好天に誘われて、何年ぶりかでなべ祭りに出かけてみた。
昨年に続き、駅前商店街での4会場分散型なので、車の持たない私たちでも出やすいということもある。
「中学校前から乗ると電車が無料だよ」と聞いていたので、なべチケット一枚分を浮かそうなどと、あさましい考えで先を急ぐ。
電停には既に10人ほどの待ち人があり、係員と思われる男女が、チケットを確認しながら気ぜわしそうに誘導している。
パーク&ライト方式とかで、近くの駐車場に車を止めた家族連れが、こちらから市電に乗り込むようで、いつもは空席ばかりが目立つ万葉線も、すし詰め状態だ。
ゴーゴー ガタンガタンと騒々しく感じる電車の機動音さえも、この日ばかりは、うれしい悲鳴をあげているように聞こえる。
電車のつり革につかまりながら、以前に出かけた花火大会での満員バスを思い出していた。
通常なら10分余りで着くところを、1時間以上も揺られていたことが昨日のことのように思い出される。
シチューなべ、カニなべ、ごっつぉなべと、3会場を食べ歩きしたのだが、いずれのなべも、人・人・人の長蛇の列である。
イベントとなると、ましてやそれが食べ物となると、これ程の賑わいかと、我が身を省みずに感嘆していた。
なべ担当の若いアンチャンの声がまた、実に威勢がいい。祭りには、やはり活気が必要だ。
先ずは、駅前のシチューなべから攻めることにした。人の流れに任せて、どんどんと進んでいく。
やがて、前方のなべ会場と思われる方向から、シチューの美味しそうな匂いが漂って来る。
いやが応でも、腹の虫が鳴るというものだ。
「チケット売り場は何処?」と妻がきょろきょろ探してみるが、なかなか見つからない。
「探す」事は、弱視の妻には難題の一つである。
探し当てないままに、なべ売場まで出てしまっていた。どうやら、途中で見過ごしたようである。
売り声を頼りに20・30メートル程もどった所に、ようやくチケット売り場を見つける。
なべ券は3会場の共通券との事で、6枚を一挙購入して、再度シチュー鍋へと急ぐ。
相変わらずの行列だったが、手際が良いとみえて、10分ほどでシチューなべを手にする事ができた。
発泡スチロール製の器は不満だが、5万食の消費と、一杯が200円では文句は言えないだろう。
熱々のシチューを立ち食いする。祭りの雰囲気はともかくも、なべの味は、それほど期待していなかったのだが、「う、うまい」 ホタテなども入っていて、結構いける味なのだ。
「家で食べるシチューよりも美味しい」と、家内共々納得して無言で箸を動かす。
続いて、カニなべ会場へ。シチューが以外と美味しかったので、カニ鍋にも期待が高まると言うものだ。
途中に、ぜんざいなども店を出していたが、大事の前の小事。これには目もくれずに先を急ぐ。
なべ祭りに出たのは数年ぶりだから、目的は、あくまで「なべ」に有るのである。
カニなべコーナーも行列。醤油の香りの中を10分ほど並んでカニなべを頂いた。
外で立ち食いするなべは実に美味しい。祭りの雰囲気と大勢の人の気が、なべの味を引き立たせているのだろう。
カニの身も結構入っていたのだが、醤油味のそれは、日頃から薄味に慣れている者には、少し濃過ぎたように感じたが、どうだろうか。
欲張って、汁も残さず飲んだ事もあり、三つ目の「ごっつぉ鍋」では、勢いで飲み込んでいた。ごっつぉ鍋を最初に食べるべきだったと反省する事しきりである。
後ろに並んでいた御婦人から「これ もういらなくなったから使ってちょうだい」とチケットを譲られる。
既に満腹状態であったが、せっかく出てきたのだから、あわよくば、もう一杯ぐらいという、食い意地の張った腹の虫におされて受け取っていた。
だが結局、このチケットは使わずじまいであった。