無防備

 

師走に入って間も無いある日の午後3時過ぎに電話が鳴った。出ると女性の声で「我が社の創立20周年記念宣伝で、成人病対策にふさわしい調理の方法を教えて試食をしてもらいたい」と言う。「何が目的なんですか?」と聞くと「そんな難しいことは気にしないで、是非見て、試食をして欲しい」と言う。こちらはもう新しい調理法は聞く必要が無いし、視覚に障碍があるから全くあなたのご希望に添えないと言っても引き下がらない。ここらでガチャンと電話を切ればすむものをつい、私も少し気分的にゆとりのあるときだったのでつい、切らずに「ではその宣伝で何をしたいのか」と聞くとただ、調理を見てもらって試食をして欲しいと熱心に言う。いい加減面倒になり「じゃ、どうぞ」と言ってしまった。すると30分後に伺いますとの事で、約束通りの時間にチャイムが鳴った。今度は男性で手伝いをする女性と二人連れで来宅したと言う。電話をかけて来た女性とは全く違う人達だった。

何か荷物を沢山持ち込みテーブルと水を借りたいと言うので彼らの要求に応じた。出来た品をのせるお皿を数枚と言われそれも準備した。

 

そこから彼らのデモンストレーションが始まり先ず、スポンジケーキを作り、ほうれん草を茹で、肉ジャガ風の煮モノを作り始めた。

それらを見ながら私は「貴方達は何が目的の宣伝なのか」と何度も聞いた。だがなかなか言わなかったが、ようやく鍋セットの宣伝だと言う。私は「鍋の宣伝だったら私には必要の無いことだからもう、その調理実習は止めてお帰りください」と言った。最初から鍋の宣伝ならそのように言えば私はお断りをしていたのに何も言わずただ試食をして欲しいと約束をとり、最終的に鍋を売りたいとの本音がやっと出た。そして彼らは作った品を残して帰ったのであるが、その話を翌日の集まりの中で話した。そして皆にひどく叱られた。彼女らの中には声を荒げて私を叱る人もある。見知らぬ人を部屋に入れるなんてなんと言うことをしたのかとの叱責である。これだけ物騒な時代に私の行為はとんでもないことだと口々に叱るのである。

私は管理人のいる時間帯だしそんなに怖いと思わず来宅を許したのだがそれが甘いと散々叱られた。私の身を案じて皆さんが心配してくださる。とてもありがたいと思う。

 

在宅しているとさまざまな勧誘の電話が来る。全く関心の無いものにはすぐ切ってしまうが時には言葉のやり取りを今回のようにすることもある。折角電話をかけてくるのだから少しは話を聞いてあげても良いと思う私は警戒心の無い大甘の世間知らずなのだろうか。

2003年12月

メールはこちら

ホーム