公園デビュー

もう5年にも、なるだろうか? 僕の足で30分程の所にある古城公園まで、杖を頼りに散歩する事が、一日の始まりとなっている。

僅かに30分の距離だが、中途失明で、土地勘の無い僕には大変なことであり、無事に往復できるようになるまでに一夏の期間を要した。

最初は、町内の入り口まで。次は信号まで。更に、あそこの角のお店までと、自分なりの目印を作りながら頭に地図を描いていく。 これの繰り返しで、少しずつ行動範囲を広げていくのである。

勘の良い人は、耳に入る様々な音や風の具合、空気の流れや、果ては匂いまでもをキャッチして、五感をフルに活用させて事もなく歩くようだが、僕にはそんな芸当はできません。 杖で目印を一つ一つ確かめながら、足裏で道路具合を一歩一歩確認しながら歩いています。

いつもの目印を見失ったりすると、もう、頭ん中はパニック状態!方向感覚を無くして、直ぐに迷子状態になってしまうのです。

5分・10分と辺りをさまよったあげく、やっとの思いで目印が見つかった時、何のことは無い、そこが我が家の真ん前!だったって事もあります。

こうして、苦労の末に、やっと辿り着いた公園に第一歩を記した時、少し大げさですが、ある種の達成感を感じたものです。

健常者にとっては何でもない歩くという事が、僕には大変な喜びなのです。 時として、自由に歩いてみたい、おもいっきり走ってみたい。という衝動にかられる事すらあるのです。

健康志向の今、早朝の公園は大勢の人で賑わっています。ウオーキングを楽しむ御夫婦。愛犬連れのおじさん、仲間連れの奥様方、ラジオ体操のグループ… そんな中を僕も、気分だけは、爽やかに、ゆったりと歩いています。


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