こだわり続けているものの一つに点字投票がある。
国勢選挙に限らず、その他の選挙でも毎回点字投票を続けている。
選挙区内での点字使用者は極めて少数派だ。
もしかすると、地域では一人かも知れない。
そんな状況で点字投票すればプライバシーが守れないと言う意見もある。
では、代筆による代理人投票ではどうだろうか。
これとて、やはりプライバシーは保護されるとは言えない。
この代理人投票を以前に一度行なったが、他人に自分の意中の候補者名を告げることに大きな抵抗を感じた記憶がある。
最近話題の電子投票は別として、疑えばきりのない話だ。
その様なことは私は全く気にしていない。
自分の手で確かに書いた、確かに投票したという実感を持ちたいから点字投票を続けているのである。
4月に行われた統一地方選挙に、今回も妻と二人で出かけた。
県議選では、花見客で賑わっていた公園の人出に比べて、玄関先で2・3人にすれ違っただけで閑散としていたが、その後の市議選では多数の人が足を運んでいる様子だった。
受付で入場整理券を提示して点字投票であることを継げる。
「準備しますから暫くお待ちください」との声。
顔を左右に回し、会場内の音に耳をすませてみた。
入場者の会話や移動の足音などから記入所や投票箱の位置関係、会場の広さなどをある程度把握することができる。
「お待たせいたしました。えっと どのようにしたら良いでしょうか」と誘導方法を尋ねてくる。視覚障害者のサポートは初めてのようである。
戸惑っている彼女の様子がうかがえる。
無理もないだろう。それほどまでに視角障害者、なかんずく、点字投票者が少ないとも言える。
では、右肘をお借りしますといって彼女の腕に軽く触れながら移動する。
10歩ほど移動したところで「こちらに椅子があります」と案内される。
座って前を確認すると記入用の机がある。
記入所では誘導係の女性のほかに、関係者と思われる男性2名が立ち会っていた。
点字の立候補者一覧をお願いしますと言うとあらかじめ準備していたようで、「ハイ、こちらにあります」「2枚になっています」と机の上に点字で書かれたリストが提出された。
私の中では意中の人は既に決まっていたが点字のリストを一通り確認した。
1枚の用紙に6名程度の候補者が記載されていた。
1行中に立候補者名と所属党派名だけが記載されている。
それ以外は何のデータも無い。
一般者も同様なのだろうか。
また、参院比例区などのように名簿登録者や立候補者が多数の場合では、この点字リストは何枚になるのだろうか。
一瞬、数十枚の点字リストを指でなぞっている姿が頭をかすめた。
リストを一通り読んでみる。当然ながら点字ミスなどは見あたらなかった。
が、1箇所、こんな例があった。名前が全部大文字で書かれている。「電車」が「でんしや」のようにである。
これは点字ミスではありませんか?と尋ねてみた。
担当者が慌てて選管に確認している。しばらくして、「候補者から大文字で(でんしや)と届出されています」との話。
何とまぎらわしい。確認は取らなかったが、点字表記はどちらでも良いということだろう。
ハイ、分かりました。投票用紙と点字機をお願いしますと言うと、点字板と投票用紙が直ちに準備された。
ここまでは驚くほど準備ができている。
まるで私の来場を待っていたかのような手際の良さである。
もしかすると、こちらの区域では点字投票者があるというデータが関係者に伝達されているのかも…などと思ったりもする。
投票用紙を手に取ってから係員に用紙の上下と表裏を確認する。
用紙を縦に持ちながら「こちらが記入面で、上下はこのままでいいですね」と確認すると「はい、上が記入面ですからそれで結構です」との返事。
点字では裏面から打って表側に点字が出ますから用紙は表裏が反対ですねと確認して記入面を下にして点字板にセットした。
かなり以前の話だが、この裏表を確認せずに関係者がセットした状態で書いてしまった後で、点字では裏面に打ち出されると言う理屈が立会人に判り、書き直したという笑うに笑えない体験がある。
彼等の多くは点字というものの知識は少ないようである。
点字は右から左の方向に書きますが、これでいいですかと確認すると、「それでは用紙を横にしてください」というので用紙を直す。
どうやら、所定の記入欄というものがあるらしい。
点筆「てんぴつ」を持って名前を書こうとするが何だか変である。点筆を入れる枠が見当たらないのだ。
点字板の裏表が逆になっていたのだ。用紙をセットする時に点字板を確認しなかった私が悪いのだが…
慎重に意中の人の名前を1点ずつ確認しながら打っていった。
使い慣れた自分の点字機と違って、投票場に準備してある点字機は実に扱いにくい。
点筆も細いし点字板の枠や点字穴が小さくて非常に判断しずらいのだ。
点を打っても打った感覚が弱くて点が出たかどうかがわかりにくい。
何度も点筆でなぞって確認することになる。
ずっと以前に、このようなことが原因で、点字ミスのため何度か書き直した苦い経験もある。
書き終えてから裏返して読み返すと名前になっていない。点字を打ちまちがえている。
立会人にその旨を伝えてから書き直したのだが、あの時の投票は有効票とされたのだろうか。
もしも無効票とされていたのなら実に情けない話である。
読み直して正しく欠かれていることを確認するまでは非常に不安なのである。
「後日談ではあるが、視覚障害者mlで、この点字投票が話題になった。
結論としては、点字投票では表でも裏でも枠外でも、どこに点字を書いても有効とされるということだった。」
打ち終わってから投票用紙を裏返して、今一度名前を指でなぞってみた。うん、まちがいない。正しく名前が○○○○と出ている。
まちがいありません。二つ折りにしますかと尋ねると、「ハイ、二つに折ってください」と言うので、「縦ですか、横ですか」と尋ねると「縦にしてください」とのことだったので、点字がつぶれない程度に長軸に二つに軽く折りたたんだ。
いろいろと細かい決まりのようなものがあるらしい。
では、投票箱にお願いしますと言うと女性の係員が再び案内してくれた。
5・6歩の所に投票箱があり、「投票口はこちらです」と係員が私の手を持って示してくれた。
この時点となって、彼女も視覚障害者に対する誘導法を少し理解できた様子でうれしかった。
左手で投票口を確認しながら、上から軽く押すと投票用紙は吸い込まれるように落ちていった。
こうして、多少のトラブルも合ったが清き1票を無事に投票することができたのである。