タイム フライ

 

この秋で現在の住まいに引っ越して、まる四年の月日が流れた。夫を見送り、生まれて初めて独り暮らしを始める私に、当事家族と海外勤務をしていた息子は、強くマンションへの移転を薦めた。奥行き22間ある古い木造建築の家屋に障害者となった私が独りで生活をするのを慮ってのことだった。彼の言葉に背を押されるような気持ちで、私も後十年は新しい環境で過ごせればいいなの思いで、一生で一番大きな買い物をした。

冬の雪の始末も台風の音にも脅されず、庭草取りにも煩わされない住まいはまことに快適である。そして想像していた十年という期間のほぼ半分近くを過ごしてしまった。この快適な生活を支えてくれる人々は多くいるがその中で管理人との接触が一番多いと思う。今風に言えばライフマネージャーと言うのだそうだが、彼は身が軽く、人当たりが柔らかく私を訪ねてくれる人は皆彼を褒めてくれる。このマンションの住人で私がお付き合いを始めた人たちも皆、口を揃えて良いライフマネージャーに恵まれたことをお互いに感謝しあっていた。

そこへ突然、彼が今月を持って契約が終わると告げられた。これには私たち一同驚き、どうすれば彼の留任が叶うのだろうかと話し合い、ささやかな努力をして見ようと言う事になり、管理会社の責任者に大げさに言えば嘆願書をメールで送った。単純な私は本人が希望し、住人である私たちも希望すれば何とか聞き届けてもらえるのではないかとの思いで出したメールだった。

しかし、その担当者から貰った返事によれば決定したことを変更はできないと言う内容のものだった。熟慮すれば、当然のことである。会社として一度決定をして、辞令も出てしまったものを覆すと言うことは出来ないことなのだ。と言うことは世間知らずの私にも理解が出来る。今、思い起こしてみれば、彼の勤務時間内には、管理人室からさまざまな音楽がテープで流され、外から私が怪しなげ足取りで帰宅するのを認めると、いち早く、オートロックのドアを開けて「お帰りなさい」の声をかけてくれ、宅配便の不在案内のカードに書かれた連絡電話番号なども読み上げてもらってヘルパー来宅まで待たずに処理のできることも多かった。彼自身も公園に近いこのマンションは休み時間にもちょっと散歩に出られて気に入っていると話していた。当人も住人も留任を希望しても、会社の方針として許されないことのあることを知り、私はいささか落ち込んだ。これが世の中と言うものであろう。

人事担当者から送られたメールに寄れば、次回のライフマネージャーはやる気も、管理技術も人柄も今まで以上の人だからとの推薦を信じて次の人を待ちたいと思う。

2004年11月

 

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