広場の顔

 

広場の四季

月並みな言葉だが1年の流れの速さに驚くようになった。今年の元旦は一緒に初詣に行きましょうと誘ってくださった方の好意に甘えて雪の中を歩くことから始まった。暗くて寒い中を迎えに来ていただき、いろいろとお話をしながら歩けたことはまことにあり難く嬉しかった。

これは彼の都合のつく限りの土曜日の早朝まで続いた。4月に入り彼の仕事が変わり私との散歩は無理な状態になったのと、春、夜明けが早く暖かくなり始めて私一人でも何とか公園に出かけられるようになったことで終わった。

それからの毎日何とかの一つ覚えのように都合さえつけば黙々と公園の広場を回る私にさまざまな人が声を掛けてくれるようになった。昨年までもそうだったが3年目ともなると皆さん、気安く話し掛けてくださる。どうやら私の身元も相当知られているようで話はスムーズに始まる。雨上がりのぬかるみのある日は その辺りへ私がそこへ踏みこまないように注意をして下さる。高齢の方はどうやら私が上手く歩けるかが気になって仕方が無いらしい。でもこの年齢の男性はとてもシャイで私の手を直接とると言う行動は出来ないらしく言葉で私を誘導してくれる。

 

その中でようやく、言葉だけではなくて実際に手引きをしてくれるようになった人が一人ある。

すると二人で手を繋いで歩いていると皆が冷やかす。私には見えないが出会うとニヤニヤ笑っている人もあると彼は言う。

1度きっかけが出来ると顔を会わせるとスーッと手を伸ばしてくれるようになったが、どうやら坂道にかかると息が荒くなるので総てのコースを彼と歩くのは遠慮をして又、一人で歩く。

体操が始まるまで皆、所定の場所が何となく出来、この辺りのグループは株の話、あちらのグループは戦争の思い出、等と歩きながら耳に入って来る話題もさまざまである。

そして春、夏、秋は過ぎ去り初冬にかかると私は夜明けの遅い朝は怖くて日中の穏やかな時間に公園へ出かけることになる。今度は保育園や小学生の野外学習の子供たちで広場は賑わう。

お弁当を食べたり走り回ったりそれは賑やかである。その季節が終わると公園の木々には雪囲いが始まり、広場の中も犬の散歩や孫を遊ばせるおじいちゃんおばあちゃんの姿になる。そして寒い日は私一人が黙々と歩くような日が多くなる。

こうして1年はあっという間に過ぎてもう雪の季節を迎えることになった。

公園にも朝の顔、昼の顔、季節ごとの顔が全く違って現れるのだった。

2003年11月

 

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