●猫々堂主人の2024年4月の推し
松岡祥男
(1)ゲーテ『若きウェルテルの悩み』(新潮文庫)
(2)カフカ『変身』(新潮文庫)
(3)カミュ『異邦人』(新潮文庫)
ドストエフスキーの処女作『貧しき人びと』を読み始めたのだが、あまりにもつまらないので、途中で止めてしまった。これはやばい、わたしの気儘な〈世界文学の旅〉があえなく頓挫するかもしれないとおもい、無難にむかし読んだ『変身』へ。それからトルストイ『イワン・イリイチの死』、『異邦人』、『若きウェルテルの悩み』とたどった。
ゲーテは凄い。怖ろしい魅力なのだ。これぞ、文学とおもった。訳者の高橋義孝は《世界文学史上最高の傑作》と記している。
●2024年3月の推し・(2)の補足
松岡祥男
・白土三平「傀儡がえし」(『忍法秘話5』・小学館文庫)
・つげ義春「雨の中の慾情」(『ねじ式・夜が掴む』・ちくま文庫)
・水木しげる「空のサイフ」(『水木しげる漫画大全集21』・講談社)
・川崎ゆきお「猟奇夢は夜ひらく」(『猟奇夢は夜ひらく』・チャンネルゼロ)
・つげ忠男「旅の終りに」(『無頼平野』・ワイズ出版)
・高野文子「玄関」(『絶対安全剃刀』・白泉社)
・杉浦日向子「閑中忙あり[ポトガラヒー]」(『東のエデン』・ちくま文庫)
・松本大洋「ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!」(『青い春』・小学館文庫)
優れた短編マンガとなれば、岡田史子「墓地へゆく道」(『岡田史子作品集2』・復刊ドットコム)や楠勝平「彩雪に舞うノ」(『楠勝平コレクション』・ちくま文庫)などがすぐに浮かぶ。読者はそれぞれに、じぶんのアンソロジーを持っているからだ。
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
吉本隆明『わたしの本はすぐに終る 吉本隆明詩集』(講談社文芸文庫)
《顔もわからない読者よ
わたしの本はすぐに終る 本を出たら
まっすぐ路があるはずだ》
わたしがこの本の計画を立てました。著者自選の『吉本隆明全集撰1 全詩撰』(大和書房)を底本として、講談社文芸文庫『吉本隆明初期詩集』が1992年に刊行されています。それは「巡礼歌」(1947年)から詩集『転位のための十篇』(1953年)にいたるもので、『全詩撰』の前半です。当然、それ以降の作品も文庫本(および電子書籍)化されるべきと思ったのです。
●猫々堂主人の2024年3月の推し
松岡祥男
(1)フランツ・カフカ『城』(新潮文庫)
コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」シリーズ(全作品)を皮切りに、トルストイ『アンナ・カレーニナ』『戦争と平和』、ドストエフスキー『白痴』、トルストイ『復活』、ドストエフスキー『罪と罰』、カフカ『城』ときて、電話が登場する。それとともに、これまではリアリズム基調だったのが、シュールな寓話的表現に。
おれは測量師Kに同情しない。《橋屋の測量師どの! あなたがこれまでにおこなった測量の仕事を、わたしは高く評価している》(クラムの第二の手紙)が示すように、Kの行動そのものが国家と律法機構の測量行為なのだ。そして、その疎外状況において、Kは〈われわれの分身〉である。
(2)いがらしみきお「電器屋さんがアンテナを立てに来た日」(『日本短編漫画傑作集5』所収・小学館)
これもカフカ的リアル、現場仕事ではよくあることだ。
ところで、こういうアンソロジー(全6巻)はどうしても不満がつきまとう。わたしなら、
・白土三平「戦争」→「傀儡がえし」
・つげ義春「海辺の叙景」→「雨の中の慾情」
・水木しげる「妖花アラウネ」→「空のサイフ」
・川崎ゆきお「猟奇の果」→「猟奇夢は夜ひらく」
・つげ忠男「ヘビの雨宿り」→「旅の終りに」
・高野文子「あぜみちロードにセクシーねえちゃん」→「玄関」
・杉浦日向子「吉良供養」→「閑中忙あり[ポトガラヒー]」
・松本大洋「日本の家族」→「ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!」に、差し替える。
(3)荒井和子「女の方法」(『続・最後の場所』第14号・論創社)
この作品を読んではっきりした。荒井夫婦は破綻していた。従って、吉本隆明の恋愛は横恋慕でも略奪でもない。『それから』(夏目漱石)の三角関係とかさなる。
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
ハルノ宵子『隆明だもの』(晶文社)
この本の芯は、母の俳句について述べた「ギフト」だ。
伝承の祭り団地の窓にあり
夭折の霊か初蝶地を慕う
沖暗し雷光にまぼろしの艦を見し
桃買いに黄泉の比良坂下りいる
あとがきは海市の辺より速達で
(吉本和子)
ハルノ宵子『猫屋台日乗』(幻冬舎)
料理は心づくしなのだ。わたしはもっぱら食べる方だけど。
●猫々堂主人の2024年2月の推し
松岡祥男
(1)松本大洋『sunny』(全6巻・小学館)
「何ねむたいこと言うとんねん。帰れるわけないやろ。お前、捨てられたんやぞ。」
●猫々堂主人の2024年1月の推し
松岡祥男
(1)トルストイ『アンナ・カレーニナ』(全3巻・新潮文庫)
(2)トルストイ『戦争と平和』(全4巻・新潮文庫)
トルストイは圧倒的だ。
●猫々堂主人の2023年12月の推し
松岡祥男
(1)いしいひさいち『ROCA』 発行(笑)いしい商店
わしは昭和の昔から、いしいひさいちのファンだ。「わしはファド歌手になる!」という吉川ロカ、「まずその、わしをやめろッ」と落第生の紫島美乃、その友情物語。たぶん中・四国地方では、女もじぶんのことを「わし」というのだ。わしの女房も「わし」と言うておる。この作品の最大の難点は、紫雲丸沈没事故を持ち出したところだ、宇高連絡船の。それじゃあ、ロカは作者と同い年になる。
●猫々堂主人の2023年7月の推しの〈後押し〉
松岡祥男
(1)『花男』。アンチ巨人であっても、長嶋嫌いであっても、このマンガはおもしろい。
(2)『とてもいいもの』。《現実社会のひずみや謎についてもいくつか書いた。ある想いと衝突したとき、ことばは詩になる》(「あとがき」)に、深く同意する。
(3)『はーばーらいと』。なんと言っても、ひばりが差し入れのポテトチップスをむさぼり食う場面でしょう。
●猫々堂主人の2023年9月の推し
松岡祥男
(1)井谷泰彦「羊をめぐったシンクロニシティ ―生死の淵の片隅で」(『飢餓陣営』57号所収)
●猫々堂主人の推し・番外
松岡祥男
『比嘉加津夫追悼集 走る馬』(発売・(有)琉球プロジェクト)2021年7月刊
『ただ、詩のためにー岡田幸文追悼文集』(ミッドナイト・プレス)2021年12月刊
●猫々堂主人の2023年8月の推し
松岡祥男
(1)宮城正勝『島嶼左翼はどこへゆくー沖縄的言説風景』(ボーダーインク)
今年の朝顔は「暁の混合」(大分県産)」と「西洋系ヘブンリーブルー」(ポーランド産)です。7月24日から花が咲きはじめました。
●猫々堂主人の2023年7月の推し
松岡祥男
(1) 松本大洋『花男』(小学館文庫・全2巻)
(2) 近澤有孝『とてもいいもの』(Amazon.co.jpカスタマーサービス・990円)
(3) 吉本ばなな『はーばーらいと』(晶文社)
朝顔の蔓が伸びてきました。梅雨明けも間近でしょう。