迷子

 

少しわが身に余る望みを持った。いや、以前から少しは思っていたのだがどうも、自分には荷が勝ちすぎていると敬遠をしてきた。だが、昨年末以来、気の落ち込みをカバーするため、何か熱中することがあれば良いかと思い、その目的に向かうことにした。大したことではない。でも私にとっては難問題である。

エクセルで家計簿もどきを作ってみたいのである。音声でのエクセルは無理では無いかと忠告をしてくれる人もある。でも現実に活用して仕事に生かしている人もある。何とかやってみようと、最低限のことをメールで教わり縦欄の計算が出来るようになった。そこで次は費目欄も作って横欄の計算もして一ヶ月の費目ごとの集計を見たいと思って始めたのだが、自分流のなるべく少ない費目名を作って書き込みを始めた。これが難儀である。f欄がどんな費目にしたのかj欄がなんだったか忘れて、その度にカーソルキーで前後左右をうろつきやっと25日間を終え、もう少しで一月のトータルが出るぞとほくそえんだとたんに小計の場所に書き込んだ覚えの無い数字が鎮座ましましているのを発見した。「え、どうして?こんな数字何処から?」と私は慌てふためきカーソルでその辺を捜すのだが原因がサッパリ分からない。頭がカーッとして泣きたい思いで原因探求に勤めたが、これではいけない、少し頭を冷やそうと一応その日はエクセルを終了した。

そして考えて見る。

小計の縦欄は仕方が無いからそのままにして他の縦欄を集計して、それを横の欄として合計を出せば何とか集計が出るでは無いか?

今月はこれで満足して来月はもっと慎重に間違えないようにトライしてみよう。

その内に銀行振込で落ちる分もチェックして書き込み、完全な家計簿を作ろうと気を取り直した。

これがエクセルシートの中での迷子である。

 

それに引きかえ昨年の秋にはわが身が完全に迷子になって往生した。

JRの駅まではいろんな道がある。無精者の私は出来るだけ地下道への階段をつかわずに行きたいと思い利用する道を駅からの帰途に選んだ。少しぼんやりとしていたのか曲がった横断歩道の位置が違っていたらしく行き先に車止めのコンクリート状のものが杖の先にあり進めない。いろいろと杖で探って見るが反対側は車道で車の往来が激しい。大きな間違いはしていないらしいが進めないのである。これは仕方が無い、元に戻って出直してみようと回れ右をして歩き始めた時に声がかかった。「家へ帰りたいの?」

「ええ、でもどうやら分からなくなって」と言うと「では送ってあげるよ」とおっしゃる。そこで私、思わず「あなただーれ?」と聞いた。ナンボの暢気者の私でも見知らぬ人の車に乗ってはいけないことぐらいは承知をしている。彼は答えてくれた。それは私が毎日通る公園の出口近くに住む人で何度か言葉を交わしたことのある人だった。そこで彼の車の助手席に納まり、「助かった」と言う私に彼は危なくて見ておれんかったと言う。

無事にわが住まいの前まで送ってもらい、ほっとしたのだがそれ以来その道は怖くなりアーケードと階段のある道を通って駅へ行く事にしている。やはり何処ででも顔を売っておく必要があるなと密かに思い、出会う人となるべく言葉を交わすようにしている。

2004年2月

 

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