奥様・お手をどうぞ

1998年10月

映画 シャル ウィー ダンスの大ヒットもあり、巷では不景気をよそにダンスサークルが盛況で老若男女に関わらず  にわかダンサーで溢れているとか。

斯く言う私も 誘われるがままにダンス教室に通い始めて早くも数年。 練習日が、せいぜいで月に一度と言うこともあり、パソコン同様なかなか進歩の見られない日々が続いています。

見えない私がどのようにして踊っているのか。それはもう、はたから見れば、さぞかし滑稽なものにちがいありません。

ブルースにジルバ・ワルツにルンバと華麗なステップをふんでいる。 と言いたいところですが、見る人が見れば、華麗ではなくて「加齢」なるステップでしょう。

さながら、盆踊りか柔道の乱取り、もしかすると、相撲と勘違いされるかも… とにかく月2一度、あるいは数ヶ月に一度、心地良い汗を冷や汗を流しているというわけです。

ダンスは、ただ単にステップを覚えれば踊れるというものではない訳ですから、見て真似ることのできない私達には「踊る」ことは至難の業です。

「右足を一歩前へ、左足を下げて…左手をもっと上げて、背筋を伸ばして…顔が下を向いているよ、膝をもっと柔らかく…」講師の先生から一つ一つの動作に指示をいただき、文字通り手取り足とりで教えてもらっています。

ダンスと言っても、ブルース ジルバ ワルツ タンゴ マンボ ルンバ チャチャチャ…とずいぶん種類も多くあります。 ではここで、その中で最も簡単なブルースのステップを紹介します。

このステップがマスターできたならば、あなたはもう壁際の華、お皿の上のパセリにならずにすむことでしょう!

ブルースは1分間に60拍程のゆったりした感じの曲です。歌謡曲にも何とかブルースがありますよね。

ブルースに限らず、ダンスのステップの基本はリズムに合わせて(歩く)ことです。

男性は必ず左足から 左 右 左 右…女性は必ず右足から 右 左 右 左…となり、同じ足が連続することは基本ではまずありません。

ブルースのリズムは、スロー スロー クイック クイック スロー スロー クイック クイック、1 2 3 4 1 2 3 4 です。

まず最初のスロー スロー クイック クイックのステップは、男性は左足から、 左 右 左 右と 前に歩きます。女性は逆に右足から、右 左 右 左 と後ろに下がります。

次のスロー スロー クイック クイックでは、男性は左足から下がり、女性は右足から前に歩きます。

歩くと言っても体操のように膝を深く曲げてはいけません。必ずスリ足ぎみに歩いて下さい。

また、歩幅は スロー スローでは普通に歩く歩幅で、クイッククイックでは、その場で足踏みする気持ちで、4拍目のクイックでは両足を軽く揃えます。

どうです、簡単でしょう。前後に4拍ずつ歩けばいいのですから。

私達視覚障害者はどうしても運動不足になりがちです。ダンスに限らず自分の好きな音楽に合わせて体を動かす事は、運動不足解消と気分のリフレッシュにつながります。

パソコンばかりを相手にしていてはいけません。 キーボードを叩いたりマウスを持つその手を時々は異性の手に持ち替えましょう。 まぁ、あまり難しく考えずに音楽にあわせてリズムに合わせて楽しく踊ることが一番です。

このステップがマスター出来たら次にステップアップしましょう。 単に前後に歩くだけではつまらないのでステップに変化を付けます。

スロー スローは同じですが、3拍目のクイックで男性の左足を半歩前へ出すと同時に進行方向の右側に約90度体の向きを変えます。4拍目のクイックで右足を左足に揃えます。

従って女性も3拍目のクイックでは右足を半歩下げると同時に回転して向きを変えて4拍目で揃えます。

次のスロー スロー クイッククイックでも3拍目のクイックでは、男性は左足を半歩下げると同時に 今度は左側に約45度回転して向きを変えます。

女性も3拍目のクイックでは右足を半歩前へ出すと同時に左に少し向きを変えます。 前進するときには大きく、下がるときには少し小さめに回転することになります。

このように、3拍目のクイックにアクセントをつけて前後に繰り返し踊ると、全体としては、反時計回りにウエーブをつけながら移動する形になり、美しく見えます。

以上がブルースの最も基本的なパターンです。

文章でダンスなどの動きを説明することはなかなか難しいですね。 ダンスでもつれる足捌きと同様に頭の方も大分もつれてしまいました。

先日、約3ヶ月ぶりに踊ったのですが、頭の中はほとんどエスケープ状態で音楽を聴いてもステップがなかなか出てきませんでした。やはり、パソコン同様日々のたゆまぬ努力が必要ということでしょうか。

踊る前の男女の姿勢ですが、それぞれの右胸が軽く接触する間隔で正対し、両足を軽く肩幅ほど開いて立ちます。 つまり、それぞれの足の間に相手の右足先が入る感じになります。

次に手ですが、男性の左腕(女性は右)腕を横に水平に伸ばした状態から肘を直角よりやや開いた程度に曲げ、男性は女性の手を軽く握る感じで保持します。 この時、女性の手指は軽く揃え伸ばした状態です。

次に男性の右手ですが、女性の左肩胛骨の下あたりに指先を揃えて手を当てます。 女性は左手を軽く伸ばし、男性の右肩に手のひらを当てるように置きます。女性の腕の方が男性の腕の上になります。

顔はまっすぐ前に向き、素敵な相手でしたらお互いに見つめ合って微笑むも良し、そうでない時には……

また、左右の肘や手が下がらないように心がけて下さい。 遠慮のあまり、二人の間隔を開けすぎてはいけません。親しみを持って寄り添いましょう。 以上が基本姿勢ですが、腕や上半身などに余分な力が入らないように、また、背筋を伸ばし リラックスして下さい。

ダンスは姿勢がいちばん肝心です。初心者はどうしても先に説明したステップが気になり、顔が下を向き背筋が曲がってしまいます。姿勢が美しければ、たとえステップが多少まちがっていてもダンスはきれいに見えるものですからまずは基本姿勢をしっかり身につけましょう。

このように書いてくると、いかにもスムーズに軽やかに優雅に踊っているかのようですが、実態は文頭に示した内容なのです。講釈ばかり、口ばかりが軽やかで、肝心の足の方がなかなか動かないのが実態です。

ダンスは男性が女性をリードする事がマナーですから、男性は前後左右にステップを移動する際には、予め手の動きでその進行方向を女性に伝え、ステップがスムーズに進むように心掛ける必要があります。 男性は責任重大なのです。

ところが、ステップさえ自由に踏めないので女性のリードまで気が回りません。

左に進もうとすると彼女は右に行ってしまうし、前に出ようとすると彼女のほうも前進してぶつかりそうになるし、回転させようとしても牛のように「レディーを牛にたとえてはいけませんね・失礼」重くて動かないし、ステップがもつれあって、足を踏んだり、お返しを頂戴したり…

それはもう、楽しいような苦しいような一日なのです。


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