十字路で立ち話(あるいはワッツニュー)
梅雨の晴れ間の
交差点の空高く
糸真珠が羽撃き
運動後の行為を
巻き戻した音楽
ビデオに上書き
活字が小さくて
読めなくなった
本の背を壁際に
聴かなくなった
LPレコードまで
渡した橋の脆さ
バス停で待受け
ヨメの自転車の
籠に鞄を預けて
6月の雨量計が
横断歩道途上を
遠ざかっていく
焼けた手の甲に
まだ残っている
九回裏の無得点
SBOの並びで
スコアボードに
ボールカウント
ときおり低空で
横切る飛行機に
追われたカラス
外野手の後ろに
不時着したまま
スタンドを眺め
古稀を記念した
グラスに注いで
飲む酒の味わい
王や長島時代の
歓声と野次など
思い出せようか
濡れて落ちる
梅の実が緑を
際立たせ響き
不要な力みを
拭いきれない
老いの不明に
黄変したのや
枯れかかった
庭木が歯痒く
手や腕に頼る
四足歩行時の
体幹の足跡が
残された葉の
虫喰いを探し
はたき落とす
毛虫の動きで
地べたに届く
柔らかな曲線
梅雨入りなど
そ知らぬ顔の
紫陽花が濡れ
支点が邪魔な
腰痛姿勢から
立ち直るまで
霧吹きかける
鉢植え野菜の
発芽を探せば
すり潰された
無意識の種が
鉢底から抜け
有るも無きも
過去と未来が
圧縮されたら
どうでもなく
ちょうどいい
いまここから
試合開始前の
外野席に届く
打球の擦過音
TVカメラから
聞えないけど
確かに見える
誰が言ったか
恋愛は遠距離
より近距離で
仲間に読まれ
届かなかった
恋文の虚しさ
中学校通いの
道筋で立寄る
貸本屋の棚板
お袋の読本を
借出すうちに
裏本の扉絵が
自転車と電車の
走りを比較した
海風の地図から
水槽に閉ざされ
梅雨も知らない
魚の側線が囁く
歩き疲れる前に
ヨメと乗り込む
観覧車の一巡り
輸送船の航跡に
紛れた蝶の羽が
海峡を渡ったら
傾いた無人駅を
置去り過ぎ行く
特急電車が響き
高見から眺める
水平線の彼方に
消え残る出生が
郭公の初鳴きで
幕が開いた空に
プリマドンナが
南から北に向う
硬直した姿勢を
一直線に消して
音もなく名機が
あらぬ方角から
丁寧に整備され
昆虫少年めいた
植物少年を装う
中途半端な夏の
縁側から台所へ
なぜ産んだのか
埋まらない問い
生の蔓から放つ
飛ぶ理由がない
飛行機少年の謎
雨降りが少なく
夏日も多かった
五月の庭の異変
滅多に虫喰いの
ないアジサイや
柊がぼろぼろに
蝶の幼虫なみに
偏食する昆虫を
調べ終えてから
大振りにならず
バットや木刀や
ラケットなどを
素早く動かせる
指使いで写した
跡形のない葉脈
悲しみや怒りが
透けて見えたら
御の字の撒布を
行き交う階段に
人気が少ないと
試したくなって
行抜きの散文の
隙間から登って
下りてくるまで
手足の動きなど
思いもよらない
見通しの良さに
別れの出会いが
首を振るように
待ち受けるから
やり直せなくて
ゆくえしれずの
行間でひとまず
切り上げてみて
休憩を挿み込む
気付きの踊り場
残雪の山肌から
脱けだしてきた
寄書きのひと言
庭の片隅に咲く
薔薇のひと時が
一輪挿しに届き
一角獣の鼻先に
突きつけられた
はなむけの由来
耳目に晒されて
違和が残ったら
跡形もなくなり
呼びかけが谺す
山裾に辿り着き
脱ぎ捨てられて
目先が利かずに
匂いや音だけが
動きに溶けこむ
毟ろうとして
真っ直ぐ咲き
揃った雑草に
引き抜かれた
手指の指向が
通り抜けたら
動きの一つが
知らぬままに
身体に目覚め
働きだしたら
思いもよらぬ
行いとなって
体内に満ちた
自然な作用が
転機の行動へ
先走らないで
速まるままに
為そうとせず
食荒らされた
羊の群れから
はぐれた山羊
働こうとして
動けない手に
指の形が教え
上り下りする
日常の斜面を
横切っていく
動きの葉陰に
抽象と具象が
交叉するなら
見えない管を
わかりやすく
抜けるように
竹馬から下り
立つことから
先走らぬよう
柔らかく繁った
陽射しの陰から
響いた眼差しに
面影を探したら
かくれんぼする
観覧車が回って
庭の植え込みで
時計草の記憶が
鬼ごっこに興じ
首根っこ辺りで
仕切られている
追いかけっこに
着の身着のまま
樹木を食荒らし
鳥獣の座標から
異数の界隈まで
身体を駆け巡り
腑に落ちるまで
素麺や冷奴が
美味い体調に
呼び寄せられ
予約し忘れて
発売日なのに
もう売り切れ
見えるものと
見ているもの
の位置関係が
その他大勢で
アナーキーな
ゾンビ映画に
忍び込んだら
言葉が解らず
眼華が飛散り
手当り次第に
獲物を噛砕く
座標を歩みに
幹を覆い隠して
新緑が酌み取る
井戸水で顔洗う
眠りから覚めた
エレベーターの
乗心地に騙され
恥じ入る稽古で
会心の一撃など
知らずに繰返し
6階から3階に
減った階段でも
疲れを覚えたら
脚を開き上げて
一段ずつ抜けば
百段でも半分に
上りはより良く
下りは怖くなる
一段抜き行帰り
鳴き声が響けば
水辺で絡み合う
二羽の鳥のよう
幼年の釣り糸で
山間のため池の
自画像を釣上げ
持帰りタライに
浮かべ走らせた
ポンポン蒸気船
仏壇から失敬し
短くした蝋燭が
燃え尽きるまで
周回するうちに
消えない航跡が
とぐろを巻いて
砕氷船のように
油膜を切り刻み
網目の奥へ消え
五月になっても
冷たい緑が光る
冬型の気圧配置
東西バランスが
崩れたみたいに
振り分けられて
日向と影が描く
衣替えの地図に
描き残していた
身動きならない
ルートが不意に
繋がったように
繰り返す日常の
一コマを仕切る
障子戸を透かし
くぐり抜けきた
陽射しで描いた
一筆書きの動き
さてどこへ行こう
新緑に隠れながら
樹々が腕をのばす
久しぶり自転車で
喉が渇き腹も減り
立ち寄る店を探し
無駄足走行を止め
自転車ナビに頼る
手探り足探り履歴
芽生えの始動から
若木の立ち姿まで
そよいで見え隠れ
引き抜かれた根が
枯れてしまわない
ルートが幹を巡り
収めどころを求め
ピアノ・トリオの
絶妙の一拍が過ぎ
主人を失った近所の
魚屋での買物履歴が
途絶えて数ヵ月だが
休業案内もどこかへ
昨日もシャッターが
閉ざされ音沙汰なし
就職説明会参加日に
あたる来週の授業は
休むのと学生が訊く
教務担当者に問えば
授業は予定通り行い
就活学生は欠席扱い
その旨学生に伝えた
後に担当教官が訪れ
頼むから休講扱いに
骨にそって腕を抜き
捌いてもらった魚を
味わう指の振り抜き
出戻ったような
寒さ続きで庭の
花持ちが良くて
あぶれたように
羽音もさせない
小さな虫が飛び
壁際に止まった
姿を接写すれば
脚が足りない姿
捕虫網から逃げ
筒卵からこぼれ
少年はいずこへ
バッタを怖がり
トンボを追って
少年は浜辺まで
人知れず集めた
生き物標本など
幼い日の抜け殻
緑づく街路樹の
心がけも知らず
散歩する動物心
まとわりつかれ
みはなされつつ
きがきじゃない
わかりすぎてて
なにがなんだか
よくわからない
すぎたことなど
どうでもよくて
ただひたすらに
さきのことなど
いいかげんなら
いましたいこと
あるはずもなく
何にもないから
ためすしかなく
雉の朝鳴き近く
夢見の悪さなど
蛇口へと流され
散り始めた花が
庭土深く埋もれ
植物の心を飾り
母の実家が遠く
なりはじめても
曲がった腰軽く
風呂敷いっぱい
背負ってきては
帰った婆さんを
見失いながらも
追いかけそうな
天下一品の旗印
怒りや不安から
枝葉が削がれた
冥想のひととき
肌寒い日が続き
市内の桜名所や
土手沿いの向う
丘陵地あたりも
散り際を揃えた
みたいな眺めに
いつもとは違い
庭では八重桜と
木瓜が咲き揃い
鶯や雉の鳴声も
まだ聞こえない
季節の耳元には
背伸びしすぎて
踏みしだかれた
水仙が霧を吹き
四枚目の巣網に
母の祥月命日を
浮かび上がらせ
先週末の春嵐など
忘れたかのように
持ちこたえている
母の不在を隠して
3年目の花が開き
庭の雑草も生えて
苔生すまでもなく
夫婦二人になった
家屋の見取り図に
腰を下ろしたまま
透かし見る向うを
閉ざす強風注意報
「ル・アーヴルの
靴みがき」の中で
妻が全快退院して
花開く住処に帰り
密航少年を助けた
亭主と一緒に眺め
濡れた屋根の向う
春霞をとおり抜け
燦々と輝くばかり
眠ったままの鳥や
昆虫を置き去りに
山麓の残雪が弛み
小川から用水まで
ヤングアダルトの
素足が潺々と流れ
13から19までを
なりふり構わずに
ないがしろにせず
花心を数えるより
接写するしかない
何かに八つ当たり
川面を叩いている
出逢いの鼓動から
ぶっつけ本番まで
ほころびはじめた
庭の花がそばだつ
ざわめきの彼方へ
週末の天気崩れで
滑り損なったまま
冬の名残の斜面に
箱庭のような幻の
花壇から飛立って
身構えた着地まで
投げ損なった球に
指のひっかかりが
記憶されていたか
花開くこともなく
ゲームから退いた
気付きの合わせ技
身体が弛んだまま
力みがとどかない
グリップの握りに
残夢を拭取って
梅の花が散れば
温い雨に濡れる
目覚めたような
動きでこっそり
遺影を壁に吊り
引っ張り出した
色紙をひっそり
飾り立て眺める
なりふかまわず
手を合わせても
臨死体験知らず
〈他界〉からの
人称詐欺を盗み
聞いている倫理
電話が開通した
日からネットで
繋がった世間で
庭木の枝の茂み
嘴が啄んでいる
無念が花開けば
ピントも合わず
身体を動かして
居場所が決まり
手かせ足かせで
営む家の庭から
地底と空を隔て
羽搏いてみれば
かすみ網に絡む
XYZの三脈編み
同期の三叉路に
抜け羽根を数え
距離感が途絶え
引っ繰り返れば
心身の座が浮く
三大陸を俯瞰し
日替わり空模様を
抜けきったような
朝方の青空の高さ
木の芽時を堪えて
融雪ホースを丸め
裏の雪囲いも外し
主役が歳を経ない
スポ少お別れ会が
30回あまりになり
日当たりの軒下で
そっと手を挙げる
水仙の開花を数え
中学で続ける子も
途中下車した子も
シーソーの真ん中
庭に盛り上がった
モグラ道を踏んで
もう一度やり直し
三月を吹き荒れ
寒雲を追い払う
家鳴りの居心地
昼夜がようやく
重なったような
夜明けの眼差し
ぴったり重なる
スプーンとなり
温もりを分かち
寝起きに衣替え
汚れた洗面台を
井戸水で磨けば
胸の詰まりなど
無かったような
小鳥のさえずり
啄む梅の花枝を
止り木に飛立つ
嘴が握りに見え
この頃の体調が
日替わり激しい
気象に乗り遅れ
身体を扱う技の
斜面の変化への
対応に遅れたら
ひっくり返って
下まで落ちずに
立ち上がり滑る
立ち向かうにも
逃げるにしても
座り方で違いが
後ろから襲われ
回り立ち上がり
素早く対処する
真っ向の危機に
胡座から立って
真っ直ぐ逃げる
夜来の強風で枝に
しがみつき膨らむ
梅の莟の半信半疑
まだ先は長いから
残り少ないかなの
還暦から古稀まで
週に二日のバドに
晴れればスキーを
愉しむ後期高齢の
大先輩に久しぶり
声をかけられたよ
1本滑って休んで
長らく勝手に師の
背中を追うように
ヨメと二人三脚で
行きのタクシーや
帰りのバス運転手
通行人の声に応え
しっかりスキーの
準備をした翌日が
風が強く暖か過ぎ
初サイクリングに
きつい向い風なら
バスに乗ればいい
ビル7階の書店の
フロア作業店員が
いらっしゃいませ
定年間近になって
仕事をやめてから
かれこれ十年近く
この先何冊読める
読みさし積ん読も
見慣れた部屋の声
逃げの一手が違う
正座や胡座からの
立ち居振る舞い方
夕陽照る山肌が
長靴を履かない
歩き心地を映す
10年目にようやく
場所柄が変わった
懇談会の居心地へ
教育に絡む気柄が
怖じ気づいている
グローバル化の波
切り分けるように
舳先をまっすぐに
教室の舵を操る師
シラバスなどどう
システム化しても
戸惑いの網の目に
ひっかかる雑魚の
居場所を探し求め
無用に漕ぎ還せば
寒暖めまぐるしく
吹き荒れる空から
くるくるゴミ袋が
微小粒子物質など
かき集めるように
庭先をかすめ飛ぶ
冬をやり過ごした
自転車チューブが
へたり込んだまま
しがみつくように
ジャガイモ喰らう
食卓の二人の無言
「ニーチェの馬」の
嵐がやんだ静けさが
通せんぼをして響き
涸れ果てた井戸に
蒸かせず焼き芋へ
火種も尽きた闇が
2月末のゲレンデと
下界の積雪の違いを
見事に映す空の青さ
県内のスキー場など
ダサくて滑られない
若者たちに混じって
見上げた空の乱れに
降り積っては消えた
ダイヤモンドダスト
中高年スキーヤーが
閑古鳥となって滑る
地元スキー場の老化
足枷のようにハマる
窮屈さから自在へと
抜け出るための型を
見よう見まねで試し
古稀近くまで滑って
届かぬシーズン400km
システム更新した
PCで送られてきた
ファイルが扱えず
まだ行っていない
数ヵ月先に予定の
旅の記録を捏造し
オープンソフトで
新規シラバス用の
入力作業を済ませ
師弟のかかわりも
余白に書込めない
授業の契約なんて
計らわず出かけて
生後数ヵ月足らず
赤子の瞳に出逢い
明かされた名前で
生き抜く術となる
学ぶ力を問いかけ
厚着をして行く
寒空の体育館で
汗ばんで帰れば
寒夜の停電での
囲炉裏で燃えた
薪の炎が懐かし
凍結しはじめた
歩道で滑ったら
汗も引っ込んで
風呂場をガスで
暖めシャワーの
熱気が汗の名残
いまここにある
何かと居合わせ
つかの間安らぎ
八幡宮の裏山で
ムササビらしい
獣が木を伝った
雪が少なく雨が
降る2月の気は
どこか乱れがち
見よう見まねの
整体の真似事に
役立つ“みち山”
冷えた指先から
三脈に触れたら
温もりに掴まり
里山を仲立ちに
田舎の暮らしを
働かせた道具類
色んな鎌や鍬や
畑道具のほかに
形の違う鉈や斧
なけなしの田や
畑ともども母は
売り払ってきた
2月の空と大地の
おし問答みたいな
消え物のやりとり
娘が生まれた日は
さっぱり雪がなく
バスで産院に向い
まさかにまとわれ
きれぎれにつなぐ
日常化の橋の半ば
見よう見まねでも
ほんとうを目指す
九十九里が道半ば
不惑を迎えた娘の
テーブルに運んだ
ヨメの手料理など
食べてくれるだけ
いまここにあって
それだけにつきる
洗いたてのジーンズの
ポケットからゴミ屑を
つまみ出すような雪が
受験目前の子供らや
卒業を控えた学生の
足音が響かないよう
こっそりと積もった
眩しさを際立たせる
氏名のないレポート
どの学生が書いたか
顔と名前がはっきり
しなくても筆跡判定
力余ってラケットで
床を叩きそうな子に
力むなよと言ったら
力を抜いて打とうと
する力をはたらかせ
気をつかって失う機
かって赤谷尾根から
蔦や蔓草を切り払い
藪漕ぎをして下りた
ちょっと捨て鉢だが
2年毎に入れ替わる
教室通いも10年過ぎ
送ってくれた課題に
労いとお礼の言葉が
挿まれた便箋の図柄
内気な山羊男なのに
働きながらスポ少の
コーチを30年以上も
場に臨み続けるほど
先入観や思い込みや
準備するむなしさが
切れ味が鈍いようで
握りしめれば一緒に
迷った山仲間の面影
山肌を縦横に走る
兎の足跡のような
駆け込み初滑りへ
冠雪した田んぼと
畑地を選り分けて
群がる鴉の無関心
凍った桜並木から
立ち上がってくる
朝もやの向うへと
一目散に迂回路を
タクシーで抜けた
海抜メーターの針
料理の三角形から
運動の有り様まで
噛み砕いてみれば
競技用の練習から
スキー実習用まで
色分けられた斜面
1月も終わり近く
ゲレンデへと誘う
日和の当たり外れ
登攀状況に合わせ
履き替えた靴底と
岩肌を探る素手で
酒が弱くなったり
喫煙を忘れ果てた
体力の心もとなさ
登りはじめてから
頂きに近づきつつ
過ぎれば折り返し
五体の扱い方から
使い方に気づいた
道具の往路と帰路
抜いた刀を納める
鞘を感知して動く
クライマールート
後期の授業を終え
キャンパスを後に
軽量防寒ブーツの
履き心地の良さが
課題やレポートで
膨らんだバッグを
場を主宰しにくい
教室の名残が包む
一夜明けた吹雪に
かき消されたまま
辿れぬ10年が過ぎ
力みすぎの子らと
学力をもてあます
学生らにはさまれ
打ち合わせられる
両の手が響くよう
過ぎ行く出会いに
一期一会の挨拶を
降り込む一月の雨に
年が明けたことなど
忘れてしまいそうに
積もれば積もるほど
軽くなる雪のような
新年はいつ始まるか
苦節などあり得ない
伸び悩んだ樹木から
切り出された橋の袂
同調性がはりつめた
氷原を渡りきれない
亀裂の息吹が途切れ
10年も待てないのに
行き過ぎた結末など
操り人形の稽古不足
ドミノ倒しのように
体感を全開に濃霧の
新雪斜面に突っ込む
掃除ロボットなら
人力が培う細かな
身動きを奪うだけ
寒中水泳代わりに
畳の上の水練でも
やらないよりいい
自明の理の雪玉が
現場に転がったら
立ち位置で消えて
思い出せないまま
忘れられた宿題に
出し遅れた答えが
信号無視するしか
渡れない途上では
行きも帰りもなく
ささらを鳴らして
響きに割り込ませ
整え動く関節捌き
予報官がちょっと
読み違えたような
関東圏の降雪でも
マスコミは大騒ぎ
歩き慣れない雪道で
滑って転んだときも
「体罰」とみなして
痛みをやり過ごすか
どうにか掴まり歩く
おふくろが洋室から
和室への段差の行き
帰りで見せた達成感
使い古びてしまった
耐寒ブーツや帽子や
鞄など買い替え時が
風雪で痛んだ家屋の
メンテナンスのよう
老いゆく身体動作で
気づいた操法ほどに
新調して使い心地が
リセットされるなら
人通りのない
凍った雪道で
血と見間違う
潰れた熟し柿
受身過ぎない
雪かき仕事が
焼け石に水の
蛇口を飲干す
後期高齢者向け
リフト券無料が
無駄になってる
山麓のあたりに
まだ見つからぬ
遭難救助に飛ぶ
ヘリコプターの
回転翼の残響が
滑って転ける前に
雪下駄は別として
藁沓やゴム長から
南極仕様の長靴まで
和式便所の座り心地
持ち運んだ杵も
蒸篭も処分して
裏返された臼が
テーブル代わり
寒さもひときわ
着古した正月の
迷妄の抜き手で
泳ぎだす夢見に
遠のく想像の海
福袋から飲干す
ワインの響きに
身体をあずけた
細胞が聴き取る
フォワードこそ
噛む力とすれば
バックスが舌だ
なんて誰が言う
及び腰の知識を
拭取る直感力が
桁外れな宛先へ
搗きたての便り
煤払いや大掃除は
ほどほどに落語や
ボクシング中継を
見届けて夜廻りへ
となりの町内から
移ってきたという
住人から受取った
拍子木が雪に濡れ
手に力を残さずに
打ち合わせるだけ
狭い町内にとどく
日頃の面識のなさ
「一命」の竹光が
「さや侍」の腰で
抜き身そのものに
振り出し方を求め
行きっ放しめいて
収めどころを探す
ブーメランの日々