滑車

    胎児の観相で
    ワープすれば
    腹掛の奥まで

    気配を消して
    腹が決まれば
    腰も入りそう

    ずれ(14.09.19)

    出合えぬ力が
    人を見くびり
    我身を裏切る

    身体を通して
    何事かが続く
    信と不信の間

    見合った時の
    内側が幾層に
    擦れ違ったら

    虚しく前向き
    いま・ここに
    戻る繰り返し

    整えようにも
    何事に対して
    ズレていれば

    内部で確かに
    動く何かから
    順次生の力へ

    礼節(14.09.16)

    不安な朝空の
    雲間から抜け
    落ちたように

    庭木に止まり
    囀り交わして
    紡ぐ作法から

    詰襟学生服を
    仕立て下ろし
    背広に着替え

    心がけ知らず
    もたずに稼ぐ
    渡世の御衣木

    手を合わせて
    半身のままで
    こじあければ

    死者と生者と
    互いを思って
    拝み合う幅が

    排砂(14.09.12)

    夏から秋にかけ
    雨が西から北へ
    土砂災害を連ね

    一級水系が五つ
    二級水系の数が
    30県内101河川

    土砂災害を防ぐ
    砂防ダム効果で
    守られる暮らし

    テロの標的から
    戦場の殺戮から
    69年遠ざかって

    干上がらされて
    空っぽにされた
    条文のダムから

    言葉の河川敷に
    理念が排砂され
    蟹の泡も消えて

    遠足(14.09.09)

    17年も待って
    羽化した蝉の
    抜け殻の内観

    父母が編んだ
    型無しの家で
    無心が揺らぎ

    這い回っても
    まだ立てない
    関節のあたり

    透けて見えた
    あばら骨から
    滑り落ちそう

    囲炉裏端から
    転げ落ちない
    地図を頼りに

    潜り戸を抜け
    軒端遊びから
    遠出するまで

    黙視(14.09.05)

    撒水ホースを
    使うことなく
    8月が過ぎて

    秋雨もどきが
    こびりついた
    土埃を洗って

    出遅れた蝉が
    ヨタヨタして
    鳴声もかすれ

    身元不明だが
    俯きながらも
    衝立ての陰で

    冥想の裸身に
    不在を集注し
    机上に飾って

    Gパンを脱ぐ
    娘の肢体から
    気化する裸像

    逡巡(14.09.02)

    季節変わりが
    常識的ならば
    身体感度にも

    声をかぎりの
    手をかざして
    見渡すかぎり

    海と潟の境を
    知らない魚が
    逡巡しながら

    潮目に止まる
    海鳥の影から
    側線を全開に

    深くて静かな
    自前の自然が
    目覚めた泳ぎ

    剣でも刀でも
    断ち切れない
    撓みを響かせ

    仕事三昧(14.08.29)

    午後に草刈り
    算段してたら
    庭師が剪定に

    胡散草一本も
    残さないよう
    削り取られて

    見なれた庭の
    整形手術後に
    置忘れられた

    手技の跡から
    身体の捌きを
    手箕で振分け

    作業場の隅で
    飽かず眺めた
    大工の鉋がけ

    釜で米を炊く
    要領で道具が
    的を射抜いて

    尋ね人(14.08.26)

    寡黙な樹木が
    大気を荒らす
    雷雨に打たれ

    ひげ根の先で
    行方不明者の
    声を探りあて

    葉脈の触手で
    画像検索から
    割り出せても

    解剖列車では
    辿り着けない
    身体像の果て

    気が駆け巡る
    自然と存在に
    切り裂かれて

    おもむくまま
    規矩を超えず
    気化する姿で

    読書三昧(14.08.22)

    空調の効いた
    図書館で涼む
    読書人の戯れ

    やってこない
    利用者ならば
    上とするべし

    その時々なら
    中なる利用に
    とどまるだけ

    いつも入浸る
    下の利用なら
    見て見ぬふり

    下の下になる
    居残り利用は
    鼻つまみ者に

    上客は読まず
    中客は借りて
    下客は買って

    固有像(14.08.19)

    刷り込まれた
    自明のように
    揺らぐ樹木が

    飛立つように
    切倒されても
    幻の根が伸び

    録音で流れた
    校内放送での
    自声に戸惑い

    録画試合中の
    他人のような
    我が身の映像

    自他を分かつ
    身体像を喰う
    ゾンビの動き

    固有の身体へ
    命がけ出逢う
    客人のように

    在宅風信(14.08.16)

    もてあそばれ
    漂うだけなら
    文化的孤島で

    ホームレスに
    別れを告げる
    通信が吹抜け

    タクシーから
    見放されたら
    歩くしかない

    明治や大正を
    生きた祖父や
    叔父の暮しに

    書付けられた
    間に合わせる
    生活思想から

    ほど遠い道で
    拾い読みした
    汗だく回覧板

    釣果(14.08.12)

    台風に洗われ
    浅く差し込む
    陽射しに乾く

    屋根を転がり
    庄川の河原へ
    日除けが伸び

    左右いずれも
    ままならない
    ターンの数々

    曲がりすぎた
    嘴を打ち砕き
    飛び直せるか

    打直す古綿で
    肌を磨いても
    遠い飛距離で

    夏竿が振られ
    途絶えた鮎の
    塩焼きの香り

    素潜り(14.08.08)

    蝉声のしない
    夏を過ごせば
    海も遠のくか

    泳げないのに
    黒い三角褌で
    川音に戯れて

    虚弱な身体で
    自然な泳ぎを
    水底に置忘れ

    林間学校など
    体育の授業も
    見学しながら

    身体にとって
    運動とは何か
    自問自答して

    数センチでも
    体内の自然に
    潜り込めたか

    振り直し(14.08.05)

    逃げだす虫の
    姿も見えない
    むなしい草刈

    ボールを投げ
    あたった壁に
    穴を穿つまで

    棒を手始めに
    竹刀を振って
    木刀まで手に

    斧を振るって
    薪割りならば
    田舎暮らしで

    日本刀を手に
    抜いて納める
    動きも解らず

    相手も違わぬ
    間合いの故の
    抜き差しなら

    夏草(14.08.01)

    朝から真夏日に
    背戸の草刈など
    身体が反応せず

    治療中の歯茎も
    嫌がってるから
    呑むのも控えめ

    草刈バリカンで
    69年目の夜空を
    虎刈りに染めて

    草いきれの中へ
    倒れ込むように
    抱き合ってたら

    獅子舞の杖術で
    棒切れのような
    擦り傷だらけで

    温もった堆肥の
    ミミズで釣りへ
    夏草の向うまで

    夏山(14.07.29)

    梅雨明け空に
    ヘリの爆音が
    遠ざかる辺り

    避難下山する
    滑落者の影が
    背負子で揺れ

    未定の没年が
    近づくほどに
    首折れ彷徨い

    荼毘のような
    光景で閉じる
    老境の鞍部へ

    登りはじめの
    食べ合わせで
    へたり込んで

    行程はたせず
    眠りこけたら
    夕暮に目覚め

    相引き(14.07.25)

    棒、しを噛む
    なんて書いた
    はるか昔だが

    手に手をとり
    まさぐりあう
    哀しい身体で

    見つめ合って
    鍛えるなんて
    ほど遠い出自

    掌に滑らせる
    程よい硬さの
    赤樫の長さで

    押して引いて
    通り道で杖が
    ブレない型に

    成して崩せば
    生きる螺旋も
    メビウスの輪

    接ぎ木(14.07.22)

    天蚕と握手した
    早乙女山の麓に
    飛翔のためらい

    立ちすくむ枝が
    無意識の谷間へ
    払い落としたら

    むしった泥草を
    けんけんぱして
    蹴り込むように

    鉈の切り込みに
    食い入る意志が
    はめ込まれたら

    手足が届かない
    まだ見ぬ果実が
    たわわに実るか

    狂い咲きの夏の
    踊り場を踏んで
    どんな涼を求め

    雲隠れ(14.07.18)

    古いA325から
    新しいF306へ
    教室が変わって

    廊下側に学生が
    集中するくらい
    明るすぎる窓側

    デジカメ向けた
    曇り空の向うに
    透かし見るなら

    及び腰の質問も
    とんちんかんな
    やりとりまでが

    大窓から小窓へ
    三の窓を伝って
    舞い降りる若さ

    とにかく邪魔に
    ならないような
    シャッター音で

    開栓(14.07.15)

    剪定作業で
    刈り込まれ
    花がこない

    紫陽花には
    刺青めいた
    虫喰いの葉

    投影された
    網目の庭で
    組み立てた

    祝い言葉を
    クリップで
    繋ぎ止めた

    宛名札付き
    名も知らぬ
    花の鉢植え

    飲み干した
    コルク栓を
    指折り数え

    驟雨(14.07.11)

    迂路の角を
    曲がったら
    出会う夏女

    溢れそうな
    種子を噛む
    蜻蛉の目玉

    風に煽られ
    不時着して
    藻掻く脚に

    玄関先から
    声をかけて
    傘を差出す

    間も与えず
    走り抜けた
    ずぶ濡れの

    飼主を追う
    子犬の背に
    跳ねる水玉

    呪海(14.07.08)

    掻き分ける
    空気の流れ
    雨雲の匂い

    梅雨空低く
    私服を整え
    時間を跨ぎ

    寄せて返す
    波の鞍部で
    泡立つ影に

    浮足立って
    浮遊すれば
    足場が崩れ

    当て所なく
    腰も砕けて
    藻掻くだけ

    触れた底で
    一度浮かぶ
    泳ぎの型が

    浮輪(14.07.04)

    遠くの池で
    二輪の蓮が
    花開いたら

    胸の内にも
    微かに響く
    二人の唄が

    書込まれた
    未来が遥か
    過去に浮き

    沈み揺れて
    家計の底に
    天窓を穿つ

    針を下ろす
    誕生月毎に
    磨り減った

    不安に浮く
    水面を歩く
    型を旅して

    折り合い(14.07.01)

    身体を折畳み
    庭で半夏生が
    年季を数えて

    日々の体操が
    習慣のように
    織り込まれた

    畳の部屋から
    起き上がった
    立ち居振舞い

    話し言葉から
    書き言葉へと
    手をこまねき

    遣り繰りやら
    擦り合わせも
    ままならない

    無言を頼りに
    不器用に絡む
    切なげな試み


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