はじめに

 マルクスの『賃労働と資本』(Lohnarbeit und Kapital)は『新ライン新聞』(Neue Rheinische Zeitung)1849年4月5日、6日、7日、8日および11日付、第264号、第265号、第266号、第267号および269号において、一連の論説として発表された。その基礎となったのはマルクスが1847年11月にブリュッセルのドイツ人労働者協会で、労働者大衆のためにおこなった経済学の講演であった。
 論稿そのものは1848年2月に書き下ろされたが、その印刷は、マルクスが『経済学批判』(1859年)の序言でのべているように、2月革命とその結果生じたマルクスのベルギーからの追放によって妨げられた。
 マルクスは1849年4月になってやっとこれを、彼が編集主筆をしていた『新ライン新聞』紙上で公にしたのであるが、印刷上では未刊に終った。その後この論文は、一冊のパンフレットになって、いくつかの種類の版で公刊されたが、1891年、新版を発行したさい、エンゲルスは新しい序文を付し、内容に相当な訂正を加えた。今日まで各国語に訳されて広く流布している『賃労働と資本』は、この1891年にベルリンで刊行されたエンゲルスの訂正版である。
 邦訳書も戦前戦後を通じて数多く出版されているが、1960年代半ばに書誌的事項を確認できたものについて、「日本語版『賃労働と資本』に関する一考察ーー解題を中心にしてーー」(『光夕』第6号、富山大学経営短大学友会、1967年)および「続・日本語版『賃労働と資本』(マルクス)に関する一考察」(『光夕』第7号、富山大学経営短大学友会、1968年)と題してレポートしたことがあった。河上肇の訳本については、天野敬太郎氏の河上肇著作目録(経済学の部)(『河上肇著作集』第2巻、筑摩書房、1964年、所収)を参照した記憶がある。
 それから十数年経って、疑いもなく本邦初訳と思い込んでいた河上肇訳に先立つ笹原訳の『賃労働と資本』が発見された経緯を、恩師から知らせていただいていたのだが、すっかりレポート改訂作業を失念してしまっていた。
 どうにか保存してあった二つの拙文のコピーから、日本語版『賃労働と資本』(マルクス)の書誌解題部分を抜き出し、新たに笹原初訳掲載雑誌と、その全文を掲載した『カール・マルクス著 笹原潮風訳『賃銀労働および資本』について』の書誌事項を加え、ようやく一本にまとめることができた。
 ここまでの長い時の経過にひきかえ、改訂作業は最小限の範囲にとどめ、新たに確認できた邦訳書の書誌事項を「邦訳書誌補遺」として集めた[2012年11月2件追加]が、いずれもOPACで調べただけで、いまのところ現物確認ができていないものもある。(2004年5月 吉田惠吉)

 更新注記:邦訳書誌一覧および解題に、「森田成也訳.賃労働と資本/賃金・価格・利潤.2014」を追加掲載しました。(2014年6月2日)

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邦訳書誌解題

  • 笹原潮風訳.賃銀労働及び資本(一).木鐸.3(5),1909(明治42年3月15日),p.19ー24.
  • 笹原潮風訳.賃銀労働及び資本(二).木鐸.3(6),1909(明治42年4月15日),p.18ー22.
  • 笹原潮風訳.賃銀労働及び資本(三).木鐸.3(7),1909(明治42年5月15日),p.15ー19.
  • 笹原潮風訳.賃銀労働及び資本(四).木鐸.3(8/9),1909(明治42年7月15日),p.31ー35.
  • 笹原潮風訳.賃銀労働及び資本(五).木鐸.3(10/11),1909(明治42年9月15日),p.16ー19.
  • 笹原潮風訳.賃銀労働及び資本(承前).木鐸.3(12)/4(1),1909(明治42年10/11月15日),p.22ー25.
  • 笹原潮風訳.賃銀労働及び資本(承前).木鐸.4(2),1909(明治42年12月25日),p.16ー18.
  •  マルクスの演説の前置の部分を除き、本題の「賃銀は何であるか、叉如何にして定めらるゝものなるか」〔原文下線部傍点あり=筆者注〕以降の全訳を、雑誌の「學藝」見出しのもとに分載したもので、解題もなく、底本は不明。
     読みはじめれば、声調もよく、訳文が達意の表現となっている。
     現在では「商品」と訳されている箇所が、すべて「貨物」と訳されていたり、「労働力」とすべきところを「労力」あるいは「仕事」というように使い分けていて、労働と労働力の区別に工夫を凝らしている。

  • 河上肇訳.労働と資本.[初訳].京都,弘文堂書房,1919(大正8年)4月,22cm(本の縦の長さを示す。以下同様)序言,本文48p,(社会問題研究第4冊).
  •  序言によれば、「本書はマルクスの小著Lohnarbeit und Kapital(賃傭労働と資本)を翻訳せしものにて、題名は呼称の便宜に従って『労働と資本』と為す。(中略)訳文中、原文と言へるはエンゲルスの修正本を指し、英訳本と言へるはロースロープの訳本を指す」とある。目次は、一訳者序言 二労賃とは何ぞや 三貨物の価格は如何にして定まるか(以下九まで)となっている。

  • 河上肇訳.賃労働と資本 労賃、価格及び利潤.[改訳].京都,弘文堂書房,1921(大正10年)12月,19cm,マルクス肖像1枚,目次3頁,序言,本文183p(うち、序言33p),1円20銭.
  •  序言に「私は1箇年あまり前に、『社会問題研究』の第4冊としてマルクスのLohnarbeit und Kapitalの翻訳を公にしたことがあるが、今その全文を書き改め重ねて之を世に公にする。カウツキー新版本(1907年初刊)の1919年版を底本として用いた」と記してある。目次は、改訳序言 旧訳序言 労賃とは何か?如何にして其れは決定せられるか? 商品の価格は如何にして決定せらるるか? となっている。なお、改訳序言は「改訳『賃労働と資本』を公にするに際し福田博士に答ふ」(「社会問題研究」大正10年12月第28冊)とほとんど同文である。

  • 堺利彦訳.労働と資本.東京,無産社,1922(大正11年),43p.(無産者パンフレット;2).
  •  〔備考〕国立国会図書館参考書誌部へ依頼したレファレンスに対する回答によれば、堺・岡田訳『社会思想全集』第六巻、平凡社、1928(昭和3年)発行の「訳者あとがき」で堺利彦が「私は数年前『無産者パンフレット』として『賃銀労働と資本』を出している」といい、「前のパンフレットには、エンゲルスの序文が省いてあるし、本文も極めて読みやすく、分りやすくする為、所々省略した点もあり、・・・」といっている、ということである。未見。その後、Webcat Plus(国立情報学研究所)で書誌事項を調べたところ、同志社大学 総合情報センターの所蔵が確認された。

  • 河上肇訳.賃労働と資本.[新版].京都:弘文堂書房,1924(大正13年)8月,19cm,目次1p 序言 例言 本文102p(うち、序言32p),70銭.
  •  「仮名づかひなどこそ各頁に亙って至るところ修正したけれども、内容について訳文を改めたところは極く僅かである」と序言に書かれている。目次は、新版序言(大正13年) 改訳序言(大正10年) 旧訳序言(大正8年) 訳文例言 労賃とは何か?如何にして其れは決定せらるるか? 商品の価格は如何にして決定せらるるか? となっている。背にはKarl Marx:Lohnarbeit und Kapitalとある。

  • 河上肇訳.賃労働と資本.[改版].京都:弘文堂書房,1925(大正14年)9月,19cm,目次1p 序言 例言 本文76p,55銭.(藤原壮介氏蔵)
  •  前版との差異について、「前版に付したる自分の序文32頁分を削除したこと、その代り新たにマルクス自身の前置を訳して、これを巻頭に加へ、原著の首尾を完うしたこと、若干の注釈を追加したこと等に止まる」と訳者序言に記されている。目次は、訳者序言 訳文例言 緒言 労賃とは何であるか?其れは如何にして決定せらるるか? 商品の価格は如何にして決定せらるるか? である。なお、背にはKarl Marx:Lohnarbeit und Kapitalとある。
     この訳文は、エンゲルスの訂正を考証したはずのカウツキー版を底本としたものであって、エンゲルスの挿入した文字を〔〕内に入れて示し、エンゲルスによる改訂文は脚註に示している。ところが訂正箇所を1891年版との異同を註記した訳本(後述の長洲一二訳、宮本義男・山中隆次訳)のものと比較してみると、かなりの数の相違がある。長谷部文雄氏が「カウツキー版および川上博士の訳文、この両者はほぼ一致している」とのべていることを考慮すればカウツキー版のエンゲルスによる修正の考証に不備があったと思われる。
     本翻訳書には、エンゲルスの序文が収録されていない。また訳者による解説もない。しかし訳者註からは、河上肇が「労働」と「労働力」、「資本」そして『賃労働と資本』の理論のその後の発展ーー『資本論』との結びつきーー等に注意を、はらっている態度がうかがえる。28頁に「生産費による価格の決定は商品の生産に必要とせらるる労働時間による価格の決定に等しい」とあるのにたいして、「この考えは、『資本論』にては勿論、『労賃、価格および利潤』にても、改められてある。商品の生産に必要とせらるる労働の分量または労働時間は、広く社会全体の見地からみた生産費であって、資本家の立場からみた生産費とは、その内容を異にするのである」と註をほどこし、また、37頁においてマルクスが「それなら何うして商品の一定量、交換価値の一定量は、資本となるのか?それは、此等のものが独立した社会のとして、即ち社会の一部分の力として、直接の生きた労働〔力〕に対する交換によりそれ自らを維持し且つ増加する、といふことによってだ。労働能力以外には何者をも有たないひとつの階級が存在することが、欠くべからざる資本の前提である」〔原文下線部傍点あり=筆者注〕とのべているのには、「マルクスが茲にいふ資本は、彼が後に『資本論』において産業資本(生産資本)といへるもののことである。商業資本および高利貸資本(即ち謂ゆる「大洪水以前の姿」における資本)は、無産階級の発生に先立つ遥か以前において、成立していたものである」と、河上の論稿『マルクス説における資本の起源』(『経済論争』第18卷第2号所載)からの引用文を示している。

  • 河上肇訳.賃労働と資本.京都:弘文堂書房,1927(昭和2年)2月,19cm,目次1頁 訳者例言 序 本文(通し頁)89p.(マルキシズム叢書第7冊).55銭.
  •  訳者例言によると、「いま『マルキシズム叢書』の第7冊として茲に刊行するものは、最初から算へて第5回に当る。この版本においては、新たにエンゲルスの序文を補うた。この序文は、初め古賀三男氏の訳出されたものを、藤井栄三氏が訂正補筆され、更にそれを私が訂正したものである。」
     目次は、訳者例言 序(エンゲルス) 緒言 労賃とは何であるか?(以下前項と同じ)となっている。

  • 河上肇訳.賃労働と資本.京都,岩波書店,1927(昭和2年)10月,15cm,訳者例言 序 本文(通し頁)93p.(岩波文庫90).20銭.
  •  訳者例言には、「茲に第6回目の版本として『岩波文庫』に収むるのは、『マルキシズム叢書』におけるものと、殆ど全くその内容を同じようにする」とある。
     目次は前項と同じ。

  • 安倍浩訳.“賃銀労働及び資本”.世界大思想全集.第30卷.東京,春秋社,1928(昭和3年)1月,p.285-316,20cm.非売品.(藤原壮介氏蔵)
  •  不正確、不完全な翻訳である。エンゲルスの補訂版によるものでもなく、また、完全な原テキストによるものでもなく、曖昧な訳文である。どちらかといえば原形に近いといえるであろう。1891年版との異同が註記されている訳文と比較してみると、8箇所ほどエンゲルスの修正を採用したであろうと推定される。その殆どはエンゲルスが修正の主眼をおいたとはおもわれない箇所であった。その他に誤植(訳?)数箇所、翻訳における原文の脱漏とおもわれる部分があった(これらの欠陥は、理論的に重要な部分にはないのでいちいち指摘しない)。
     エンゲルスの序文もなく、註や解説もない。底本に関することは不明である。

  • 堺利彦,岡田宗司訳.“賃銀労働と資本”.社会思想全集.第6卷.東京,平凡社,1928(昭和3年)6月,(掲載頁未確認),20cm.(国立国会図書館蔵)
  •  国立国会図書館参考書誌部へ依頼したレファレンスに対する回答によるもので、部分訳であるということの他はすべて不明。その後、Webcat Plus(国立情報学研究所)で書誌事項を調べたところ、大学図書26館の所蔵が確認された。

  • 堺利彦訳.“賃金労働と資本”.マルクス=エンゲルス全集.第4巻.東京,改造社,1928(昭和3年),p.659-697,20cm.(富山大学附属図書館蔵 請求記号308-M36-4)
  •  『賃金労働と資本』目次は、序言(エンゲルス)、本文(労賃とは何か、それはどうして決定されるか 商品の価格はどうしてけっていされるか 以下8つの小見出し)となっている。エンゲルスの附加した文字には〔〕のしるし〔下線部傍点=筆者注〕がつけてある。エンゲルスが変更を加えた部分に対しては、それの註にマルクスの原文が記してある。他の訳者註では、〔力〕の附加があるべきとおもわれる箇所、問題となる訳語の原語の指摘等がなされている。
     底本に関する説明はないが、訳者註において、カウツキーの註を紹介し、それに就いての、河上肇の註を補ったり、貨幣呼称がフラン、サンチームとなっていたり、おそらくカウツキー版に拠るものであろう。

  • 白谷忠三訳.“賃銀労働と資本”.マルクス・エンゲルス二巻選集.第1.東京,ナウカ社,1933(昭和8年),p.205-253,23cm.1円50銭.〔普及版 昭和10年4月〕(富山大学附属図書館蔵 普及版 請求記号3301-10)
  •  巻末の註解に、「邦訳の台本はドウンケル版、すなわちElementarbucher des Kommunismus, Band 2, Karl Marx, Lohnarbeit und Kapital, 2 Auflage, Berlin 1927で、カウツキー版をも参照した」と記してある。「F・エンゲルスの序文」に関する註解のひとつに注意すべきものがある。「マルクスの原文のままのものは、今日マルクス・エンゲルス・レーニン研究書編纂の『マルクス・エンゲルス全集』、第1部、第6巻に収められ、なお早くから(1919年初版)レクラム版に収められていた。従来の日本訳(河上、堺)では、カウツキー版に倣ってエンゲルス訂正の個所が〔〕で示されている」。この選集に収録の白谷訳においては、そのようにエンゲルスの訂正を示すものはまったくない。本文に関する註解も「階級闘争」について記されたものがひとつあるのみである。
     本文中の小見出しは、賃銀とはなにか?それは如何にして決定されるか? 何によって商品の価格は決定されるか? のふたつである。なお、前書きにあたる部分の「革命的」、「プロレタリア革命」の2語が伏字になっている。本選集は、マルクス・エンゲルス・レーニン研究所の編集による50年祭記念出版『カール・マルクス二巻選集』(ロシア語版)を、各所収著作の原語によって翻訳したものである。アドラツキーはその序文の中で「経済理論に献げられたマルクスの著作からは、彼が1847年ブリュッセルの労働者クラブで朗読した講義、ーー『賃労働と資本』、および第1インターナショナル総務委員会における彼の報告ーー『賃銀、価格および利潤』が与えられている。これらの両著作は通俗的解説の模範であり、それらは、『資本論』ーー科学的社会主義の主著において、その完全な発展と基礎づけとが与えられているところの、マルクスの経済的理論の本質への手引きである」と書いている。

  • 長谷部文雄訳.賃労働と資本.東京,岩波書店,1935(昭和10年)6月,15cm,訳者例言 序言(エンゲルス) 本文、附録手稿『労賃』からの抜粋. (岩波文庫90).
  •  訳者例言において、『賃労働と資本』のカウツキー版とインスティテュート版との比較がなされている。
     「この訳書は、Karl Marx: Lohnarbeit und Kapital(マルクス・エンゲルス・レーニン研究所、1934年版)を底本とし、従来のカウツキー版、J. L. Joynesの英訳版、等を参考とした。なかんずく河上肇博士の訳文に負うところが多い。ここに明記して感謝の意を表する。」
     「このインスティテュート版は1891年のエンゲルスの訂正版に拠り、それをさらに、『新ライン新聞』に載せられたマルクスの原文と比較校訂したもののようである。しかるにこの書を、エンゲルスの訂正を考証したはずのカウツキー版(1922年)および河上博士訳文(この両者はほぼ一致している)と比較して見ると、かなり多数の相違が発見される。たとえば本書では、『労働力』とすべきところが『労働』のままで置かれたところは極めて少数であり、『ブルジョア』は多くは『資本家』とされており、フランスの貨幣呼称(フラン、サンチーム)がすべてドイツのそれ(マルク、ペニヒ)と置換えられており、また行の改め方も数ヶ所相違している。私はいま、1891年のエンゲルス版を参照する便宜をもたないので、ーーまたさしあたり大きな重要性をもたないように思えるのでーーその考証はいっさいさしひかえた。ただその他の、理論的な内容において意味をもつ相違点は、すべて訳註を付して明かにしたつもりである。」
     この版の附録に収められたマルクスの手稿『労賃』について、「1849年の論文の続きの原稿はーーエンゲルスが前書きに書いているようにーー事実上発見されなかった、労賃にかんする手稿が発見されたのであって、これは、疑いもなく1847年の講義の基礎であり、内容上『賃労働と資本』と部分的には一致しており、部分的にはこれと関連している。吾々は、その最も重要な2節をこの版の附録に採りいれた」と、その収録理由が序言(マルクス・エンゲルス・レーニン研究所)の中でなされている。その重要な2節というのは、「賃銀制度のブルジョア的『改良』案」、すなわちその荒廃化的緒結果のブルジョア的『救済』案」を取扱っている第6節、および「労働組合の役割」を取扱っている第7節である。

  • 堺利彦訳.賃労働と資本.東京,彰考書院,1946(昭和21年),19cm,52p.(解放文庫第3).(国立国会図書館蔵 請求記号331.34ーMa59ー9gウ)
  •  国立国会図書館蔵書目録による。未見。底本、不明。国立国会図書館参考書誌部へ依頼したレファレンスに対する回答によれば、「この訳書は啓蒙的なパンフレット『解放文庫』の一冊として出されているため、訳者のあとがき、まえがきのたぐいが何も」なく、前出の堺訳復刻版か否か確かめ得なかった。

  • 〔ナウカ社〕.賃銀労働と資本.3版.東京,ナウカ社,1948(昭和23年)(初版昭和21年),19cm.エンゲルスの序文 賃銀とは何か?それは如何にして決定されるか? 何によって商品の価格は決定されるか?(通し頁)48p.(ナウカ社版テキスト全書).3円. (国立国会図書館蔵 請求記号331.34ーcM39t)
  •  底本はドゥンケル版、すなわちElementarbucher des Kommunisumus, Band2. Karl Marx, Lohnarbeit und Kapital, 2Auflage, Berlin, 1927. カウツキー版を参照。
     エンゲルスの修正箇所の指摘はなく、解説もない。

  • マルクス・レーニン主義研究所訳.賃労働と資本 労賃、価格および利潤.東京,改造社,1948(昭和23年),19cm.マルクス・レーニン主義叢書の刊行に際して 訳者例言 目次 賃労働と資本(1933年6月18日付マルクス・エンゲルス・レーニン研究所序文、エンゲルス序文をはじめにおく) 労賃、価格および利潤 附録(1インターナショナル労働者同盟の決議、2マルクスの手稿『労賃』) あとがき (通し頁)216p.(改造選書).100円. (筆者蔵)
  •  底本はKarl Marx: Lohnarbeit und Kapital(マルクス・エンゲルス・レーニン研究所、1934年版)、カウツキー版、ジョインズの英訳版等を参照、訳出には宮川実があたっている。
     労賃とは何であるか?それは如何にして決定されるか?、商品の価格は何によって決定されるか?、と見出しが付されてある。エンゲルスの修正箇所は明確に識別できず。附録の『労賃』はその第六・七節のみ。

  • 宮川実訳.賃労働と資本.東京,研進社,1948(昭和23年),19cm.82p.(研進社對訳版第6). (国立国会図書館蔵 請求記号366ー82)
  •  底本、不明。
     英文(32頁)日本文(50頁)対訳、エンゲルス序文なし、訳者序文(1頁)あり。労働(力)として力は丸括弧の中に、日本文中( )内に訳者註あり、インスティテュート版との字句の相違が示されている。英文に註なし。

  • 迫間真治郎訳註.賃労働と資本.東京,社会書房,1948(昭和23年),19cm.訳者序 本文 前書き(エンゲルス) (通し頁)96p.35円. (国立国会図書館所蔵 請求記号366ー81)
  •  底本はドウンケル版、それにジョインズの英訳本、長谷部、堺両氏の邦訳をも参照。
     わかりやすくするためにかなりの訳註がほどこされている。93〜96頁にわたってマルクス小伝あり。

  • 廣野利鎌訳.賃労働と資本.東京,大学書林,1950(昭和25年),19cm.独文併記、附エンゲルス序文 139p.(Die Modernen Essays und Aufsatze Heft 2).90円.(国立国会図書館蔵 請求記号366ー399)
  •  底本、Elementarbucher des Kommunismus 第2冊 Hermann Dunker編 Karl Marx, Lohnarbeit und Kapital 第5版(1931年)。
     表題紙にはLohnarbeit und Kapitalとあり、本文は日独対訳の形式になっている。訳註多く、解説、目次ともになし。

  • 宮川実訳.賃労働と資本 賃金・価格および利潤.東京,新興出版社,1950(昭和25年),258p.19cm. (国立国会図書館蔵 請求記号331.34ーcM39t4ーMs)
  •  国立国会図書館蔵書目録による、未見。

  • 遠田吉五郎訳.賃労働と資本 附録 労賃.東京,彰考書院新社,1950(昭和25年),19cm.訳者の言葉 カウツキーの前書き エンゲルスの緒言 賃労働と資本 最近発見されたマルクスの労賃にかんする文献(リアザノフ) 労賃(通し頁)136p.60円.(国立国会図書館蔵 請求記号331.34ーcM39tーT)
  •  底本については、1921年にベルリンで発行されたカウツキー版を底本とし、英訳に翻訳などをすべて参考にした。『労賃』は、1925年に、ドイツ語の雑誌『マルキシズムの旗の下に』第1巻第1号にリアザノフが発表した“Neue Arbeit von Marx ueber den Arbeitslohn”によって、訳者が昭和3年に訳したものに若干の加筆をしたものである。
     マルクス経済学の入門書、普及書たる『賃労働と資本』に対する、マルクス研究の要求と普及宣伝のそれとを結びつけようとした意図を明確に感じさせる、貴重な訳本である。
     カウツキーの「発行者の前書」は、エンゲルス版についての注意点を示している。以下その要旨を述べる。
     プロパガンダの点では、エンゲルス版がまさっているわけであるが、エンゲルスの原本は、『新ライン新聞』ではなくて、1884年の単行本(チューリッヒで出た)であった。エンゲルスは、後の版でふたたび、変更されないままの原文を印刷するつもりであったのである。事実、原文はエンゲルスが思っていたほど流布していず、また流布本も、例えば1880年の分冊(ブレスラウで出た)のように、多くの点で原文とは違っていた。〔これらのカウツキーの証言は、河上博士の改訳『賃労働と資本』の「改訳序言(大正10年11月)に収録されている福田博士の「マルクスの真本と河上博士の原文」中に、すでに紹介されている。〕このように、1891年版でのエンゲルスの企ては、予想どおりいかなかったので、それだけにいっそう元の原文の出版が待望されていたわけである。カウツキーの〔 〕や脚註の指示は、マルクス思想が1849年にまだフランス思想の支配下にあったことを物語る、他面これにおいてその後の発展が、その思想にいかに多くの厳密さと明晰さをとり入れているかを、知るためのものであり、このカウツキー版は、前の版がすでに果たしてきた役目を、いっそうよく受け継いでゆこうとしたものであった。
     リアザノフの論稿は、『労賃』を章別に『賃労働と資本』と結びつけて考察し、内容的に両者の関係について検討を加えている。
     『労賃』第6章でマルクスが、マルサス学説の詳細な検討に関連して第1章の生産力の増大と労賃に与える影響の問題にまいもどっていることは、『資本論』第1巻「資本の蓄積過程」篇の第21、22および23章の最初の計画と関係があると指摘した後、「したがって、それは、マルクスがすでに1847年に概括していた多くの命題について正確な用語で、欠点のないいいあらわし方を見出すまでには、なお多くの研究をつまねばならなかったということを示している。マルクスは、リカード、バートン、シスモンディ、シェルビュリェから、これらの批判に必要な要素を取りだしてはいるが、それにもかかわらず、まだ古い用語から解放されておらず、それらの用語を用いて、一つの新しい体系に改造するというところまでには至っていない」、と述べ、それだからこそ「わたしたちが公表するこの手稿は、経済学説の領域でのマルクスの見解の発展を研究する上に非常に重要な意味をもつ」、と強調している。第8章及び講演においては、賃労働の積極面、社会関係及び生産関係に関するこの新しい言い方の歴史的意義を取扱おうとしたマルクスの態度をとりあげ、『共産党宣言』への引用箇所についても言及している。なお、ここでリアザノフのいう「新しい言い方」の意味であるが、これはマルクスが賃労働の質的側面を社会関係および生産関係にてらして多角的に、忘れられたプロレタリアートの一面として抽出したことをさしているのであろう。その他、リカード、エード、カーライル等を、労働者階級の状態の特質ーー労賃の規定ならびにその変動ーーの叙述に引用していることや、また、ボーリングの1835年下院での演説・機械の影響をはじめ、二・三の事実・命題をマルクスが自由貿易に関する演説に利用していることも示し、マルクスが誰に何を負うかを見せてくれるのが『労賃』である、としてリアザノフの論稿は終っている。

  • 宮川実訳・解説.全訳解説 賃労働と資本 賃金・価格および利潤.東京,青木書店,1952(昭和27年)8月.15cm.凡例 目次 賃労働と資本(序文・エンゲルスの序文・本文) 賃金・価格および利潤 附録(第1インターナショナルの決議・第1インターナショナルの政治行動に関する決議・マルクスの手稿『賃金』第6〜7節) 解説(通し頁)207p.100円.(青木文庫) (富山大学附属図書館蔵 請求記号331.34ーM36ーCh)
  •  凡例にあるように、この訳書のうち『賃労働と資本』は、1934年にマルクス・エンゲルス・レーニン研究所から出版されたドイツ語版単行本を底本とし、同研究所版マルクス・エンゲルス二巻選集英語版を参照して訳出されたものである。本文中にも註にもエンゲルスの補筆訂正は明示されていない。理解を容易にするために訳者が挿入した語が本文中〔 〕にいれられてある。マルクス・エンゲルス・レーニン研究所の編集者の註のほかに、かなり多くの訳者の付した註がある。解説は、「労働学校や研究会でこのふたつのすぐれた入門書をテキストとして用いた場合にしばしば問題とされる諸点について、これらの書物が出版されたとき以後、マルクスとレーニンとが展開した理論を紹介したものである。経済闘争と政治闘争との関連についてとくに多くのページをついやしたのは、わが国のプロレタリアートの運動にとって、いまこの問題がとくに重要だと考えたからである。」訳文の平易さという点で本書はすぐれている。
     解説は30頁におよぶものである。マルクスは『賃労働と資本』中で価値の実体について立ちいった説明をしていない。そこで、1「社会的労働」のより立ちいった説明として、人間はつねに何らかの仕方でお互いのために労働しあっている。そのため労働は、いかなる社会においてもつねにある社会的性格をもっており、社会的労働である。しかし商品生産社会以外の緒社会では、労働の具体的形態がそのままでその社会的形態であった。資本主義社会では、具体的有用労働の社会的役割は、具体的有用労働そのものによって直接果たされるのではなく、労働の抽象的人間労働たる性格を媒介として、果たされるのである。だから価値の実体をなす労働は、たんに社会的労働であるというのではなく、特殊的に社会的な労働、抽象的な労働である。訳者はそのような補充をしている。2「価値と生産価格との関係」では、「単純商品生産のもとでは、市場価格の動揺の中心をなすものは価値である。しかし資本制的生産の支配する社会では、市場価格の動揺の中心をなすものは、価値ではなく生産価格である」という命題についてのマルクスの『資本論』第3巻第2篇におけるくわしい説明がわかりやすくのべられている。以下、解説は、3「労働力の価値のより立ちいった説明」4「一般的危機のもとにおける賃金」5「経済闘争と政治闘争との関連」と続いている。

  • 松本惣一郎訳.賃労働と資本 賃金、価格および利潤 他三篇.東京,国民文庫社,1953(昭和28年)2月,15cm.凡例 目次 賃労働と資本(エンゲルスの序文、本文1〜5) 労賃 保護関税と自由貿易 自由貿易問題に関する演説 賃金、価格および利潤 解説(通し頁)239p. 人名訳註 事項訳註(通し頁)13p.90円.(国民文庫3).(藤原壮介氏蔵)
  •  凡例によれば、「本訳書はマルクス=エンゲルス=レーニン研究所編『国際版マルクス=エンゲルス全集』および『マルクス=エンゲルス二巻選集』を底本として訳出した。ただし、『保護関税と自由貿易』は、同全集および選集に未収のため、1888年版『自由貿易問題に関する演説』(ボストン)所収の同論文を使用した」とある。
     本文中にエンゲルスの補筆訂正は示してない。平易な訳文に翻訳されている。
     国民文庫編集委員会は、解説冒頭で、「本書はマルクスがおもに労働者をめあてとして経済理論をわかりやすく説明するために書かれた有名なふたつの小冊子を中心として編成した。『自由貿易問題』は『経済学批判』序言でもいっているとおり、マルクスの『経済学批判』の完成の途上で、やはり重要な位置をしめるから、ここに収録した」と説明している。『自由貿易か保護関税かの問題』は、『山林盗伐の問題』と同じく、『ライン新聞』時代、マルクスに経済学研究をせまった時事問題で、ともに、ドイツの産業資本が一方で先進国イギリスと他方で封建的土地所有と対立しながら成長しつつあることの表現であった。
     エンゲルスの序文『保護関税と自由貿易』は、1880年代のアメリカで、保護関税に対する態度を決めなければならないとき、彼が保護関税についてのべた意見で、この当時帝国主義への転換がようやくはじまったばかりであった。

  • マルクス=レーニン主義研究所訳.“賃労働と資本”.マルクス=エンゲルス二巻選集.第1巻.東京,大月書店,1953(昭和28年)2月,p.52-79.22cm.680円. (富山大学附属図書館蔵 請求記号308-M36-1)
  •  凡例に、「本訳書は、ソ同盟共産党(ボ)中央委員会付属マルクス=エンゲルス=レーニン研究所編『マルクス=エンゲルス二巻選集』にもとづき、各論文ごとにそれぞれ、もっとも信頼すべきテキストを底本として訳出した」とあるだけでそれ以上のことはわからない。
     初めにエンゲルスの序文を置き、エンゲルスの補筆訂正を明示していない本文には、宮川訳と同じように1〜5と一連番号を付してある。訳文そのものは、国民文庫3(1953年2月)に収録の松本惣一郎の訳文とほとんど差異がない。なお解説はなく、註も少ないが、この選集の序文において「ブルジョアジーの階級支配がよってたつ経済関係の深刻な理論的分析を通俗的な形でおこない、剰余価値の起源と本質を説明し、賃金奴隷制を廃止するために労働者階級は闘争する必要がある、という革命的結論へと読者を導いている」として、『賃金、価格および利潤』とあわせて紹介されている。

  • 〔マルクス=レーニン主義研究所編〕.“賃労働と資本”.マルクス=エンゲルス選集.第2巻.東京,大月書店,1953(昭和28年)10月,229-278p.20cm.420円 (富山大学附属図書館蔵 請求記号308-M36-Ot=2)
  •  本文は『新ライン新聞』に連載した形式になっているが、明らかにエンゲルスの修正版を訳出したものである。エンゲルスの補筆訂正箇所は明示してない。なお、1848−49年におこった多くの事件がのべられてある冒頭の部分が、新聞に掲載されなかった形になっている。この最初の短いはしがきは、マルクスが、すでに1847ー48年に講義し、執筆していた『賃労働と資本』を1849年4月に『新ライン新聞』に連載するにあたって、旧稿を加筆・再編したのちに、書きくわえたものと推定されるから、4月5日号の論説に含むのが妥当である。本文のあとに、『賃労働と資本』ドイツ版序文(エンゲルス)が収めてある。本文に関する訳者の註は少なく、使用した底本についての記述はない。

  • 長谷部文雄訳.賃労働と資本.〔改訳〕.東京,岩波書店,1954(昭和29年)6月,15cm.目次 訳者例言 改訳版のために 序言(マルクス・エンゲルス・レーニン研究所) 前書き(エンゲルス) 本文 附録手稿『労賃』からの抜粋(通し頁)89p.50円.(岩波文庫90).(筆者蔵)
  •  改訳にあたって、訳者は「岩波文庫には最初、昭和2年に河上博士の訳文が収められたのであって、それが絶版となったのち私の訳文が収められたのは昭和10年であった。これは昭和13年に発禁となり、昭和21年に、伏字を埋めたほかは従来の訳文のままで再刊された。しかし、敗戦直後の悪条件のために、戦前版より却って不出来なものであった。このたび、紙型摩滅による組替にさいし、『マルクス=エンゲルス二巻選集』ディーツ版(1953年)を参照して全面的に改訳することができた」と書いている。
     エンゲルスがなした補筆訂正はべつに指摘していない。註は編集者によるものと、訳者によるものとからなっている。この長谷部文雄の改訳版はその訳文の正確さの点で定評がある。

  • 松本惣一郎,村田陽一訳.新訳 賃労働と資本.東京,大月書店,1956(昭和31年),15cm.凡例 目次 エンゲルスの序論 本文(1〜5) 解説(通し頁)86p.人名註 事項註2頁 70円.(国民文庫).(筆者蔵)
  •  「本訳書は、マルクス=エンゲルス=レーニン研究所編『国際版マルクス=エンゲルス全集』および『マルクス=エンゲルス二巻選集』を底本として訳出した」と凡例に記してある。エンゲルスの補筆訂正部分は本文中にも、註にも示してない。
     国民文庫編集委員会によって用意された「解説」は、『賃労働と資本』の、1簡単な位置づけ、2成立事情、3「労働力」と「労働」との区別およびその重要性、4主な内容、5その他の関連文献、からなっている。

  • 村田陽一訳.新訳 賃労働と資本.東京,大月書店,1956(昭和31年),15cm.凡例 目次 エンゲルスの序論 本文(1〜5) 解説(通し頁)86p.人名註 事項註2頁 70円.(国民文庫).(筆者蔵)
  •  出版事項、内容その他すべて前項に同じ。

  • 宮川実訳.賃労働と資本 賃金・価格および利潤.東京,新興出版社,1959(昭和34年),258p.18cm.(国立国会図書館蔵 請求記号331.34-cM39t4-Ms(s))
  •  国立国会図書館蔵書目録による。未見。

  • 大内兵衛訳.“賃労働と資本”.マルクス・エンゲルス選集.第7巻.東京,新潮社,1959(昭和34年),20cm.p.3-50.240円. (富山大学附属図書館蔵 請求記号308-M36-Sh=7)
  •  これは「Karl Marx "Lohnarbeit und Kapital"の翻訳である。底本にはマルクス・エンゲルス・レーニン研究所編をもとにした最新版のディーツ版マルクス主義レーニン主義小双書(1953年)をもちいた」。「翻訳にあたっては従来のカウツキー版とマルクス・エンゲルス二巻選集を参照し、また堺利彦訳(改造社、マルクス・エンゲルス全集第4巻)、長谷部文雄氏訳(岩波文庫)、松本惣一郎氏訳(国民文庫)を参考にした」と本書の註に記されている。目次は、エンゲルスの前書き、本文1〜5、附録6救済案7労働組合、となっている。附録は、1847年12月に書かれたマルクスの手稿『労賃』の第6節、第7節である。本選集の訳文は、エンゲルスの訂正版にしたがっている。補筆訂正部分は明示してない。ただ、マルクスが「さて、商品の価格を一般に規定するのと同じ一般法則が、もちろんまた労賃労働の価格をも規定するのである」〔原文下線部傍点あり=筆者注〕と書いている、その「労働」に、「経済学的には「労働」ではなくて「労働力」と考えるべきであろうが、ここでは問題を俗語によって立てているのであり、次にでてくる同様な場合も同じである。マルクスのここでの解明の不充分な点は、エンゲルスの序文で充分におぎなわれている」と、訳者による註があたえられている。『賃労働と資本』では、「単純な労働力の生産費は、つまり労働者の生活費と繁殖費とになる。この生活費と繁殖費との価格が、労賃を形成する。このように決定された労賃を、最低労賃という」〔原文下線部傍点あり=筆者注〕として、「労働者階級全体の労賃は、それの動揺の範囲内で、この最低限と一致するのである」〔原文下線部傍点あり=筆者注〕と規定している。
     すなわちマルクスは、生産費による商品の価格の規定を労働力という商品にまでおよぼしているが、単純な労働力の生産費=価値がいわゆる「最低労賃」とみなされる傾向が見られる。ここでは、「労働〔力〕の価値」を「労働の自然価格」=「労賃の最低限」として、リカード流のいわゆる「賃金鉄則論」的にとらえていた『哲学の貧困』における賃金の理解が再現しているわけである。この命題に対して編者による註があり、『哲学の貧困』の1885年ドイツ語版において、同じような意味の命題に対してエンゲルスがつけた註を引用している。この命題は、エンゲルスが『国民経済学批判大綱』と『イギリスにおける労働者階級の状態』とのなかでうちたてたものである。「ごらんのとおりマルクスは、この命題を当時は承認していた。またラッサールが、われわれふたりから、それを引きついだ。けれども、労賃がたえずその最低限に近づいていく傾向をもつことは事実であるとしても、この命題は、あくまでまちがいだ。労働力はたいていの場合、平均してその価値より低く支払われているが、その事実は、労働力の価値をかえるものではない。『資本論』では、マルクスは、この命題をも修正する。(労働力売買という節〔第4章〕)とともに、資本主義的生産のもとで労働力の価格がだんだんとその価値以下におしさげられていく事情をくわしく展開した(第23章、資本主義的蓄積の一般的法則)。」
     これは、資本制的生産関係のもとにおける労働過程論(疎外された労働というかたちで把握されている)に基本的視覚を置いていた1844年以降、1848〜9年までの、いわゆる「初期マルクス」の時代から『資本論』の世界へと、マルクスの労賃論の成熟過程を理解するうえのひとつの重要点である。
     巻末(234〜236頁)で向坂逸郎氏が『賃労働と資本』の解題を書いている。

  • 長洲一二訳.“賃労働と資本”.マルクス・エンゲルス全集.第6巻.東京,大月書店,1961(昭和36年),20cm,p.392-419.1000円.(富山大学附属図書館蔵 請求記号308-M36-Oz=6)
  •  「本巻は、ドイツ社会主義統一党中央委員会付属マルクス=レーニン主義研究所編の『カール・マルクス=フリードリヒ・エンゲルス全集 第6巻』(Karl Marx=Friedrich Engels Werke, Band 6, Institut fur Marxismus-Leninismus beim ZK der SED, Dietz Verlag, Berlin 1959)の翻訳である」(凡例)。
     この全集第6巻に収められている「賃労働と資本」は、「はじめ『ライン新聞』の社説のかたちで発表されたものであって、本書では、同誌のテキストをもとにして、かつ1891年版でエンゲルスが施した重要な変更や補足は、すべて脚註に〔この訳書では、各段落のうしろに〕示しておいたが、他方、用字法上の改善や、誤植の訂正などは、いちいち断らずにおこなった。1891年版でエンゲルスはフランとサンティームをマルクとペニッヒに代えているが、これは今回は考慮しなかった」(ロシア語版編集部の註解を底本にしてつくられたドイツ語版編集部の註解(372)本書644頁)とあるように、「この版では「賃労働と資本」は、『新ライン新聞』にこの労作が発表されたとおりのかたちで印刷されている」(ソビエト連邦共産党中央委員会付属マルクス=レーニン主義研究所序文、XXVI頁)。
     服部文男氏は、論文『マルクス労賃論の成立過程においてーー労賃論と資本蓄積論との連携ーー』(研究年報『経済学』第23巻第2号、1961.11、通巻第61号)において、この「邦訳」に大きな意義を認めている。「1891年版との異同を注記した正確なテキストは、すでに戦前1932年に、MEGA(戦前の1927年以降、はじめはリヤザノフ、のちにはアドラツキーの手によって、モスクワのマルクス・エンゲルス研究所より出版された全集〔未刊〕。そのMarx-Engels Gesamt Ausgabeの頭文字をとってMEGAと一般に略称されている。=筆者)第6巻のなかに収められていたが、戦後は1959年にようやく『マルクス=エンゲルス著作集』第6巻において刊行されるにいたった。後者においては、テキストの復元の点で、いっそう改善されていると思われる。ついでながら、かかるテキスト復元の試み自体は、すでに古く1920年代にカール・カウツキーあるいは、エルンスト・ドラーンによってなされたのではあるが、いずれも、きわめて不完全であって、些末な点についての注記はあっても、肝要な点は、1891年版の字句を残存せしめる底のものであって、とうてい研究の役には立ちえない。我が国においても、このことは、今日にいたるまで全く問題とされず、ようやく、上記戦後版著作集の邦訳において、完全な原テキストを日本語で読みうるようになったわけである。」(前掲論文12頁)
     1850年代の古典経済学の徹底的な批判と克服のうえに到達した『資本論』の見地からすれば、理論的に未熟な諸点をふくんではいるが、「賃労働と資本」は1840年末のマルクスの理論の性格を論ずるためには、「のち1891年になってエンゲルスが連載論文『賃労働と資本』に対して変更訂正をおこなった箇所をすべて原型に服する必要がある。かかる箇所がすべて、ただ一点「労働の価格にのみかかわっていることは、エンゲルス自身の明言するとおりであるが、このことは、この時期におけるマルクスの労賃論を理解するばあいに、きわめて重要な意味をもっている。すなわち、『賃労働と資本』においては、一方において、資本制的生産関係の把握が明確になった(「資本もまたひとつの社会的生産関係である」)にもかかわらず、いなむしろ、それゆえにこそ、労賃の把握は、まさに「労働の価格」として徹底せしめられたのである」〔原文下線部傍点あり=筆者注〕(前掲論文11〜12頁)
     『賃労働と資本』は、史的唯物論の立場からはじめて「賃金」および「賃労働」の歴史的な本質を明白にしたのであるが、マルクスは冒頭の「賃金とはなにか?それはどのようにして決められるか?」の分析において「賃金」を特殊な歴史的なカテゴリーとみなし、「賃金」をなによりも質的な側面から分析している。ここでは『経済学・哲学手稿』のなかで展開され、労働価値説にもとづいていっそう発展させられた「疎外された労働」として賃労働を把握するという基本的視角にたって、マルクスは、「賃金」という資本主義的生産関係に特有なカテゴリーのなかに、その生産関係の歴史的本質がいかに表現されているかをしめした。いや、しめそうとしていた。だからこそ、当時のマルクスはまだ「労働」と「労働力」の理論的区別を明確におこなっておらず、「労賃」を「労働という商品の価格」とのべているのである。労働=商品観をあきらかにしようとするマルクスの意図が大きくはたらいていたから、「労賃の把握は、まさに「労働の価格」として徹底せしめられた」のである。

  • 長洲一二訳.“賃労働と資本”.世界思想教養全集.第12マルクスの経済思想.東京,河出書房新社,1962(昭和37年),19cm,p.237-280.380円.(富山大学附属図書館蔵 請求記号080-Se4-K=12)
  •  訳者が大月書店版『マルクス・エンゲルス全集』第6巻の一部として訳したものを、1891年のエンゲルス版にしたがって直したものである。

  • 宮本義男,山中隆次訳.賃労働と資本.東京,角川書店,1963(昭和38年)11月,15cm.凡例 目次 本文 附録(1フリードリッヒ・エンゲルス序文 2賃金) 解説(通し頁)126p.60円.(角川文庫2203).(筆者蔵)
  •  「本訳書はすべて、ドイツ社会主義統一党中央委員会付属マルクス=レーニン主義研究所編集の『カール・マルクス=フリードリッヒ・エンゲルス全集、第6巻』(Karl Marx-Friedrich Engels Werke, Band 6, Institute fur Marxismus - Leninismus beim ZK der SED, Dietz Verlag, Berlin 1959)に所収のテキストを底本とした。さらに、ロシア語訳として、同じく『マルクス・エンゲルス全集、第6巻』ロシア語版(1957年)、英語訳として『マルクス・エンゲルス二巻選集、第1巻』(モスクワ外国語出版局、1962年)のそれぞれに所収のものを、必要なかぎり参照した。なお邦訳書は戦前戦後を通じ数多く出版されているが、戦前のものでは河上肇(訳)〔マルキシズム双書、第7冊 第4版、1927年、弘文堂、所収〕戦後のもでは、長洲一二(訳)〔「マルクス・エンゲルス全集」第6巻(初版、1961年)大月書店、所収〕を参照」(凡例)して訳出されたものである。『マルクス・エンゲルス全集』第6巻所収の「賃労働と資本」と同じように、「それが論説のかたちではじめて公刊された『新ライン新聞』にもとづき、さらに1891年のエンゲルス校訂版と照合して採録してある。エンゲルスがそこでおこなった重要な変更と補足は、すべて脚註〔本訳書では※印をつけ各段落のあとに〕で示しておいたが、文体の改善や誤植の訂正などは、いちいち断わらずに、そのまま採用した。1891年版でエンゲルスはフランとサンチームをマルクとペニヒに書き換えているが、これはここでは無視して原文どおり」(註解(1)8頁)になっている。なお本訳書の附録に収められている『賃金』は原本手稿である。
     原文には一連番号はついていないが、読者の便を考えて、一、二・・・以下五までつけ、各論文ごとに山中隆次氏は訳者解説を試みている。

  • マルクス=レーニン主義原典刊行会訳.賃労働と資本 付/賃金・価格および利潤.東京,青木書店,1965(昭和40年)7月,18cm.目次 凡例 ソ連マルクス・エンゲルス・レーニン研究所の1933年版への序文 エンゲルスの1891年版への序文 本文(一、二賃金はどうしてきめられるか、三資本とはなにか、四労働者階級は相対的に窮乏化する、五労働者階級は絶対的に窮乏化する) 賃金・価格および利潤(通し頁)169p.(マルクス=レーニン主義原典選書2).150円.(筆者蔵)
  •  この訳書に収められている『賃労働と資本』は、1934年、マルクス・エンゲルス・レーニン研究所から出版されたドイツ語を台本とし、同研究所版『マルクス・エンゲルス二巻選集』英語版を参照して訳出されたものである(凡例)。
     本文は、『新ライン新聞』に連載された原型のかたちをとっているが、テキスト復元を試みたものとは考えられない。エンゲルスによる補筆訂正は本文中の〈 〉の中に「理解を容易ならしめるために訳者が挿入したもの」として取扱ってあるため、訳者自身の挿入字句と識別しにくくなっている。また重要な点においても1891年版の字句が残存していて、完全な原テキストの日本語版とはいえない。エンゲルスの修正版の訳本として出版されたものと考えられる。
     註は、マルクス・エンゲルス・レーニン研究所単行本『賃労働と資本』の編集者の註と訳者の註である。解説はない。なお訳文は科学的な厳密さと平易さとが期されている。

  • 長洲一二訳.“賃労働と資本”.世界の大思想.第2期第4巻マルクス経済学・哲学論集.東京,河出書房,1967(昭和42年),21cm,p.315-346.690円.(筆者蔵)
  •  訳文については、『世界思想教養全集.第12マルクスの経済思想』(東京,河出書房新社,1962)所収の長洲一二訳に同じ。巻末解説、高島善哉・山中隆次「初期マルクス研究の意義について」(496〜514頁)。マルクス・エンゲルス・レーニン研究所編『マルクス年譜』(邦訳、1960年、青木書店)を参照して作成された「マルクス年譜」(渡辺寛)を収録(515〜526頁)。

  • 笹原潮風訳.“賃銀労働及び資本”.岩本由輝.カール・マルクス著笹原潮風訳『賃銀労働および資本』について.山形市,山形資本論研究会,1980(昭和55年),21cm.1埋もれていた本邦初訳 2笹原潮風のこと 3笹原訳の特徴 4用語としての“商品”と“貨物” 5雑誌『木鐸』のこと 賃銀労働および資本 英文抄録 (通し頁)52p.(筆者蔵)
  •  底本は不明だが、「しかし、どうやら英語版からの重訳らしい。そのように推量する理由は、文中に出てくる貨幣単位が『新ライン新聞』所載稿では、フランとサンティーム、1891年のエンゲルス校訂版ではマルクとペニッヒとなっているのに対し、笹原訳ではシリングかドルになっているからである。もう一つ状況証拠として、笹原が幸徳や堺に依頼して購入している外国の社会主義文献が英語のものばかりであることをあげることができる。ただし、これらのリストのなかには、『賃労働と資本』はみあたらない。」(「笹原訳の特徴」)とある。

  • 森田成也訳.賃労働と資本/賃金・価格・利潤. 東京 : 光文社, 2014.4.16cm,412p.(光文社古典新訳文庫).
  •  凡例によれば『賃労働と資本』は、「Karl Marx-Friedrich Engels Werke, Band 6, Dietz Verlag, Berlin 1959.」を底本とし、翻訳・訳注作成にあたっては、「Marx/Engels Colleced Works, Vol.9, Progress Publishers, 1977.」と、1952年から2009年までに刊行された宮川實(青木文庫)、村田陽一(国民文庫ほか)、長洲一二(マルクス・エンゲルス全集)、服部文男(新日本文庫)、長谷部文男(岩波文庫)各氏の手による「日本語訳」を参考にしたとある。また付録として、「賃金」および「エンゲルスによる1891年版序論」の訳文が付く。
     巻末で、訳者による解説「マルクス剰余価値論形成小史――『賃労働と資本』から『賃金・価格・利潤』へ」および簡略な「マルクス年譜」が読める。
     「訳者あとがき」において、「宮川實訳の青木文庫版と長谷部文男訳の新日本文庫版は、両者[『賃労働と資本』と『賃金・価格・利潤』=引用者注]を同じ文庫に収録しているのだが、青木文庫版はとっくに絶版で入手困難である。また、両者とも、そこに収録されている『賃労働と資本』はオリジナル版ではなく、他のすべての文庫版と同じく、エンゲルスによる修正版である。新日本文庫版では、どこがどう修正されたのかは訳注で知ることができるが、多くの読者は訳注を読み飛ばすか、ぞんざいにしか目を通さないものである。」と、刊行にあたっての翻訳姿勢を明らかにしている。
     訳者によって参照された過去の日本語版《賃労働と資本》の書誌的な遡及範囲が明確に示されてはいないが、「またこれまでの文庫版すべてに共通していることとして、『賃労働と資本』の全体像を理解する上で非常に有益な、1847年末に書かれた「賃金」と題されたマルクスの手稿の全訳がセットで収録されていないという問題ある。宮川訳の青木文庫版と長谷部文男訳の岩波文庫版が「賃金」草稿の「C」のVIとVIIを収録しているだけである(全体の半分弱)。/それ以外の文庫版はそもそも「賃金」草稿の存在に触れてさえいない。文庫版ではないが、大月書店の「マルクス・フォー・ビギナー」シリーズに入っている『賃労働と資本』の金子ハルオ氏の解説で言及されているぐらいである。この手稿は研究者のあいだではよく知られたものであり、その全訳は大月書店の『マルクス・エンゲルス全集』第6巻に収録されているのだが、専門的な研究者でもないかぎり、全集の、しかも本文ではなくその末尾の付録的位置に収録されているものなど読まないだろうし、ほとんど知ることさえないだろう。しかし、解説に詳しく書いたように、『賃労働と資本』と「賃金」草稿とは合わせて読まれるべきものであり、そうしてはじめて『賃労働と資本』でマルクスが構想していたことの全体像を知ることができるし、この時点でのマルクスの理論的水準をも知ることができるのである。」というように、これまでの日本語版《賃労働と資本》が総括されている。

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    邦訳書誌補遺

  • 堺利彦譯.經濟學入門 : 賃勞働と資本, 價値と價格と利潤 .東京 : 白揚社, 1930.9.16cm.2, 4, 170p .(「マルクス主義の旗の下に」文庫 ; 2).
  • 種瀬茂訳.賃労働と資本. Tokio ; Kioto : Nankodo, 1964.19 cm.83 p. 別タイトル: Lohnarbeit und Kapital / Karl Marx ; erlautert von S. Tanese.
  • 宮川実著.賃労働と資本 : 原典解説 . 東京 : 青木書店,1965,18cm,249p. (マルクス=レーニン主義入門叢書 ; 2).
  • 都留大治郎訳.“賃労働と資本”.マルクス : 経済学・哲学論集. 東京 : 河出書房, 1967.6.20cm,526p, 図版1枚 ; (世界の大思想 / 務台理作 [ほか] 責任編集 ; II-4). 注記: 出版社名称変更:河出書房新社(3版 1971年).別タイトル: 経済学・哲学論集
  • 都留大治郎訳.“賃労働と資本”.経済学・哲学論集 . 東京 : 河出書房新社, 1972.4.20cm,526p. (世界の大思想 / 務台理作[ほか]責任編集 ; 21).
  • 向坂逸郎,和気誠著.学習『賃労働と資本』.東京,労働大学, 1974,18cm,186p.(労大新書 ; 49).
  • 服部文男訳.賃労働と資本 ; 賃金、価格および利潤.東京 : 新日本出版社, 1976.11.15cm,203p. (新日本文庫 ; 46).
  • 長谷部文雄訳.賃労働と資本. -- 改版. -- 東京 : 岩波書店, 1981.7.15cm.,110p.(岩波文庫 ; 白-124-6).注記: 第46刷.ISBN: 400341246X.別タイトル: Lohnarbeit und Kapital.
  • 村田陽一訳.伊藤龍太郎注解.賃労働と資本. 東京 : 大月書店, 1983.4.21cm,79p.(大月センチュリーズ).
  • 北田寛二著.『賃労働と資本』『賃金・価格・利潤』の学習.東京 : 新日本出版社, 1984.4.18cm,219p.(新日本新書 ; 336).
  • 長坂聰訳.賃労働と資本 . 東京 : 労働大学, 1993.7.19cm,99p.(古典シリーズ ; 3).別タイトル: Lohnarbeit und Kapital.
  • 服部文男訳.賃労働と資本/賃金、価格および利潤.東京 : 新日本出版社, 1999.3.21cm,196p. (科学的社会主義の古典選書).
  • 村田陽一訳.金子ハルオ解説.賃労働と資本. 東京 : 大月書店, 2009.9.21cm,117p.(マルクス・フォー・ビギナー ; 3).
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    「日本語版『賃労働と資本』(K.マルクス)書誌解題詳細」kyoshi@tym.fitweb.or.jp  2014.06.02
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