ドイツと日本

<成熟した民主国家への指針>


「高度に成熟した民主主義国家」と呼ばれる国々があるようである。我が国もその中に入るのかどうか、問われれば苦しい部分がある。米国政府内でもかなり我が国へのフラストレーションが蓄積されてきているようである。「日本は外圧が無ければ変れない国なのか」即ち自己変革能力が欠落しているのでは。人間は生まれてから自己を変革しながら一人前になっていく。国もそうであろう。それを阻んでいるのは霞ケ関の官僚達による中央集権であり、それに馴らされてしまっている国民だといわれる。今まさに自己を変革し真の民主主義を達成すべき時を迎えたようである。ただ第2次大戦後、我が国では見習うべく紹介されるのは一にアメリカ、二にイギリス、その他に見習うべき外国の無きが如き感がある。

現在の中央集権、それは明治維新の廃藩置県に始る。明治維新は世界史的一面ではイギリスとフランスの代理戦争であった。文部省の教科書にはそのような記述はされていないようだが幕府軍にフランス軍将校が派遣されていたのは紛れもない事実であり、イギリスが薩長を応援し使われた兵器の主なものはアメリカの南北戦争終結後に不要となった南軍のものであった。

1867年の大政奉還、1868年の王政復古により日本は中央集権を強力に推進する。欧米列強との力の差、なかんずく軍事力の差を如何に縮め追い付き植民地化の恐れを払拭し、不平等条約を解消するためには当然であったであろう。税の大部分を国税として徴収し大蔵省の金庫を水源とし、それに繋がるパイプと末端の蛇口の間の幾つものバルブ、バルブ操作に携わる人間関係、これが中央集権の実体であろう。

同じ頃、国家統一を成し遂げ列強への仲間入りをした国がある。ドイツである。神聖ローマ帝国はフランスが抜けてからはDas Heilige Römische Reich Deutscher Nationが示すごとく、その構成国はドイツ語圏諸国であり小君主国群立時代であった。その後プロイセンを中心として結成された1833年のドイツ関税同盟は1866年の普墺戦争後オーストリア抜きの北ドイツ連邦に統合され1870〜71年の普仏戦争の結果「小ドイツ」としての帝国統一に至る。

ドイツ帝国、それは第1次大戦末の革命まで続くのであるが我が国との比較で見るとホーエンツォレルン家のプロイセンを幕府とした幕藩体制にも擬することができるかもしれない。

ドイツ帝国は、まず主権をもつ諸国家の連邦として発足し・・・外交、更には内政に関してさえも、急速に統一国家としての体裁を整えていったが、財政および行政上の主権は、ワイマール憲法の成立まで、個々の連邦諸国の手にとどまっていたのである。

そして

直接税は原則として連邦諸国に帰属し、諸国はその外に鉄道からも多大の収入を得ていた。市町村の主たる財源は地租であったが、それ以外にも二、三の国税に関して付加税を徴収していた。

1918年の革命によるワイマール共和国の設立から第2次大戦での敗戦、この間がドイツにとって唯一の中央集権の時代といえよう。そして皮肉にも最も民主的といわれたワイマール憲法下のこの中央集権の中からヒットラーの独裁政権ができあがったのである。

1948年に始った新しい西ドイツ国憲法の審議において一つの決定的役割を果たしたのは、地方公共団体の財政権の問題であった。およそ財政権に関する決定は、同時に国内における権力の配分をも決定する。・・・連邦と州と市町村の役割、またその収入はどうあるべきなのか。何よりも、連邦は大幅に州に依存すべきものか。それとも逆に州の方が中央政府に依存すべきものなのか。西欧連合国は中央の権力ができるだけ弱められることを望んでいた。特にフランスの代表者は、連邦政府の国法上の地位の強化につながる一切のものを排除しようとしていた。・・・その結果基本法第109条は次のようになった。
「連邦と州とはその財政において独立であり、相互に依存することがない」

今にして思えば、この点ドイツは幸せだったかも知れない。連合国が中央集権を終結させてくれたからである。そして日本の場合に連合国の霞ケ関解体のプログラムを狂わせたソ連のスターリニズムと、それにつらなる左翼の台頭は東西ドイツの分割の所以か順調に地方分権の道を選択しえたからである。

戦後、しばしば比較されてきた日本とドイツ。しかしそれは経済面だけだったようだ。今日、我が国の地方分権推進が声高に叫ばれ、霞ケ関官僚の反撃の噂もかまびすしいが、今ほどドイツ政治を研究すべき時はないのではないだろうか。そして自己変革能力を備えた真の「高度に成熟した民主主義国家」を実現すべきである。

引用文献
Stolper,Gustav:Deutsche Wirdschaft seit 1870
坂井 栄八郎 訳「現代ドイツ経済史」竹内書店刊


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