十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)


交叉(14.06.27)

行きも帰りも
跨線道路下を
列車が通過し

待ち合わせた
乗継ぎバスが
目の前を通過

市内バスなら
通過するまで
押しボタンを

控える老婆が
生き残ってる
梅雨空の下で

紫陽花が咲く
山手の雷鳴に
水かさが増し

渦巻く川面に
殴り書きして
駆抜ける雨脚

朝露(14.06.24)

満杯の除湿器の
水を捨て流せば
落ち梅が濡れて

ジーパンを脱ぐ
露な女の胸内に
落ちこぼれたか

びっしり朝露に
濡れた渇きから
遠ざかる自転車

ようやく透明な
埋め込み地図で
動きを印刷する

次巻配本までに
整えた骨格から
刈取られた読み

気を交わすなら
刹那を打ち出す
寸止めの身体に

足場(14.06.20)

手足もがれて
授業日を狙う
就活毛虫退治

教科書なんて
図書館利用で
十分間に合う

小・中・高で
まとわされた
殻の脱皮には

十重二十重に
羽搏ける場を
托卵できるか

共感視線から
羽化した手で
受肉を剥いで

骨が剥き出す
静かな動きを
書込む足場に

塩梅(14.06.17)

植込みの緑を
突き抜けたら
もう初夏だが

洋傘を逆さに
差し掛ければ
梅の実が降る

イタリックの
活字の窓から
文庫本を眺め

庭先の天日に
色づき並んだ
梅干しの数が

途絶えそうな
その日暮しの
引用の果てで

眠たがってる
身体の部分に
泳ぎ着くまで

旅日記(14.06.13)

蝸牛のように
雨の舌触りが
通り過ぎたら

巻き戻された
ミニ旅行から
帰ったばかり

草臥れ果てた
ソファで寛ぎ
メモを残して

とっておきの
ケースに挟み
閉じ込めても

窓にかざせば
映画が終った
心持ちばかり

写し取られて
もぬけの殻が
積み重なって

壁の泡(14.06.10)

仲間に誘われ
三角ベースで
走り回る前に

ボールを投げ
返してくれる
父が墓の下に

入った年齢の
先がまったく
尻切れとんぼ

世間と向合い
独り相撲しか
取り口知らず

ぶち当たって
跳ね返される
壁の模様など

クラゲの海で
溺れかかって
泡立つままに

六月の(14.06.06)

蒸し蒸しして
誰も乗らない
エレベーター

鏡の向うから
透けて見える
誕生月の空白

大きな揺れに
転ばないよう
抱きとめられ

薬缶や鍋など
金物屋の軒が
グラグラ揺れ

水田の畔では
打寄せる波で
脚がすくんで

善悪限りなく
もらい受けて
おくりびとに

誰かへ(14.06.03)

朝靄を抜ける
郭公の鳴声に
かき消されて

六月と七月の
星占いの数を
聞き逃しても

誕生月の雨を
着流す上着の
袖を捲りあげ

安く旨そうな
ワインを探し
開栓するまで

頁をめくれば
まるで動めく
図書館みたい

のめり込んだ
ゲームの音も
聞えないほど

骨絡み(14.05.30)

中也が詠って
見つけた骨で
座って食べて

他人の技から
盗みなさいと
教えられても

肩のあたりに
食べのこした
鶏脚の痛みで

痺れた硬さが
解けたように
動きを消化し

常識に紛れた
街中から外れ
駆け抜けても

埋もれた骨に
行き着く前に
納骨堂で休む

うたた寝(14.05.27)

陽射しの路線を
午前に潜ったら
午後の停留所で

眼を休めてから
映画村を旅して
五感を遊ばせる

毛虫の握力から
蝶の羽撃きまで
圧縮された地図

距離感にと惑う
吹替え版よりも
字幕版に導かれ

休憩する窓際の
蜘蛛の巣に絡む
夕暮のフォント

日が沈む直前の
乗り換え案内に
導かれた覚醒へ

尋ね人(14.05.23)

降りだした雨を
待ってたように
傘をさした傍を

すり抜けながら
上昇していった
抜き身の切っ先

ネジを巻忘れた
手首の古時計が
知らせる傾いた

日々の畳み方に
馴染んだような
庭の躑躅の花の

付き具合が庭に
やってくる虫や
鳥を遠ざけても

花付きが盛んな
新顔の雑草など
誰が運んでくる

緑の残雪(14.05.20)

リタイアしたら
ブルーマンデー
がどんな色へと

体力が衰えても
身体反応で占う
パフォーマンス

最高作を問われ
次回作と答える
高齢ピアニスト

再会色鮮やかな
礼文島のウニを
引き立てる食器

街中から聳える
山並みの残雪が
萌える緑に映え

シャクナゲ咲く
山間で鶯を聞く
山歩きの記憶が

介錯人(14.05.16)

さほど混まない
バス内で座席を
ゆずられそうに

教材用のPCの
都合でより広い
教室へ移ったら

授業前の教室の
引き戸を開けて
通させられたり

老いた見栄えに
予想外ではない
学生らの露払い

事が動き始めて
気付く前々から
国家の方向性に

縦横に切結んで
適不適否を問う
九条通を見納め

透視(14.05.13)

昼夜晴雨かまわず
吹き止まない風に
画鋲でとめた緑が

バラバラ抜け落ち
素足で踏まないで
武芸書を紐解けば

使ったことのない
筋肉痛の在処など
思いもよらなくて

市内バスの窓から
見えたことのある
夜学の同窓生から

送られてきた書の
封を切らずに読む
透視の術を試せど

「労学同帰」やら
「遊学一意」など
当時の四字熟語が

眺望(14.05.09)

僅少差を守り
あるいは逆転
して勝ちきる

吹荒れる風に
萌える緑など
狂ったように

老化の階段に
軟着陸しても
馳せ上り下り

受粉が途切れ
果樹園の端へ
高架橋が伸び

住まいを問う
風水の質問が
廊下を洗って

強風が磨いた
山脈の視界を
遮らない座り

目印(14.05.06)

乗り手のない
貸出自転車を
数える陽射し

バスと市電が
繋いで見せる
今日の居心地

伴侶同伴だと
iPod鳴らさず
Kindleも不要

手狭な球場に
埋もれていた
観戦履歴書が

入場者のない
BCリーグの
外野芝生席に

ベンチ席から
立ち上がって
覗き込む隣人

仮設(14.05.02)

庭木を揺らし
慌てふためき
耕耘機が通い

授業の準備に
手間取ってる
真新しい教室

襟を正したら
葉裏に逃込む
モビルスーツ

ミラーリング
設定のための
抜け道知らず

教卓に花咲く
赤ちゃん肌の
質問に戸惑い

十数年続けて
予測できない
適切な仕組み

些事(14.04.29)

雑草が繁った
葉陰で昆虫が
小刻みに震え

時間や空間を
圧縮しながら
きりもみして

正解の模写を
図鑑にしても
分類しきれず

届く言葉など
産んで殖して
使い尽すまで

書き損じたら
足止め喰らう
年齢不詳の声

響く未解決な
身体の層から
宇宙の彼方に

油差し(14.04.25)

春陽を響かせ
きりもみする
でんでん太鼓

交叉しながら
緑を切り裂く
手裏剣の喉笛

前籠を擦抜け
前輪に絡まる
自転車の鎖を

知恵の輪でも
あしらうよう
外せだなんて

情報のハブを
止めるのなら
まず停電だが

身動きならぬ
もつれを解く
注油の心意気

雨の紐(14.04.22)

無為や徒労など
街中での暇潰し
場所がなくなり

西部劇をはじめ
時代劇映画など
喫茶店の彼方へ

跡地に座礁して
行き倒れそうな
還暦の身体捌き

しなやかに梳る
春雨が緑の紐で
身体を縛り上げ

乾布摩擦を抜け
普通を見失った
木の芽時の不調

偏りの気付きが
紐解かれてから
新たな待ち合い

傍系(14.04.18)

タンポポと
蓮花の間で
雉が鳴いて

散り遅れて
花筏めいた
丘陵地の麓

饒舌な嘘が
浮び上がる
梨花の敷物

終わらない
稽古の謎が
立ち上がり

型くずれの
きっかけを
忘れ去って

あるがまま
しばし掴む
消えゆく道

欠本(14.04.15)

散り梅枝に
訪れた鶯が
鳴き惑って

命日の夢に
田舎の地で
居残る母が

営んでいる
本屋ならぬ
図書館へと

入り込んで
宮沢賢治の
名作選なら

中巻がまだ
欠けていて
目覚めても

唯一だった
蔵書の背が
空白のまま

千鳥足(14.04.11)

番の鶺鴒が
小走りする
越冬裏通り

川縁や公園
丘陵あたり
いっせいに

花開いたら
見所もなく
通り過ぎて

見境もなく
女子力など
徒花みたい

警戒心から
猜疑心まで
羽搏かせて

散り散りに
擦れ違って
交叉したか

補助線(14.04.08)

切詰めすぎた
前年の剪定が
花を咲かせて

したくないや
すべきでない
枠組が薄らぎ

剥がれ落ちた
雪害の破片を
嵌め込んだら

積年の桟から
螺旋を描いて
動きの橋渡し

釘の響き鋭く
打ち込まれた
虚空の身体へ

冥想の朝から
囚われないで
エクササイズ

挨拶(14.04.04)

庭木の緑より
雑草の伸びに
花芽の春便り

打ち損ないの
スイングから
弾かれた新芽

見つけられた
新しい振舞が
描いた弧から

振り抜き様に
とどけられた
挨拶を交わす

声のありかを
確かめられた
自他が出会い

身体さばきも
組立て直され
無駄も省かれ

幕間(14.04.01)

1階窓際から
2階の窓際の
陽射しの下へ

動かすように
タモリの窓が
消えた昼過ぎ

むかつく人も
いけてる人も
みんなまとめ

人物目録から
ゆるキャラへ
綱渡りしても

踏み外さない
サングラスの
奥の深さから

きれもせずに
今日の縄目へ
むなしからず

  • 出版状況クロニクル71(2014年3月1日〜3月31日)(出版・読書メモランダム) http://d.hatena.ne.jp/OdaMitsuo/20140401/1396278026
  • 海老名市立図書館の運営について〜2014年4月1日から指定管理者として運営開始(CCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社) http://www.ccc.co.jp/news/2013/20130331_004459.html
  • 海老名市立図書館の運営について(株式会社図書館流通センター[TRC]) http://www.trc.co.jp/information/140331_ebina.html
  • 国立国会図書館、全国書誌データ提供ページを公開(カレントアウェアネス・ポータル) http://current.ndl.go.jp/node/25820
  • ニューヨーク公共図書館、2万点以上の地図資料データをCC0で公開(カレントアウェアネス・ポータル) http://current.ndl.go.jp/node/25815
  • 映画「疎開した40万冊の図書」の感想(みききしたこと。おもうこと。) http://d.hatena.ne.jp/xiao-2/20140330/1396181528
  • 国立国会図書館、地図資料へのNDLSH付与開始(カレントアウェアネス・ポータル) http://current.ndl.go.jp/node/25790
  • 『専門図書館』の図書館システム特集に解説記事を書きました(ささくれ) http://cheb.hatenablog.com/entry/2014/03/28/232209
  • 機関リポジトリコンテンツにDOIが付与できるように まずは紀要論文から(カレントアウェアネス・ポータル) http://current.ndl.go.jp/node/25757
  • “飛行機酔い新人CA”を救った、上司の覚悟:“台本のない世界”で手ほどきするのは大人の役割(日経ビジネス オンライン) http://nkbp.jp/QxMBPI
  • 音楽のデジタル化時代に著作権管理団体はどうなる JASRACがシンポジウム(ITmedia ニュース) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1403/25/news096.html
  • 心のリセットキーを押す→嫌な感情に陥りそうになったとき自分を取り戻す7つの方法(読書猿Classic: between / beyond readers) http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-735.html
  • 春支度(14.03.28)

    防寒深靴で
    歩くことの
    なかった庭

    冬の記憶が
    取り外され
    雪吊りの柱

    ひび割れた
    スキー靴を
    仕舞い忘れ

    日陰斜面へ
    脱ぎ捨てた
    セーターに

    春の昆虫が
    抜殻を残し
    飛去ったら

    置き忘れた
    蠢く内観を
    羽搏かせる

    紐解き(14.03.25)

    紅白前後し
    花開く梅の
    間で外され

    柱が抜かれ
    背伸びする
    庭の植込み

    風化の響を
    灯すように
    石灯籠の傘

    掻き分ける
    葉脈の奥へ
    ほとばしる

    乾き具合が
    寒冷地から
    抜けだして

    肌を抜けて
    筋肉に触り
    骨の髄まで

    脚立(14.03.21)

    どうしても
    書架高くへ
    読み終え本

    爪先立って
    取り出せば
    掃除届かず

    木製脚立に
    上り見渡す
    読書履歴も

    読み繋いだ
    本の記憶も
    埃まみれで

    脚立に座り
    拾い読めば
    椅子に化け

    新着初刊を
    開く脇机に
    早変り脚立

    掌上滑り台(14.03.18)

    昨夜の満月に
    晒された梅が
    一気に膨らみ

    1シーズンに
    400km以上の
    滑走距離より

    その日の滑り
    それぞれ違う
    愉しさの数々

    前に進むから
    背後を気遣う
    闇夜の心地に

    銀河の果てへ
    生死を問わず
    読み書き計算

    身体の各層に
    掌をめぐらし
    紙飛行機投げ

    巻貝(14.03.14)

    山と平野を
    隔てながら
    立ちこめる

    朝靄の向う
    溶ける雪を
    追いかけて

    畦道を辿り
    蕗の薹など
    探し歩けば

    見下ろした
    前足飛越え
    谷筋へ獣道

    暖かすぎる
    リフト上で
    植物の微睡

    動物の匂で
    目覚めたら
    骨を響かせ

    捨て石(14.03.11)

    読み違えた
    天気予報と
    準備不足で

    雪質良好な
    ゲレンデへ
    出かけ損ね

    晴れ渡った
    一昨日など
    公民館での

    スポ少団の
    お別れ会で
    子らの姿に

    これからも
    バドをやる
    楽しさ溢れ

    無駄が多く
    回り道でも
    果てしなく

    指切り(14.03.07)

    板書している
    背中目がけて
    ぶつかる前に

    庭に入り込む
    猫の気配など
    家の奥に居て

    日本刀の鞘に
    抜き差しする
    曲線を走れば

    いつ開こうか
    水差しの花が
    戸惑ったまま

    渦巻くように
    霧吹きを押す
    指先の問掛け

    持つ間もなく
    握っているか
    掴んでいるか

    冬に遊べば(14.03.05)

    朝陽に浮かんで
    水蒸気が逃げる
    弥陀ヶ原の傾き

    3月初めにして
    ひと滑りごとの
    ゲレンデの雪質

    アイスバーンで
    身体を固めすぎ
    バランスを崩し

    シャーベットで
    動き過ぎ固まり
    バランスを崩し

    新雪斜面ならば
    自重をしっかり
    乗せたラインで

    知りえなかった
    身体の使い方の
    外へと滑り始め

    潜り戸(14.02.28)

    行けるとこまで
    なんて言っても
    いいかげんだが

    たいして汗など
    かかないうちに
    息切れしそうに

    働き続けるうち
    結婚して建てた
    住まいを維持し

    リタイアすれば
    老いゆく母親の
    介護のかたわら

    教室と体育館を
    往来する距離も
    近くて遠くなり

    広がる裾野から
    見えない頂まで
    何枚の潜り戸が

    帆柱(14.02.25)

    残雪を避けて
    まだら模様に
    樹影が連なり

    腕組みをして
    岸辺を探せば
    流氷の歯軋り

    取り残されて
    自問自答する
    うねりに沈む

    砕けた明日の
    姿勢を変える
    風向き知らず

    帆を立ち上げ
    巡らす問いに
    揉み解されて

    そこかここか
    あるやなしや
    眺めせしまに

    不調和(14.02.21)

    思い通りにも
    何のためにも
    ならないのに

    捨てきれない
    途切れがちな
    空調機の働き

    言葉と身体が
    出合い損なう
    動きのように

    見ず知らずの
    人称を名のる
    体感を頼って

    次から次へと
    立ち現われる
    関門の向うへ

    両肩を働かせ
    双方で引いて
    打ち放せるか

    着崩れ(14.02.18)

    明るい窓の外で
    雪が舞うように
    視界の手前でも

    捉えようとして
    定らない呼吸が
    身構えたりする

    建物を吹抜ける
    風が光り輝けば
    影が響き渡って

    動きについてる
    呼吸が呼び込む
    乱れを着込んで

    お互いが邪魔に
    ならない個々の
    動きが恊働して

    授業で一度でも
    自分に聞えない
    喋りができたら

    雪見橋(14.02.14)

    ここから先は
    行こか戻ろか
    橋の袂に立ち

    自在な滑りの
    コース選びが
    明暗を分けて

    ○×記入より
    複数課題から
    設問選択解答

    答え易さより
    難しさを選ぶ
    教室の学生に

    そこまでとは
    思いがけない
    レポートなど

    十五ばかりの
    橋桁を数えて
    欄干が揺れる

    雪玉(14.02.11)

    誕生日の雪を
    風信のように
    握りしめたら

    目覚めた朝が
    同じ零下でも
    肌触りが違い

    ゲレンデでも
    雪質の変化に
    足裏が笑って

    コーヒーから
    立上る湯気に
    溶ける屋根雪

    落雪に驚いて
    飛び去る鳥を
    撮り損ったら

    どんな笑顔で
    四十過ぎから
    生き延びるか

    冬のキノコ(14.02.04)

    冬もほころぶ
    暖かい日和の
    船底で水漏れ

    古びた楽器が
    奏でる音楽に
    聴き入る耳が

    見たことない
    生死の行方を
    人称で数えて

    落ち葉を拾う
    手の隙間から
    草が生え伸び

    求愛の物語に
    混じり込んだ
    嘘を抜き取り

    どこまで深く
    人称を失って
    腐り果てれば

    座り体癖(14.01.31)

    自転車で走れて
    新調除雪用具も
    片づけてしまい

    ネクタイ下げて
    後期最終授業に
    出かけてみたり

    履修年度違えば
    科目選択学生の
    様相も様々だが

    学生が座るのは
    座席数が余裕の
    教室のどの辺り

    窓側を選んだり
    出入り口がある
    壁側や後部座席

    真ん中あたりが
    お気にいりでも
    齧りつき少なし

    そこここ(14.01.28)

    期末に近づいた
    教室から眺めた
    ゲレンデに雲が

    半島を目指して
    健康寿命が滑る
    斜面の遥か向う

    振り返り見れば
    雪煙舞う稜線に
    青みをます違和

    映写前の銀幕が
    映し出す昂りの
    迂回路の裏側へ

    吹き抜ける風が
    解体させる影で
    掘抜かれた井戸

    扇状地を潜った
    伏流水の流れが
    湧き出す湾深く

    風月(14.01.21)

    まんまる寒月が
    庭先で見上げた
    雲間を刺し抜き

    弛んだ雪吊りで
    絞め殺すように
    樹木の影が凍る

    夜の山並みから
    張り巡らされた
    風が眠りはじめ

    聞き耳を伏せた
    家並の設計図を
    測量する風向き

    月光をかき消し
    降り出した雪に
    地下水が跳ねて

    夜道を足で穿つ
    遊牧民の鼓動が
    側溝伝いに聞え

    ゴム長(14.01.17)

    水鳥の影少なく
    光と風が揺らぐ
    城址の掘り割り

    山並みが川面に
    まばゆく映える
    雪のない河川敷

    無雪の成人式に
    こっそり紛れて
    抜けだし半世紀

    田舎から郊外へ
    居所を新築した
    冬場の引越しも

    産気づいてきた
    ヨメを産院へと
    連れ添った時も

    履き潰す長靴が
    雪の少ない冬に
    句読点を打って

    姿勢(14.01.14)

    どんな高見から
    降下する冷気に
    乗り合えたから

    忘れてしまった
    凍り輝く冷気を
    眺めている姿勢

    地表に舞い降り
    溶けゆくまでの
    結晶のひととき

    組み合わされた
    脚に立った腰に
    両肩が落ち込み

    座布団を離れて
    浮遊する球体が
    俯瞰する座右か

    冥想の呼吸から
    はじまる姿勢が
    頭頂を吹き抜け

    脈絡(14.01.10)

    週一時間出勤の
    再開を待ってた
    グラデーション

    雪明かりと風が
    見慣れた風景を
    異様に浮遊させ

    隠された普通の
    暮らしの諸相が
    夕闇を彩り始め

    人相書きが宿す
    耕された来歴が
    浮かび上がって

    正視に耐えない
    弱さを見つめる
    冥想のきっかけ

    関節の働具合を
    聴取った内臓が
    唄いだしそうに

    天秤棒(14.01.07)

    快晴の山並みが
    照り返している
    スキー場あたり

    滑ることを知り
    上達することを
    学ぶために調べ

    道具と身体とが
    一体化するまで
    考え続けながら

    気付かなくても
    呼び覚まされて
    繋ぎ合わされる

    単純な動きから
    組み合わさった
    働きへ統合され

    抜けだすまでの
    びっくりできる
    小躍りも束の間

    馬ながら(14.01.03)

    年賀の駒届く
    正月三日目に
    漸く雨上がり

    下駄箱に飾る
    馬の置物から
    響いてくる姿

    蹄の音も高く
    裸馬に跨がり
    田舎道を駆け

    冬場に向って
    車で引越しを
    手伝った青年

    手にした鞭で
    砂埃を払って
    戻った馬小屋

    汗ばんだ馬の
    目に映る窓を
    吹き抜けた風


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