十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)


帰宅(13.06.28)

梅雨の晴れ間の
交差点の空高く
糸真珠が羽撃き

運動後の行為を
巻き戻した音楽
ビデオに上書き

活字が小さくて
読めなくなった
本の背を壁際に

聴かなくなった
LPレコードまで
渡した橋の脆さ

バス停で待受け
ヨメの自転車の
籠に鞄を預けて

6月の雨量計が
横断歩道途上を
遠ざかっていく

延長戦(13.06.25)

焼けた手の甲に
まだ残っている
九回裏の無得点

SBOの並びで
スコアボードに
ボールカウント

ときおり低空で
横切る飛行機に
追われたカラス

外野手の後ろに
不時着したまま
スタンドを眺め

古稀を記念した
グラスに注いで
飲む酒の味わい

王や長島時代の
歓声と野次など
思い出せようか

キセキ(13.06.21)

濡れて落ちる
梅の実が緑を
際立たせ響き

不要な力みを
拭いきれない
老いの不明に

黄変したのや
枯れかかった
庭木が歯痒く

手や腕に頼る
四足歩行時の
体幹の足跡が

残された葉の
虫喰いを探し
はたき落とす

毛虫の動きで
地べたに届く
柔らかな曲線

捨て鉢(13.06.18)

梅雨入りなど
そ知らぬ顔の
紫陽花が濡れ

支点が邪魔な
腰痛姿勢から
立ち直るまで

霧吹きかける
鉢植え野菜の
発芽を探せば

すり潰された
無意識の種が
鉢底から抜け

有るも無きも
過去と未来が
圧縮されたら

どうでもなく
ちょうどいい
いまここから

河童本(13.06.14)

試合開始前の
外野席に届く
打球の擦過音

TVカメラから
聞えないけど
確かに見える

誰が言ったか
恋愛は遠距離
より近距離で

仲間に読まれ
届かなかった
恋文の虚しさ

中学校通いの
道筋で立寄る
貸本屋の棚板

お袋の読本を
借出すうちに
裏本の扉絵が

海辺の観覧(13.06.11)

自転車と電車の
走りを比較した
海風の地図から

水槽に閉ざされ
梅雨も知らない
魚の側線が囁く

歩き疲れる前に
ヨメと乗り込む
観覧車の一巡り

輸送船の航跡に
紛れた蝶の羽が
海峡を渡ったら

傾いた無人駅を
置去り過ぎ行く
特急電車が響き

高見から眺める
水平線の彼方に
消え残る出生が

初舞台(13.06.07)

郭公の初鳴きで
幕が開いた空に
プリマドンナが

南から北に向う
硬直した姿勢を
一直線に消して

音もなく名機が
あらぬ方角から
丁寧に整備され

昆虫少年めいた
植物少年を装う
中途半端な夏の

縁側から台所へ
なぜ産んだのか
埋まらない問い

生の蔓から放つ
飛ぶ理由がない
飛行機少年の謎

葉隠れ(13.06.04)

雨降りが少なく
夏日も多かった
五月の庭の異変

滅多に虫喰いの
ないアジサイや
柊がぼろぼろに

蝶の幼虫なみに
偏食する昆虫を
調べ終えてから

大振りにならず
バットや木刀や
ラケットなどを

素早く動かせる
指使いで写した
跡形のない葉脈

悲しみや怒りが
透けて見えたら
御の字の撒布を

気休め(13.05.31)

行き交う階段に
人気が少ないと
試したくなって

行抜きの散文の
隙間から登って
下りてくるまで

手足の動きなど
思いもよらない
見通しの良さに

別れの出会いが
首を振るように
待ち受けるから

やり直せなくて
ゆくえしれずの
行間でひとまず

切り上げてみて
休憩を挿み込む
気付きの踊り場

雪片譜(13.05.28)

残雪の山肌から
脱けだしてきた
寄書きのひと言

庭の片隅に咲く
薔薇のひと時が
一輪挿しに届き

一角獣の鼻先に
突きつけられた
はなむけの由来

耳目に晒されて
違和が残ったら
跡形もなくなり

呼びかけが谺す
山裾に辿り着き
脱ぎ捨てられて

目先が利かずに
匂いや音だけが
動きに溶けこむ

拮抗(13.05.24)

毟ろうとして
真っ直ぐ咲き
揃った雑草に

引き抜かれた
手指の指向が
通り抜けたら

動きの一つが
知らぬままに
身体に目覚め

働きだしたら
思いもよらぬ
行いとなって

体内に満ちた
自然な作用が
転機の行動へ

先走らないで
速まるままに
為そうとせず

小養い(13.05.21)

食荒らされた
羊の群れから
はぐれた山羊

働こうとして
動けない手に
指の形が教え

上り下りする
日常の斜面を
横切っていく

動きの葉陰に
抽象と具象が
交叉するなら

見えない管を
わかりやすく
抜けるように

竹馬から下り
立つことから
先走らぬよう

付箋(13.05.17)

柔らかく繁った
陽射しの陰から
響いた眼差しに

面影を探したら
かくれんぼする
観覧車が回って

庭の植え込みで
時計草の記憶が
鬼ごっこに興じ

首根っこ辺りで
仕切られている
追いかけっこに

着の身着のまま
樹木を食荒らし
鳥獣の座標から

異数の界隈まで
身体を駆け巡り
腑に落ちるまで

動く影(13.05.14)

素麺や冷奴が
美味い体調に
呼び寄せられ

予約し忘れて
発売日なのに
もう売り切れ

見えるものと
見ているもの
の位置関係が

その他大勢で
アナーキーな
ゾンビ映画に

忍び込んだら
言葉が解らず
眼華が飛散り

手当り次第に
獲物を噛砕く
座標を歩みに

緑怪談(13.05.10)

幹を覆い隠して
新緑が酌み取る
井戸水で顔洗う

眠りから覚めた
エレベーターの
乗心地に騙され

恥じ入る稽古で
会心の一撃など
知らずに繰返し

6階から3階に
減った階段でも
疲れを覚えたら

脚を開き上げて
一段ずつ抜けば
百段でも半分に

上りはより良く
下りは怖くなる
一段抜き行帰り

幕間から(13.05.07)

鳴き声が響けば
水辺で絡み合う
二羽の鳥のよう

幼年の釣り糸で
山間のため池の
自画像を釣上げ

持帰りタライに
浮かべ走らせた
ポンポン蒸気船

仏壇から失敬し
短くした蝋燭が
燃え尽きるまで

周回するうちに
消えない航跡が
とぐろを巻いて

砕氷船のように
油膜を切り刻み
網目の奥へ消え

反転(13.05.03)

五月になっても
冷たい緑が光る
冬型の気圧配置

東西バランスが
崩れたみたいに
振り分けられて

日向と影が描く
衣替えの地図に
描き残していた

身動きならない
ルートが不意に
繋がったように

繰り返す日常の
一コマを仕切る
障子戸を透かし

くぐり抜けきた
陽射しで描いた
一筆書きの動き

佇立(13.04.30)

さてどこへ行こう
新緑に隠れながら
樹々が腕をのばす

久しぶり自転車で
喉が渇き腹も減り
立ち寄る店を探し

無駄足走行を止め
自転車ナビに頼る
手探り足探り履歴

芽生えの始動から
若木の立ち姿まで
そよいで見え隠れ

引き抜かれた根が
枯れてしまわない
ルートが幹を巡り

収めどころを求め
ピアノ・トリオの
絶妙の一拍が過ぎ

休業(13.04.26)

主人を失った近所の
魚屋での買物履歴が
途絶えて数ヵ月だが

休業案内もどこかへ
昨日もシャッターが
閉ざされ音沙汰なし

就職説明会参加日に
あたる来週の授業は
休むのと学生が訊く

教務担当者に問えば
授業は予定通り行い
就活学生は欠席扱い

その旨学生に伝えた
後に担当教官が訪れ
頼むから休講扱いに

骨にそって腕を抜き
捌いてもらった魚を
味わう指の振り抜き

逃げ虫(13.04.23)

出戻ったような
寒さ続きで庭の
花持ちが良くて

あぶれたように
羽音もさせない
小さな虫が飛び

壁際に止まった
姿を接写すれば
脚が足りない姿

捕虫網から逃げ
筒卵からこぼれ
少年はいずこへ

バッタを怖がり
トンボを追って
少年は浜辺まで

人知れず集めた
生き物標本など
幼い日の抜け殻

稽古法(13.04.19)

緑づく街路樹の
心がけも知らず
散歩する動物心

まとわりつかれ
みはなされつつ
きがきじゃない

わかりすぎてて
なにがなんだか
よくわからない

すぎたことなど
どうでもよくて
ただひたすらに

さきのことなど
いいかげんなら
いましたいこと

あるはずもなく
何にもないから
ためすしかなく

光と闇(13.04.16)

雉の朝鳴き近く
夢見の悪さなど
蛇口へと流され

散り始めた花が
庭土深く埋もれ
植物の心を飾り

母の実家が遠く
なりはじめても
曲がった腰軽く

風呂敷いっぱい
背負ってきては
帰った婆さんを

見失いながらも
追いかけそうな
天下一品の旗印

怒りや不安から
枝葉が削がれた
冥想のひととき

霧吹き(13.04.12)

肌寒い日が続き
市内の桜名所や
土手沿いの向う

丘陵地あたりも
散り際を揃えた
みたいな眺めに

いつもとは違い
庭では八重桜と
木瓜が咲き揃い

鶯や雉の鳴声も
まだ聞こえない
季節の耳元には

背伸びしすぎて
踏みしだかれた
水仙が霧を吹き

四枚目の巣網に
母の祥月命日を
浮かび上がらせ

花見(13.04.09)

先週末の春嵐など
忘れたかのように
持ちこたえている

母の不在を隠して
3年目の花が開き
庭の雑草も生えて

苔生すまでもなく
夫婦二人になった
家屋の見取り図に

腰を下ろしたまま
透かし見る向うを
閉ざす強風注意報

「ル・アーヴルの
靴みがき」の中で
妻が全快退院して

花開く住処に帰り
密航少年を助けた
亭主と一緒に眺め

隠れ膕(13.04.05)

濡れた屋根の向う
春霞をとおり抜け
燦々と輝くばかり

眠ったままの鳥や
昆虫を置き去りに
山麓の残雪が弛み

小川から用水まで
ヤングアダルトの
素足が潺々と流れ

13から19までを
なりふり構わずに
ないがしろにせず

花心を数えるより
接写するしかない
何かに八つ当たり

川面を叩いている
出逢いの鼓動から
ぶっつけ本番まで

開花(13.04.02)

ほころびはじめた
庭の花がそばだつ
ざわめきの彼方へ

週末の天気崩れで
滑り損なったまま
冬の名残の斜面に

箱庭のような幻の
花壇から飛立って
身構えた着地まで

投げ損なった球に
指のひっかかりが
記憶されていたか

花開くこともなく
ゲームから退いた
気付きの合わせ技

身体が弛んだまま
力みがとどかない
グリップの握りに

電話口(13.03.29)

残夢を拭取って
梅の花が散れば
温い雨に濡れる

目覚めたような
動きでこっそり
遺影を壁に吊り

引っ張り出した
色紙をひっそり
飾り立て眺める

なりふかまわず
手を合わせても
臨死体験知らず

〈他界〉からの
人称詐欺を盗み
聞いている倫理

電話が開通した
日からネットで
繋がった世間で

三面鏡(13.03.26)

庭木の枝の茂み
嘴が啄んでいる
無念が花開けば

ピントも合わず
身体を動かして
居場所が決まり

手かせ足かせで
営む家の庭から
地底と空を隔て

羽搏いてみれば
かすみ網に絡む
XYZの三脈編み

同期の三叉路に
抜け羽根を数え
距離感が途絶え

引っ繰り返れば
心身の座が浮く
三大陸を俯瞰し

シーソー(13.03.22)

日替わり空模様を
抜けきったような
朝方の青空の高さ

木の芽時を堪えて
融雪ホースを丸め
裏の雪囲いも外し

主役が歳を経ない
スポ少お別れ会が
30回あまりになり

日当たりの軒下で
そっと手を挙げる
水仙の開花を数え

中学で続ける子も
途中下車した子も
シーソーの真ん中

庭に盛り上がった
モグラ道を踏んで
もう一度やり直し

寒気払い(13.03.19)

三月を吹き荒れ
寒雲を追い払う
家鳴りの居心地

昼夜がようやく
重なったような
夜明けの眼差し

ぴったり重なる
スプーンとなり
温もりを分かち

寝起きに衣替え
汚れた洗面台を
井戸水で磨けば

胸の詰まりなど
無かったような
小鳥のさえずり

啄む梅の花枝を
止り木に飛立つ
嘴が握りに見え

胡座立ち(13.03.15)

この頃の体調が
日替わり激しい
気象に乗り遅れ

身体を扱う技の
斜面の変化への
対応に遅れたら

ひっくり返って
下まで落ちずに
立ち上がり滑る

立ち向かうにも
逃げるにしても
座り方で違いが

後ろから襲われ
回り立ち上がり
素早く対処する

真っ向の危機に
胡座から立って
真っ直ぐ逃げる

師弟風(13.03.13)

夜来の強風で枝に
しがみつき膨らむ
梅の莟の半信半疑

まだ先は長いから
残り少ないかなの
還暦から古稀まで

週に二日のバドに
晴れればスキーを
愉しむ後期高齢の

大先輩に久しぶり
声をかけられたよ
1本滑って休んで

長らく勝手に師の
背中を追うように
ヨメと二人三脚で

行きのタクシーや
帰りのバス運転手
通行人の声に応え

老い作法(13.03.08)

しっかりスキーの
準備をした翌日が
風が強く暖か過ぎ

初サイクリングに
きつい向い風なら
バスに乗ればいい

ビル7階の書店の
フロア作業店員が
いらっしゃいませ

定年間近になって
仕事をやめてから
かれこれ十年近く

この先何冊読める
読みさし積ん読も
見慣れた部屋の声

逃げの一手が違う
正座や胡座からの
立ち居振る舞い方

発着(13.03.05)

夕陽照る山肌が
長靴を履かない
歩き心地を映す

10年目にようやく
場所柄が変わった
懇談会の居心地へ

教育に絡む気柄が
怖じ気づいている
グローバル化の波

切り分けるように
舳先をまっすぐに
教室の舵を操る師

シラバスなどどう
システム化しても
戸惑いの網の目に

ひっかかる雑魚の
居場所を探し求め
無用に漕ぎ還せば

疾風(13.03.01)

寒暖めまぐるしく
吹き荒れる空から
くるくるゴミ袋が

微小粒子物質など
かき集めるように
庭先をかすめ飛ぶ

冬をやり過ごした
自転車チューブが
へたり込んだまま

しがみつくように
ジャガイモ喰らう
食卓の二人の無言

「ニーチェの馬」の
嵐がやんだ静けさが
通せんぼをして響き

涸れ果てた井戸に
蒸かせず焼き芋へ
火種も尽きた闇が

滑り込む(13.02.27)

2月末のゲレンデと
下界の積雪の違いを
見事に映す空の青さ

県内のスキー場など
ダサくて滑られない
若者たちに混じって

見上げた空の乱れに
降り積っては消えた
ダイヤモンドダスト

中高年スキーヤーが
閑古鳥となって滑る
地元スキー場の老化

足枷のようにハマる
窮屈さから自在へと
抜け出るための型を

見よう見まねで試し
古稀近くまで滑って
届かぬシーズン400km

よそ見(13.02.22)

システム更新した
PCで送られてきた
ファイルが扱えず

まだ行っていない
数ヵ月先に予定の
旅の記録を捏造し

オープンソフトで
新規シラバス用の
入力作業を済ませ

師弟のかかわりも
余白に書込めない
授業の契約なんて

計らわず出かけて
生後数ヵ月足らず
赤子の瞳に出逢い

明かされた名前で
生き抜く術となる
学ぶ力を問いかけ

炉端(13.02.19)

厚着をして行く
寒空の体育館で
汗ばんで帰れば

寒夜の停電での
囲炉裏で燃えた
薪の炎が懐かし

凍結しはじめた
歩道で滑ったら
汗も引っ込んで

風呂場をガスで
暖めシャワーの
熱気が汗の名残

いまここにある
何かと居合わせ
つかの間安らぎ

八幡宮の裏山で
ムササビらしい
獣が木を伝った

道具(13.02.15)

雪が少なく雨が
降る2月の気は
どこか乱れがち

見よう見まねの
整体の真似事に
役立つ“みち山”

冷えた指先から
三脈に触れたら
温もりに掴まり

里山を仲立ちに
田舎の暮らしを
働かせた道具類

色んな鎌や鍬や
畑道具のほかに
形の違う鉈や斧

なけなしの田や
畑ともども母は
売り払ってきた

吉日(13.02.12)

2月の空と大地の
おし問答みたいな
消え物のやりとり

娘が生まれた日は
さっぱり雪がなく
バスで産院に向い

まさかにまとわれ
きれぎれにつなぐ
日常化の橋の半ば

見よう見まねでも
ほんとうを目指す
九十九里が道半ば

不惑を迎えた娘の
テーブルに運んだ
ヨメの手料理など

食べてくれるだけ
いまここにあって
それだけにつきる

気と機(13.02.08)

洗いたてのジーンズの
ポケットからゴミ屑を
つまみ出すような雪が

受験目前の子供らや
卒業を控えた学生の
足音が響かないよう

こっそりと積もった
眩しさを際立たせる
氏名のないレポート

どの学生が書いたか
顔と名前がはっきり
しなくても筆跡判定

力余ってラケットで
床を叩きそうな子に
力むなよと言ったら

力を抜いて打とうと
する力をはたらかせ
気をつかって失う機

ポケットにナイフ(13.02.05)

かって赤谷尾根から
蔦や蔓草を切り払い
藪漕ぎをして下りた

ちょっと捨て鉢だが
2年毎に入れ替わる
教室通いも10年過ぎ

送ってくれた課題に
労いとお礼の言葉が
挿まれた便箋の図柄

内気な山羊男なのに
働きながらスポ少の
コーチを30年以上も

場に臨み続けるほど
先入観や思い込みや
準備するむなしさが

切れ味が鈍いようで
握りしめれば一緒に
迷った山仲間の面影

トライアングル(13.02.01)

山肌を縦横に走る
兎の足跡のような
駆け込み初滑りへ

冠雪した田んぼと
畑地を選り分けて
群がる鴉の無関心

凍った桜並木から
立ち上がってくる
朝もやの向うへと

一目散に迂回路を
タクシーで抜けた
海抜メーターの針

料理の三角形から
運動の有り様まで
噛み砕いてみれば

競技用の練習から
スキー実習用まで
色分けられた斜面

滑空(13.01.29)

1月も終わり近く
ゲレンデへと誘う
日和の当たり外れ

登攀状況に合わせ
履き替えた靴底と
岩肌を探る素手で

酒が弱くなったり
喫煙を忘れ果てた
体力の心もとなさ

登りはじめてから
頂きに近づきつつ
過ぎれば折り返し

五体の扱い方から
使い方に気づいた
道具の往路と帰路

抜いた刀を納める
鞘を感知して動く
クライマールート

吹雪の挨拶(13.01.25)

後期の授業を終え
キャンパスを後に
軽量防寒ブーツの
履き心地の良さが

課題やレポートで
膨らんだバッグを
場を主宰しにくい
教室の名残が包む

一夜明けた吹雪に
かき消されたまま
辿れぬ10年が過ぎ

力みすぎの子らと
学力をもてあます
学生らにはさまれ

打ち合わせられる
両の手が響くよう
過ぎ行く出会いに
一期一会の挨拶を

空っ穴(13.01.22)

降り込む一月の雨に
年が明けたことなど
忘れてしまいそうに

積もれば積もるほど
軽くなる雪のような
新年はいつ始まるか

苦節などあり得ない
伸び悩んだ樹木から
切り出された橋の袂

同調性がはりつめた
氷原を渡りきれない
亀裂の息吹が途切れ

10年も待てないのに
行き過ぎた結末など
操り人形の稽古不足

ドミノ倒しのように
体感を全開に濃霧の
新雪斜面に突っ込む

ささら(13.01.18)

掃除ロボットなら
人力が培う細かな
身動きを奪うだけ

寒中水泳代わりに
畳の上の水練でも
やらないよりいい

自明の理の雪玉が
現場に転がったら
立ち位置で消えて

思い出せないまま
忘れられた宿題に
出し遅れた答えが

信号無視するしか
渡れない途上では
行きも帰りもなく

ささらを鳴らして
響きに割り込ませ
整え動く関節捌き

老い山道(13.01.15)

予報官がちょっと
読み違えたような
関東圏の降雪でも
マスコミは大騒ぎ

歩き慣れない雪道で
滑って転んだときも
「体罰」とみなして
痛みをやり過ごすか

どうにか掴まり歩く
おふくろが洋室から
和室への段差の行き
帰りで見せた達成感

使い古びてしまった
耐寒ブーツや帽子や
鞄など買い替え時が
風雪で痛んだ家屋の
メンテナンスのよう

老いゆく身体動作で
気づいた操法ほどに
新調して使い心地が
リセットされるなら

屏風座り(13.01.11)

人通りのない
凍った雪道で
血と見間違う
潰れた熟し柿

受身過ぎない
雪かき仕事が
焼け石に水の
蛇口を飲干す

後期高齢者向け
リフト券無料が
無駄になってる
山麓のあたりに

まだ見つからぬ
遭難救助に飛ぶ
ヘリコプターの
回転翼の残響が

滑って転ける前に
雪下駄は別として
藁沓やゴム長から
南極仕様の長靴まで
和式便所の座り心地

  • 東日本大震災アーカイブ:開発版[機能を追加し、試験公開を再開](国立国会図書館) http://kn.ndl.go.jp/
  • 国立公文書館デジタルアーカイブ:横断検索システム http://www.digital.archives.go.jp/globalfinder/cgi/start
  • 《松浦晋也「人と技術と情報の界面を探る」》原子力発電を考える(第17回)電力事業の歴史を追うーー第五福竜丸事件と反核運動の成立(PC Online) http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121225/1074966/?set=ml
  • 米議会図書館に収蔵のツイート1700億件超、研究者らに公開へ(CNN.co.jp) http://www.cnn.co.jp/tech/35026612.html
  • How do our favorite tech companies make money?(IT企業を収益の上げ方によって分類) http://rcs.seerinteractive.com/money/
  • 青空文庫’12/11月-’12/12月の月間アクセス増分析(aozorablog) http://www.aozora.gr.jp/aozorablog/?p=1913
  • 書評(国内)の探し方・見つけ方(リサーチ・ナビ) http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/post-539.php
  • 記録映像 .JP(記録映画保存センター) http://kirokueizo.jp/
  • Artsy(世界のアート作品を発見し、学び、集めるためのプラットフォーム) http://artsy.net/
  • 知っていましたか? 近代日本のこんな歴史(アジア歴史資料センター) http://www.jacar.go.jp/modernjapan/index.html
  • 自転車探検! http://www.geocities.jp/jitensha_tanken/?
  • 搗き直し(13.01.08)

    持ち運んだ杵も
    蒸篭も処分して
    裏返された臼が
    テーブル代わり

    寒さもひときわ
    着古した正月の
    迷妄の抜き手で
    泳ぎだす夢見に
    遠のく想像の海

    福袋から飲干す
    ワインの響きに
    身体をあずけた
    細胞が聴き取る

    フォワードこそ
    噛む力とすれば
    バックスが舌だ
    なんて誰が言う

    及び腰の知識を
    拭取る直感力が
    桁外れな宛先へ
    搗きたての便り

    折り返し(13.01.02)

    煤払いや大掃除は
    ほどほどに落語や
    ボクシング中継を
    見届けて夜廻りへ

    となりの町内から
    移ってきたという
    住人から受取った
    拍子木が雪に濡れ

    手に力を残さずに
    打ち合わせるだけ
    狭い町内にとどく
    日頃の面識のなさ

    「一命」の竹光が
    「さや侍」の腰で
    抜き身そのものに

    振り出し方を求め
    行きっ放しめいて
    収めどころを探す
    ブーメランの日々


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