ウラル=アルタイ語族


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ウラル=アルタイ語族

ウラル諸言語(フィンランド語・エストニア語・ハンガリー語・ユラーク語など)とアルタイ諸言語(トルコ語・蒙古語・満州語など)とのあいだに、音韻的・形態的類似が認められるため、これらを総括してウラル=アルタイ語族という名称が用いられたこともあるが、まだこの関係は学問的に証明されてはいない。

徳永康元

ウラル語族

この語族に属する諸言語は次のとおりである。(かっこ内は自称)

[フィン=ウゴル語派]
フィン派
(1)ジュリェーン(コミ)語
(2)ボチャーク(ウドムルト)語
(3)チェレミス(マリ)語
ウゴル派
(1)ハンガリー(マジャル)語
(2)ボグル(マンシ)語
(3)オスチャーク(ハンティ)語
(4)モルドビン語
(5)バルト=フィン諸語
フィンランド(スオミ)語
カレリア語
ベプセ語
ボート語
リーブ語
エストニア語
(6)ラップ(サーメ)語
[サモイェード語派]
(1)ユラーク(ネネツ)語
(2)タウギ語
(3)エニセイ=サモイェード(エネツ)語
(4)オスチャーク=サモイェード(セリクプ)語

ウラル語のうち、もっとも古い文献をもつのはハンガリー語で、ジュリェーン語(14世紀後半)・フィンランド語・エストニア語(いずれも16世紀ごろ)がこれに次ぎ、そのほかの大部分の言語は、最近まで文字をもたなかった。19世紀以来、多くの口唱民間詩が、現地で採録され、研究資料となっているが、これらの言語間には、音韻上や形態的構造の類似だけでなく、規則的な音韻対応の関係が認められ、祖語に由来すると思われる共通の単語がかなり多い。ウラル語族に属する諸言語は、音韻的・形態的にアルタイ諸言語に似ている点があるが、この関係は、学問的には明らかではない。

徳永康元

アルタイ語族

トルコ語(またはチュルク語)・蒙古語・ツングース語・満州語を総括した名称。言語学者ラムステット(フィンランド)・コトウィチ(ポーランド)・ウラジーミルツォフ(ソビエト)・ポッペ(アメリカ)らは、上記の諸言語が共通の類型的特徴をもつだけでなく、一つの共通祖語から分かれた親族関係に立つとみなしている。この説の根拠は、これらの言語の単語を比較すると音対応法則(→音韻)をかなり数多く見いだしうること、格接尾辞・語幹形成要素・代名詞・動詞活用形態において共通のものが見いだされることである。
ラムステット・ポッペは、さらに朝鮮語をもこの語族に加える。アルタイ語族説に対して、共通要素が長い時期における借用によって発生したものではないかとする学者に、ベンツィング(ドイツ)・シチェルバク(ソビエト)・クローゾン卿(イギリス)らがおり、上記言語間の数詞の合致の少ないことが、アルタイ語族説の弱点とされている。
他方、日本語とこの語族とのあいだに、もっとも密接な関係が存在すると推定される。

村山七郎

語族

言語学のうえで、系統が同じだとされる一群の言語を総称していう。すなわち、もと一つの言語であったことが、比較言語学によってたしかめられている場合、または、たぶんもと一つであったろうと思われる場合、その一群の言語をいう。そして、もとの言語を祖語という。しかし、一つの祖語が同時に多数の言語に分かれるのでなくて、一度分かれたものがさらに分かれる場合が多いので、一つの語族はたいていさらにいくつかの派に分かれる。そのそれぞれの派は語派という。たとえば、英語・ドイツ語・オランダ語・デンマーク語・スウェーデン語・ノルウェー語はインド=ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属し、ラテン語およびそれから生じたイタリア語・スペイン語・フランス語などは、インド=ヨーロッパ語族のイタリック語派に属する。

語族とは、同系であることが完全に証明されているものだけをさすべきだが、実情はかならずしもそうなっていない。語族の名でよばれるおもなものには、
インド=ヨーロッパ語族(印欧語族ともいう。ヨーロッパの大部分の言語、ヒンディー語・ペルシア語など)
セム語族(アラビア語・ヘブライ語・エチオピア語など)
ハム語族(アフリカ東北部のクシ語・ベルベル語・古代エジプト語など。セム語族と合わせてハム=セム語族ともいう)
ウラル語族(ハンガリー語・フィンランド語など)
アルタイ語族(トルコ語・モンゴル語・ツングース語・満州語など。朝鮮語さらに日本語もアルタイ語族に属するのではないかとしばしばいわれる。またウラル語族と合わせて、ウラル=アルタイ語族ともいう)
シナ=チベット語族(インドシナ語族ともいう。中国語・タイ語・チベット語・ビルマ語など)
オーストロネシア語族(南方語族ともいう。マライ語その他)などがある。
世界には、このほかにもいくつかの語族と、系統の不明な多数の言語とがある。

上村幸雄

マライ=ポリネシア語族

南島語族、オーストロネシア語族などともよばれ、西はアフリカの東のマダガスカル島から、東は南アメリカに近いイースター島にいたる、インド洋・太平洋・東南アジア・オーストラリアなどに広がる原住民族の諸言語。多くの言語があるが、ふつう次の三つに分類される。

(1)インドネシア語派 マダガスカル島の大部分の諸言語、マライシア連邦やインドネシア共和国各地におこなわれるマライ語、インドネシア共和国のジャワ語をはじめとする諸言語、南ベトナムの一部におこなわれるチャム語、フィリピン諸島のタガログ語、その他の言語、台湾の高砂語などがこれに属する。

(2)メラネシア語派 メラネシア・ミクロネシアの島々、ニューギニアの一部などの諸言語がこれに属する。オーストラリア大陸、タスマニア島などの原住民・先住民の諸言語、ニューギニア島の大部分の言語もこれに近いらしいが、はっきりした関係はわからない。

(3)ポリネシア語派 ポリネシア諸島の諸言語。北はハワイ諸島、南はニュージーランドおよびその南の島々、東はイースター島(ラバヌイ島)にいたる西南太平洋の広大な地域を占める。

オーストロネシアの諸言語は、しばしば日本語との単語の類似を問題にされるが、文法は大きく違っており、日本語との関係はいまだ不明である。

上村幸雄