第2回 日時 平成6年12月15日(木) 19:30〜22:00
場所 金沢市清川町1−10 珀水サロンビル2階
今回のレポートは、第3回と合せて一つのものにする予定です。
内容の誤り、誤字などがありましたら、お知らせ下さい。
また、積極的な提言を期待しています。 文責 中谷重之(一部、HP用に中川加筆)
問題提起
「今の子供たちは忙しすぎないか?」
子供の教育は、親の責任です。
今回のテーマは他人事ではありません。私たちの責任、私たちの子供の招来を決める大切な問題です。
アイデンティティー(identity)という概念で(自己同一性=自分の独自性を認識すること)人間の成長を分析した精神心理学者エリック・エリックソンは、その学問のよってきたる動機を「未来の子供たちの為に」(For Our Children's Children)と、述べています。
私たちは、自分の責任を果たしているでしょうか?
本当に子供の教育の何たるかについて考えてきたでしょうか? 「今の子供たちは忙しすぎないか?」という問いが全てを語っているように思います。 何故、塾だ、受験だ、偏差値だ、と子供をせきたてるのでしょうか? 私たちは、子供に一体どのような人間になってほしいのでしょうか?
第2回の悠々会は、この問題意識をもとに、第一部は沢先生の「成熟化社会へ」という基調講演、第二部は当夜参加者(15名)によるいろいろな角度からの自由な教育談議でした。(そのうち外国の教育例を第三部としました。)
以下は発言内容を箇条書きにしたものです。
なお、レポート中に、★でしめされているところは次回の討論で論じたい点、☆でしめされているところは未来の討論で論じたいものです。
I 沢先生の基調講演
正義と品位に基づく成熟化社会へ
- 日本の戦後目標は、経済成長だった。
- 日本の戦後文教政策は、高学歴の良質の労働力を安く企業に提供することを目的としていた。それを主として担わされたのが、私学だった。
それが大学生の粗製濫造につながった。★
- 現代の若者は、既存の価値観からすれば、「まるでエイリアン」といった様相を呈し、新旧の生きる価値観のずれが今日の問題の根底に横たわっている。☆
- 東京オリンピック以後、快適さ指向(カラーTV・車・クーラー)、利益指向、物質的豊さだけを求める風潮に核家族化が進み、校内暴力・家庭内暴力が頻発するようになる。
- 肥大化した権利意識が先行して、義務感が不足していた。ものごとを正しく教えるためには、愛や優しいだけでは駄目で、正義感に基づく義務意識の涵養が大切だ。☆
- 高齢化、国際化、情報化、経済の高度化が始まるこれからは、品位のある「成熟化社会」がもとめられる。経済的には、京都大学の佐和教授がこの概念を使って分析をしている。 詰め込み・画一的。偏差値 → 異質・創造力
- いじめや暴力が学校にはびこるのは、必ずしも学校教育の問題でなく、大人社会の問題であり、家庭の問題である。罪の無い子供たちを教えるには、正義感と品位のある大人や家族が前提である。社会正義のためには、消費者教育が大切である。☆
危機に立つ私立大学の経営
- 18歳人口の激減が迫る。
- 進学率は高くなっているものの、現在すでに、大学の中には定員割れをおこしているところがある。大学が生徒を「選ぶ時代」から、生徒に「選ばれる時代」へ。
- 大学院まである本格的な大学と、教養のみのカレッジの二極化が進む。★
- アメリカでは二十年前かにこの問題に着手している。
- 現在認められている「臨時定員増」が平成11年にカットされる。
現在は、例)300人定員なら、350人まで認められる。
- 文部省は、経営の中に自助努力を求めて大学設置基準を緩和し「大綱化」した。
環境学部、国際学部、人間関係学部、情報学部の「環国人情」のブームが起こる。
- 結果→ 例)金沢大学教養学部がカリキュラムの組み替えで、余剰人員をかかえて四苦八苦。
- 教育学部もカットの対象になっている。
- 京都大学は総合科学部を新たにつくって、余剰人員を吸収。
- 私学助成金の減少 → 家計における教育費の増加。★
- 大学や予備校などでは(倒産しても)いつでもホテルやオフィスビルに代えられるように、準備をしているところもある。
- 福祉と教育は、資本の論理で動くものであってはならない。★
大学のあり方が高校教育の再編へ
- 石川県高校入試は選抜方法を変更 → 脱偏差値。推薦制。傾斜配点。★
- 大学進学をめぐって、高校の差別化がおこっている。親が差別化している。★
- 能登地区では、定員割れをおこしているところがある。
- 公立高校でも生き残りの話が真剣に論じられる時が来た。
II 討議
良い学校とは何か
- 東大はよい大学か? 付属や泉丘はよい高校か?
- よい学校に基準がない。
- 世間でいう良い大学とは、企業にとって「多分間に合う学生がいるだろう」と思う程度で、本当に出来る創造力のある学生を生みださない。企業にとって、どこへいけば役に立つ学生が見つけられるのか困っているのが現状だ。★
- 学校教育(理論)の評価と、企業の実際の問題解決能力に差がある。★
- 大学院卒より、高校卒の方が企業内で役に立つことも多い。
- 受験のためだけで勉強しているのではないか? 「何のために勉強するのか」を考えさせる学校であってもらいたい。目標・目的がはっきりしていない。★
- 教師、医者や弁護士のような社会の大切な地位に付く人は、一年間社会福祉施設で働いたり、NGO、海外青年協力隊にボランティア活動するというような制度を導入してほしい。★
- 子供は「大人の背を見て育つ」。学校は「社会へ出て生きる力だけ」を与えてくれればよいのではないか。
- 優しいだけの教え方は、問題だ。きびしさも必要だ。
- 健康な人のみを相手の学校制度であって、身体障害者の人には冷たい。★
教育の方針
- 教育の柱に、専門教育・一般教育・人間教育がある。☆
- 専門教育=生活の糧、就職につながる教育。学問につながる教育。
- 一般教育=計算や作文などの基礎学力。義務教育と高校普通科。ディベートの力。
- 人間教育=礼儀、しつけ、倫理、道徳。家庭教育。
- それぞれの分野でほころびが目立つ。
- 専門教育→英語を10年やっても、使い物にならない。☆
- 実際社会との乖離が大きい。☆
- 一般教育→留年制度無く、基礎学力もついていないのに、卒業してしまう。★
- 人間教育→いじめ、ゆすり、暴力の多発。☆
- どこに就職するかではなく、生活するためにはどのようなスタイルがありうるか、という視点で教育してほしい。★
学校の規則
- 生徒手帳でしばる。★
- 意味のない規則がある。制服が冬と夏で違う。天気の変化にあまり関係なく。
就職
- 日本企業は青田買いをして、大学教育の最終学年をスポイルしている。★
大学の専門教育の期間は、わずか一年しかない。★
- 卒業してから就職活動を始めるシステムを、企業家が勇気を持ってつくること。★
- 学校は企業ブランドにこだわり、学生は企業に入った後、何をしてよいか判らない。
- 大学と企業の提携がうまくいっていない。
- アルバイト先(安い、深夜)で学生は疲れて、授業に出てこない。
- アルバイト(企業研修)やボランティア活動を、単位として認める制度はつくれないか?★
大学・大学生の質
- 生徒に「これを学びたい」というものがない。
- 教育の大衆化 → 質の低下★
- 例)朝起きれないで欠席する。
- 先生に挨拶しない。
- 煙草を吸う。灰皿に捨てないでポイ捨て。
- 授業中、おしゃべりする。私語。居眠り。
- 幼稚舎からストレートで大学に上がってくる学生は出来が悪い。
- 言われたことしか出来ない学生が目立つ。自分でルール探しの出来る力がほしい。
生徒は黒板に書いてあることしか、写さない。(指示待ち症侯群)
- 試験の成績がどんなに良くても、出席が足りないと、単位があたらない。★
(大学設置基準に、出席が3分の2なければ、最終試験が受けられない制度)
- 金沢大学は教養課程から専門課程に移る際に、大量の留年が出る。2割ほど。
私立は、留年させると、授業料の安い生徒がたまるので、留年させられない。
教師
- 先生は子供のために大切な役割を担っているはずだが、現在、サラリーマン化している。のんべんだらりとやっている。★
- 十年一日のように、講義をやっている教授がいる。講義がおもしろくない。
- 子供が好きでないと駄目。自分から勉強する気がなければならない。
- 語学の教授法を勉強する必要がある。★
- 先生は終身雇用であって、教育学部を出てすぐ学校に入り、社会との交流が無い。
視野がせまい“学校村”の住民であることが問題だ。★
例)工業系の先生ならば、現場に3年ほど戻り理論と実際を体験するような制度が必要。
海外研修、国内研修はやっているが、企業との交流がない。☆
- 先生は免許制であるが、一般社会の人が、高校や中学で教えられるようにしなければ駄目。★
英語・語学
- 紙に書く英語であって、話の出来る実用英語が教えられていない。☆
- 出席100%していると、成績が悪くても単位があたる。
- 言葉は暗記しなければならない。興味がなければ覚えられない。動機付けが大切だ。☆
教育費・授業料
- 教育費は一般家庭には大問題。私学は家計にひびき、出来れば国公立に子供は行ってほしい。それには、勉強(受験技術)が出来ないと困る。★
- 東京に子供をやると、月に14万円ほど仕送りにかかる。私学入学金・授業料は百万円単位だ。
- 金沢美大 年34万円の授業料。
- 慶応は比較的安かった。多分、大学の寄付が多いのでしょう。慶応幼稚舎出身の人の寄付が多い。
大学の経営
- 別法人をつかって、ホテル経営をはじめたところがある。(早稲田、青山学院)★
- 慶応は葬儀社を運営している。
- 在籍者数の制限があり(定員の3割増しまで認められる)、私立はなるべくお金を沢山持ってきてくれる新入生を取ろうとする。★
III 外国の教育例
イギリス(日本人子弟を留学させた例)
- 英国の大学入学に、金沢で出張試験が行われた。
- 英国の大学授業料は(外国人に)4800ポンド(=約70万円)。
英国人やEC諸国の人は半額。
- 英国の子供に、月に6万円ほど仕送りにかかる。悩みは、卒業後の就職。☆
- カリキュラムが日本と違う。余裕があり、感性を大切にする。☆
ドイツ(日本人男生とドイツ人女性の夫婦)
- 州立大学ばかりで、授業料がいらない。登録料(在学証明)だけでよい。☆
外国人の場合は、健康保険料がいる。しかし、大変に安い。
外国人学生の割合は、定員の10%だったが、今は6%に減少された。スイスあたりからの学生は、物価(特に住居費)の安いドイツに来たがる。
- 多くのドイツ人が大学へ行くようになった。しかし、日本人と違って、目的をもって入ってくるから、大学で何を身につけるかが問題、授業形態も大変違う。★
どの先生に習うかが大事で、どの大学に入るかは問題ではない。★
ゼミなどは議論の場で、自己主張が強くないと駄目。☆
- 大学生で留年が多く、大学卒業にかかる年数が4年とは限らない。ただ、以前は無制限に大学におられたが、最近は12年までとなった。
- 医学部、工学部、芸術学部入学には特別試験があるが、普通は高校卒業資格(アビトゥーアは各高校で実施)で誰でも入学できる。だから、塾が無い。定年後に大学に入ってくる人もいる。☆
- 一つの町に一つの大学しかないから、大学生の数がべらぼうに多い。
- 兵役が義務の国なので、大学へ入る前に、あるいは卒業後、法学専攻志望の生徒は憲兵隊へ、医学専攻志望の生徒は赤十字へ、良心的兵役拒否の人は赤十字または身体障害者の施設に行く。
- 人種差別のいじめの例が多い。☆
- ドルトムントでドイツ全体の大学生の在籍集計登録をしている。☆
- 語学試験で3度落第すると、一般試験で2度落第すると、ドイツ全体の大学から抹消される。
スイス(ジュネーヴの高校教師)
- 4歳から幼稚園、6歳から義務教育(小学6年、中学3年)が始まる。
15歳頃に学業成績によって、出来の良くない70%の生徒は職業系の学校に行く。
出来の良い生徒は高校4年行って卒業出来れば、誰でも大学に入れる。★
- 大学は皆同じレベル、有名な大学が無い。学費は安い。(登録料だけ)。
- 生徒のレベルが下がってきた。☆
- ドイツ、オーストリア、スイスは同じような教育のシステム。
- 超エリートの外国人学校はあるが、スイス人のエリートのための教育は無い。
北朝鮮(在日朝鮮人の場合)
- 日本における朝鮮学校は、幼稚園から大学まである。
- 大学 東京のみ一校。
- 高校 北海道から九州まで10数校ある。石川・北陸・中部は愛知県に行く。
- 中学・小学校は一体で一貫教育。
- 幼稚園 地方にはないが、東京・大阪にある。
- 学校へいくのは、親の意向、世間体のためもあるが、北朝鮮という国のためという大目的がある。
- 北朝鮮が認可。学校教育は無償(国と親からの援助)。言葉の教育から始まり、歴史の教育、政治体制の違いの教育。
- 日本国は専門学校とみなし、同等の教育水準とは認めていない。★
- 日本の中で差別され、就職機会が与えられていない。★
できればあなたの意見を聞かせて下さい。
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