New●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
埴野謙二『『寄せ木細工』街頭考 補遺』(自家版)[PDF]
1969年10月21日。この日、わたしは高知市市役所広場の社共主催の集会に紛れ込み、初めてデモをした。同じ日、北川四郎(=鎌倉諄誠)は新宿にいた。
●猫々堂主人の2024年8月の推し
松岡祥男
(1)シェイクスピア『ハムレット』』(新潮文庫)
『ハムレット』はまさしく不朽の古典的名作だ。『ファウスト』よりいい。なかでも墓掘りの場面は痛快でした。この劇の構成は〈原型〉的で物語を貫通する。
(2)ポー『モルグ街の殺人・黄金虫』『黒猫・アッシャー家の崩壊』(新潮文庫)
ポーなくして、「ホームズ」(推理小説)は無いということも含めて、根源的です。
ポーの「赤き死の仮面」とカミュ『ペスト』を合わせると、われわれのコロナ禍の透視図となるでしょう。ハルノ宵子『猫屋台日乗』はその渦中の奮闘記のひとつなのです。
(3)スタンダール『赤と黒』(新潮文庫・全2巻)
《おれの祖国よ! おまえはまだなんという野蛮な国なのだ!》
*中学の時、先生が言われた言葉を覚えています。「社会へ出たら本を読む時間などありません。いまのうちにノノ」と。学校嫌いのじぶんはマンガさえあれば満足でした。そして、中卒で働き出しました。情況的な契機からガリ切り和文タイプ打ちワープロいじりをやってきただけで、ほんとうに本を読んだことはないような気がします。それを挽回したいという思いも少しはありますが、それ以上に日々の糧になればいいなあ、と
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
齋藤愼爾『深夜叢書社年代記』(深夜叢書社)
●猫々堂主人の2024年7月の推し
松岡祥男
(1)ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(新潮文庫・全3巻)
間違いなく、人生のすべてをたたきこんだドストエフスキーの畢生の大作だ。アリョーシャもドミートリーもイワンも、父親のフョードルもみんなイカレているが、愛すべき存在だ。われわれの来し方と同じように。
つまらないことをいえば、フョードルを殺害したのがスメルジャコフであると納得しても、ドミートリーが負債の半分(千五百ルーブル)を肌身につけて持っていたというのは信じ難い、その振舞からして。
(2)カミュ「追放と王国」(『転落・追放と王国』新潮文庫)
6つの短編から成り、その中の「客」の教師ダリュの立場は、戦争中の作者のそのものなのだ。《お前は己の兄弟を引き渡した。必ず報いがあるぞ》、この脅迫文が誤解に基づくものであっても、どうすることもできない。カミュのジャーナリストとしての状況認識は卓抜で、それが作品をリードしている。
(3)カフカ「判決」(『カフカ全集1』新潮社)
カフカの〈悲劇〉の本質はここにあり。
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
・鳥山明「オバケDEデート」(『ドクター・スランプ』第10巻・集英社)
根石吉久主宰『快傑ハリマオ』第7号の表紙を飾った、「のっぺらぼう」がこの回に登場する。めちゃくちゃするアラレたちに怒って、金を返すから「かえれ!」と怒鳴る、おばけ(やしき)の親方がかわいい。
●猫々堂主人の2024年6月の推し
松岡祥男
(1)鳥山明『ドクター・スランプ』1〜5(集英社)
めっちゃんこ、おもしろい、40数年ぶりに読んでも。幼童性のパラダイスなのだ。中でも「ドンベ物語」「モンスターズ・ナイト」「きのこ《放浪編》」などは傑作だ。
(2) ゲーテ『ファウスト』(新潮文庫・全2巻)
『嵐が丘』以後、チェーホフ『桜の園』、ジッド『狭き門』、ゲーテ『ファウスト』、ヘッセ『デミアン』と読んだ。リッチに名作をめぐるのがわたしの願望だ。しかし、不本意にも『狭き門』は段々腹が立ってきたし、『デミアン』においては少年期の同性愛的傾向に魅力を感じても、戦争は「運命」で「それも悪くなかった」といわれると、冗談じゃねえ、ナイーヴとは馬鹿の謂いと思わざるを得なかった。通俗的なのだ。到底ゲーテのスケールの巨大さと思索の徹底性には及びはしない。
『ファウスト』第一部は『若きウェルテルの悩み』と地続きで、ファウストは〈老いたウェルテル〉であり、村の娘マルガレーテの悲劇はいわば〈憐れなロッテ〉だ。第二部の神話世界の乱痴気騒ぎは、極東アジアの大衆の位置からは歴史的にも知識的にも隔絶している。ファウストの野望は成就しない、メフィストーフェレスとの結託ゆえに。
吉本隆明が早い段階で「マチウ書試論」を書いたのは、西洋の文物はキリスト教の影響が絶対的で避けて通ることができなかったからだ。
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
・山本かずこ『岡田コーブン ただ、詩のそばで』(ミッドナイト・プレス)
岡田幸文さんは森高千里のファンでした。わが家に来た時、吉田秋生の『桜の園』を所望したのでプレゼントしました。知的俗物がなんと言おうと、岡田さんは〈詩〉を求めて、おのれの道を歩んだのです。
●番外・吉本隆明『わたしの本はすぐに終る 吉本隆明詩集』(講談社文芸文庫)補足
松岡祥男
言い出しっぺとして、『吉本隆明全集撰1』の川上春雄さんの解題「全詩撰について」の一部を紹介して、読者の参考に供したいと思いました。
《この詩集の成立において特徴的なことは、吉本氏の最も重要な著作と思われる詩について、その作品全部を対象として、著者が自作を完全に自撰する方法がとられる機会を得られたということである。》と記しています。
そして「少年期」について、《この「少年期」が名作であることはたしかであるが、どういう経緯があってのことか、森繁久彌の朗読により、まだテレビも普及しないある年の夜おそくNHKからラジオ放送された。朗読のテープは著者から贈呈されていまも手元にある》と述べています。
●猫々堂主人の2024年5月の推し
松岡祥男
(1) エミリ・ブロンテ『嵐が丘』(岩波文庫 阿部知二訳旧版・全2巻)
(2) カミュ『ペスト』(新潮文庫)
新潮文庫は文字が大きく糸栞がついていますので、これを購入しています。ところが『嵐が丘』の場合、鴻巣友季子の新訳で、訳文があまりにも安っぽく厭になりました。第10章から手持ちの岩波文庫(阿部知二訳)を引っ張り出し、全頁拡大コピーして読みました。
世の中はジェンダーがどうしたこうしたとやかましいことを言っていますが、男にも女にも特性も無意識の歴史的蓄積もあるのです。『嵐が丘』は名作ですが、素人の小説で、しかも女性特有の世界と思いました。
●猫々堂主人の2024年4月の推し
松岡祥男
(1)ゲーテ『若きウェルテルの悩み』(新潮文庫)
(2)カフカ『変身』(新潮文庫)
(3)カミュ『異邦人』(新潮文庫)
ドストエフスキーの処女作『貧しき人びと』を読み始めたのだが、あまりにもつまらないので、途中で止めてしまった。これはやばい、わたしの気儘な〈世界文学の旅〉があえなく頓挫するかもしれないとおもい、無難にむかし読んだ『変身』へ。それからトルストイ『イワン・イリイチの死』、『異邦人』、『若きウェルテルの悩み』とたどった。
ゲーテは凄い。怖ろしい魅力なのだ。これぞ、文学とおもった。訳者の高橋義孝は《世界文学史上最高の傑作》と記している。
●2024年3月の推し・(2)の補足
松岡祥男
・白土三平「傀儡がえし」(『忍法秘話5』・小学館文庫)
・つげ義春「雨の中の慾情」(『ねじ式・夜が掴む』・ちくま文庫)
・水木しげる「空のサイフ」(『水木しげる漫画大全集21』・講談社)
・川崎ゆきお「猟奇夢は夜ひらく」(『猟奇夢は夜ひらく』・チャンネルゼロ)
・つげ忠男「旅の終りに」(『無頼平野』・ワイズ出版)
・高野文子「玄関」(『絶対安全剃刀』・白泉社)
・杉浦日向子「閑中忙あり[ポトガラヒー]」(『東のエデン』・ちくま文庫)
・松本大洋「ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!」(『青い春』・小学館文庫)
優れた短編マンガとなれば、岡田史子「墓地へゆく道」(『岡田史子作品集2』・復刊ドットコム)や楠勝平「彩雪に舞うノ」(『楠勝平コレクション』・ちくま文庫)などがすぐに浮かぶ。読者はそれぞれに、じぶんのアンソロジーを持っているからだ。
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
吉本隆明『わたしの本はすぐに終る 吉本隆明詩集』(講談社文芸文庫)
《顔もわからない読者よ
わたしの本はすぐに終る 本を出たら
まっすぐ路があるはずだ》
わたしがこの本の計画を立てました。著者自選の『吉本隆明全集撰1 全詩撰』(大和書房)を底本として、講談社文芸文庫『吉本隆明初期詩集』が1992年に刊行されています。それは「巡礼歌」(1947年)から詩集『転位のための十篇』(1953年)にいたるもので、『全詩撰』の前半です。当然、それ以降の作品も文庫本(および電子書籍)化されるべきと思ったのです。
●猫々堂主人の2024年3月の推し
松岡祥男
(1)フランツ・カフカ『城』(新潮文庫)
コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」シリーズ(全作品)を皮切りに、トルストイ『アンナ・カレーニナ』『戦争と平和』、ドストエフスキー『白痴』、トルストイ『復活』、ドストエフスキー『罪と罰』、カフカ『城』ときて、電話が登場する。それとともに、これまではリアリズム基調だったのが、シュールな寓話的表現に。
おれは測量師Kに同情しない。《橋屋の測量師どの! あなたがこれまでにおこなった測量の仕事を、わたしは高く評価している》(クラムの第二の手紙)が示すように、Kの行動そのものが国家と律法機構の測量行為なのだ。そして、その疎外状況において、Kは〈われわれの分身〉である。
(2)いがらしみきお「電器屋さんがアンテナを立てに来た日」(『日本短編漫画傑作集5』所収・小学館)
これもカフカ的リアル、現場仕事ではよくあることだ。
ところで、こういうアンソロジー(全6巻)はどうしても不満がつきまとう。わたしなら、
・白土三平「戦争」→「傀儡がえし」
・つげ義春「海辺の叙景」→「雨の中の慾情」
・水木しげる「妖花アラウネ」→「空のサイフ」
・川崎ゆきお「猟奇の果」→「猟奇夢は夜ひらく」
・つげ忠男「ヘビの雨宿り」→「旅の終りに」
・高野文子「あぜみちロードにセクシーねえちゃん」→「玄関」
・杉浦日向子「吉良供養」→「閑中忙あり[ポトガラヒー]」
・松本大洋「日本の家族」→「ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!」に、差し替える。
(3)荒井和子「女の方法」(『続・最後の場所』第14号・論創社)
この作品を読んではっきりした。荒井夫婦は破綻していた。従って、吉本隆明の恋愛は横恋慕でも略奪でもない。『それから』(夏目漱石)の三角関係とかさなる。
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
ハルノ宵子『隆明だもの』(晶文社)
この本の芯は、母の俳句について述べた「ギフト」だ。
伝承の祭り団地の窓にあり
夭折の霊か初蝶地を慕う
沖暗し雷光にまぼろしの艦を見し
桃買いに黄泉の比良坂下りいる
あとがきは海市の辺より速達で
(吉本和子)
ハルノ宵子『猫屋台日乗』(幻冬舎)
料理は心づくしなのだ。わたしはもっぱら食べる方だけど。
●猫々堂主人の2024年2月の推し
松岡祥男
(1)松本大洋『sunny』(全6巻・小学館)
「何ねむたいこと言うとんねん。帰れるわけないやろ。お前、捨てられたんやぞ。」
●猫々堂主人の2024年1月の推し
松岡祥男
(1)トルストイ『アンナ・カレーニナ』(全3巻・新潮文庫)
(2)トルストイ『戦争と平和』(全4巻・新潮文庫)
トルストイは圧倒的だ。
●猫々堂主人の2023年12月の推し
松岡祥男
(1)いしいひさいち『ROCA』 発行(笑)いしい商店
わしは昭和の昔から、いしいひさいちのファンだ。「わしはファド歌手になる!」という吉川ロカ、「まずその、わしをやめろッ」と落第生の紫島美乃、その友情物語。たぶん中・四国地方では、女もじぶんのことを「わし」というのだ。わしの女房も「わし」と言うておる。この作品の最大の難点は、紫雲丸沈没事故を持ち出したところだ、宇高連絡船の。それじゃあ、ロカは作者と同い年になる。
●猫々堂主人の2023年7月の推しの〈後押し〉
松岡祥男
(1)『花男』。アンチ巨人であっても、長嶋嫌いであっても、このマンガはおもしろい。
(2)『とてもいいもの』。《現実社会のひずみや謎についてもいくつか書いた。ある想いと衝突したとき、ことばは詩になる》(「あとがき」)に、深く同意する。
(3)『はーばーらいと』。なんと言っても、ひばりが差し入れのポテトチップスをむさぼり食う場面でしょう。
●猫々堂主人の2023年9月の推し
松岡祥男
(1)井谷泰彦「羊をめぐったシンクロニシティ ―生死の淵の片隅で」(『飢餓陣営』57号所収)
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
『比嘉加津夫追悼集 走る馬』(Amazon@発売・(有)琉球プロジェクト)2021年7月刊
『ただ、詩のためにー岡田幸文追悼文集』(Amazon@ミッドナイト・プレス)2021年12月刊
●猫々堂主人の2023年8月の推し
松岡祥男
(1)宮城正勝『島嶼左翼はどこへゆくー沖縄的言説風景』(ボーダーインク)
今年の朝顔は「暁の混合」(大分県産)」と「西洋系ヘブンリーブルー」(ポーランド産)です。7月24日から花が咲きはじめました。
●猫々堂主人の2023年7月の推し
松岡祥男
(1) 松本大洋『花男』(小学館文庫・全2巻)
(2) 近澤有孝『とてもいいもの』(Amazon.co.jpカスタマーサービス・990円)
(3) 吉本ばなな『はーばーらいと』(晶文社)
朝顔の蔓が伸びてきました。梅雨明けも間近でしょう。